【R18】亡国の聖女は、魔王の最愛になりました。

白木ゆか

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第19話 優しい時間

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夜、久しぶりに寝室の扉が静かに開いた。

足音は抑えられている。ミレイアは、すぐに気配に気づいたが、起き上がらなかった。アシュレイは灯りを強くせず、いつものように室内に入ってくる。

「起きていたか」

「はい」

短い応答だけで、十分だった。

椅子に腰を下ろす気配がしてから、しばらく沈黙が続く。ミレイアは、昼間のことを思い出していた。

「……今日、四天王の皆さんが来て」

アシュレイが、こちらを見る。

「四人目の話になりました」

それだけ言うと、ミレイアは続きを待った。
アシュレイは、少しだけ考えるように視線を外し、曖昧に微笑んだ。

「そうか」

声には、特別な重みはない。

「三大魔族でいいのでは、という話も出たな」

どこか遠くを見るような目だった。

「数を揃える意味があるのか、という議論もした」

言いながら、小さく息を吐く。

「……要らない議論だった」

ミレイアは、その横顔を見た。

あの三人を思い浮かべる。
それぞれ勝手で、言いたいことを言って、引く気もない。

話をまとめる役を引き受けてきたのだとしたら――
きっと、楽ではなかっただろう。

「大変だったんですね」

ぽつりと漏れる。

アシュレイは、否定もしなかった。

「慣れている」

そう言ってから、少し間を置く。

「……慣れてしまった、と言うべきか」

それきり、言葉は続かなかった。

アシュレイは立ち上がり、ベッドの脇に来る。
ミレイアの髪に、そっと指が触れた。

撫でる、というより、確かめるような動きだった。

「ミレイア」

低く、静かな声。

「四人目になってみるか?」

冗談とも、本気ともつかない調子だった。

ミレイアは、一瞬きょとんとしてから、思わず笑ってしまう。

「……そんな、簡単に決めるものなんですか」

「必要なら、そうする」

あっさりとした答え。

その適当さに、ミレイアは理由のようなものを感じた。

役割が先にあって、人がはめ込まれるのではない。
人がいて、必要なら名前がつく。

それが、この城のやり方なのだと。

「……ふふ」

曖昧な笑みが、こぼれる。

アシュレイは、その表情を見て、ほんの一瞬だけ目を見張った。
驚いたようにも見えたが、すぐに表情は緩む。

「無理に決める話ではない」

指が、髪から離れる。

「元気そうだな。今日は、それだけだ」

ミレイアは、頷いた。

「はい」

アシュレイは椅子に戻り、いつもの距離を保つ。
灯りはそのまま、夜は静かに続く。

ミレイアは、目を閉じる前に思う。

居心地の良さは、約束されているからではない。
選ばされないからでもない。

ただ、決めすぎない場所だからだ。

その感覚を胸に残したまま、
ミレイアは、ゆっくりと眠りに落ちていった。
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