【R18】亡国の聖女は、魔王の最愛になりました。

白木ゆか

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第14話 魔王の理由

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夜更け、寝室の扉が静かに開いた。

ミレイアは、灯りを落としたままベッドに腰掛けていた。防衛体制に入ってから、夜は浅い。眠ろうとしても、思考が先に動いてしまう。

足音が止まる。

「起きていたか」

低い声だった。近すぎない距離で、アシュレイが立っている。

「……はい」

ミレイアは頷いた。理由もなく、声は少しだけ小さくなる。

アシュレイはソファに向かうかと思いきや、今日は椅子を引いた。ベッド脇に腰を下ろし、肘を膝に置く。灯りは点けない。影の中で、輪郭だけが見える。

「防衛体制に入った」

報告のように言う。

「驚かせたなら、すまない」

ミレイアは首を振った。

「……聞いていました」

短い沈黙が落ちる。城は動いているはずなのに、この部屋だけが切り離されたように静かだ。

ミレイアは、少しだけ間を取ってから口を開いた。

「……戦うんですか」

問いは、責める調子ではなかった。

アシュレイはすぐに答えない。視線を落とし、言葉を選ぶ。

「あぁ。だが、人間を滅ぼしたいわけではない」

はっきりした否定だった。
ミレイアはこれまで魔王軍がなぜ進軍してくるのか、理由を考えたことすらなかった。

「では、なぜ……」

「勢力圏の調整が目的だ」

「……調整」

「拡がりすぎた領域を、押し返す。魔族と魔物が生きられる線まで」

声は淡々としている。怒りも、熱もない。

「聖女制度も、乱用され過ぎだ。今回の進軍目的、その一つだ」

ミレイアの指先が、布を掴む。

「……私も、ですか」

アシュレイは否定も肯定もしなかった。

一拍置く。

「だが、君を単に制度を止めるための道具として扱うつもりはない」

ミレイアは顔を上げた。影の中の瞳が、こちらを見ている。押し付けるような視線ではない。ただ、逃げ道を残している。

「……人間から見れば」

言葉を選びながら続ける。

「あなたは、悪です」

「承知している」

即答だった。

「恐れられる役は、必要だ」

「……だから、私を」

言いかけて止まる。

アシュレイは遮らない。

「利用している、と言われれば否定はできない」

静かな声だった。

「だが、選択を奪う気はない」

ミレイアは、しばらく黙っていた。

「……ここに来てから」

ようやく言葉が出る。

「私は、何も求められていません」

アシュレイは動かない。

「祈れとも、救えとも」

ミレイアは視線を落とす。

「それが……分からなくて」

沈黙が、肯定の代わりに続く。

「役割がなければ、不安になるか」

問いは、静かだった。

「……少し」

正直な答えだった。

「だけど」

ミレイアは息を吸う。

「戻りたいとは、思いません」

言葉にした瞬間、胸が軽くなる。

アシュレイは、すぐには反応しなかった。しばらくして、低く言う。

「それでいい」

短い言葉だった。

「もう少し……必要な状況が作れたら解放する。だから、ここでは、役割ではない今後の生き方を選べ」

命令ではない。

ミレイアは、布の端を握ったまま、ふと口を開く。

「……今日は、忙しかったんですか」

問いは、思ったより柔らかくなった。

「少しな」

それだけ答えて、アシュレイは視線を逸らす。

「……寂しかったです」

自分でも驚くほど、素直な声だった。

一瞬、空気が止まる。

アシュレイは小さく息を吐いた。

「そうか」

それ以上、何も言わない。

だが、立ち上がらない。

椅子に座ったまま、距離を保ち続ける。

その沈黙が、拒絶ではないことを、ミレイアは感じ取った。

「……今日は」

小さく言う。

「ここに、いてくれますか」

アシュレイは、少しだけ考える素振りを見せてから頷いた。

「眠るまでなら」

それで十分だった。

ミレイアは横になり、目を閉じる。
世界の理由は、まだ複雑だ。戦争も、恐怖も、消えない。

それでも今夜は、同じ空間に誰かがいる。

その事実が、静かに心を支えていた。
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