【R18】亡国の聖女は、魔王の最愛になりました。

白木ゆか

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第15話 亡国の理由

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寝室の灯りは落とされたまま、外の気配だけが薄く伝わってくる。アシュレイは椅子に腰掛け、ミレイアはベッドに横になっていた。互いに距離は保たれているが、沈黙は張りつめていない。

しばらくして、アシュレイが低く口を開いた。

「……君のいた国を、滅ぼした理由だが」

ミレイアは目を閉じたまま、続きを待った。逃げたいとは思わない。

「神殿は、象徴だった」

短く言って、間を置く。

「位置も、だ。あの場所には、元々魔族の都市があった」

ミレイアは、ゆっくりと呼吸する。

「滅ぼされ、人間が居座った。神殿を建て、聖域と呼び始めた」

声に感情は乗らない。事実を積み上げる語り口だ。

「象徴を壊さなければ、線は引けない」

それだけ言って、アシュレイは言葉を切った。

沈黙が落ちる。

「……すまない」

少し遅れて、そう続ける。

「君に聞かせるべき話ではなかった」

ミレイアは、目を開けた。天井を見つめたまま、首を横に振る。

「いいえ」

声は、思ったよりも落ち着いていた。

「……私も」

一度、言葉を探す。

「早く、滅びてほしいと……思っていました」

アシュレイの動きが止まる。だが、遮らない。

ミレイアは、ゆっくりと言葉を継いだ。

「神殿にいると……毎日、数字を数えられました」

誰がどれだけ祈れたか。
どれだけ力を使えたか。

「祈れない日は、意味がないって……」

声が、少しだけ掠れる。

「役に立たないなら、次がいる、って」

言葉は淡々としている。感情を乗せると、崩れてしまいそうだった。

アシュレイは、何も言わずに聞いている。相槌も、急かしもしない。ただ、そこにいる。

「……聖女なのに」

ミレイアは、指先を布に沈める。

「人を助けたい、って……思えなくなっていきました」

祈りの言葉は口から出る。
だが、意味は伴わない。

「それでも、やめることは許されませんでした」

一つ話すたびに、胸の奥が軽くなる。

「だから……滅びたと聞いたとき」

言葉が止まる。

「……怖かったです。でも……」

小さく、息を吐く。

「少し、安心もしました」

アシュレイは、そこで初めて低く相槌を打った。

「……そうか」

それ以上、評価はしない。

「君がそう思ったことを、否定するつもりはない」

ミレイアは、目を閉じる。

「誰にも、言えませんでした」

「今は?」

「……今は」

答えに迷って、正直に言う。

「聞いてもらえました」

アシュレイは、わずかに視線を伏せた。

「それでいい」

短い言葉だった。

「神殿は、象徴だった」

それ以上は続けず、アシュレイは視線を落とした。

ミレイアは、何も返さなかった。
返す言葉が、必要ない気がした。

静かな夜が、二人の間に続く。

過去は消えない。
理由も、正しさも、簡単には整理できない。

それでも――

語っても、拒まれなかった。

その事実だけが、確かにそこにあった。
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