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第20話 魔王の決断
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城の中枢に近い会議室は、いつもより静かだった。
長机の周囲に、三人が集まっている。リリスは腕を組み、セルフィは椅子の背にもたれ、ガルドは立ったまま動かない。誰も雑談を始めないのは、呼び出しの理由を察しているからだった。
アシュレイは、机の上に地図を広げている。指先で境界線をなぞり、しばらく何も言わなかった。
「進軍は、ここまでだ」
低い声が落ちる。
三人の視線が、地図に集まる。
「これ以上進めば、こちらの消耗が大きい。補給も、兵も、維持できなくなる」
それは、誰もが分かっていたことだった。だが、口に出されると重みが違う。
「とはいえ」
アシュレイは指を止める。
「このまま引けば、人間側は納得しない」
セルフィが、軽く息を吐いた。
「まあ、そうだろうね。『魔王軍が疲れたから引いた』なんて、信じるわけがない」
「理由が要る、ってことね」
リリスが、眉をひそめる。
アシュレイは、頷いた。
「倒された、という形を取る」
一瞬、空気が止まった。
ガルドが、低く言う。
「……敗北を装う、ということですか」
「そうだ」
言い切りだった。
「人間側が安心する理由が必要だ。勝った、という実感がなければ、戦は終わらない」
セルフィが、少しだけ真顔になる。
「派手にやる気?」
「必要な範囲で」
アシュレイは、淡々と答える。
「こちらが負けたと信じられる程度には」
リリスは、舌打ちをするように息を吐いた。
「随分と思い切ったことを言うじゃない」
「他に、消耗を抑える手はない」
反論は、それ以上続かなかった。
三人とも、渋い顔をしている。
だが、否定はしない。
ガルドが、短く頷く。
「命令とあらば」
「準備はするよ」
セルフィも続く。
リリスは、腕を組んだまま、しばらく黙っていたが、やがて肩をすくめた。
「……分かったわよ」
そこで、セルフィがふと思い出したように言う。
「で」
視線が、アシュレイに向く。
「聖女様は、人間側に返すの?」
室内の空気が、わずかに変わった。
アシュレイは、間を置かなかった。
「そうだ」
決定事項として、告げる声だった。
「倒された形を取る以上、捕らえていた象徴も手放す」
ガルドが、黙って一礼する。
「承知しました」
セルフィも、軽く頭を下げる。
「了解」
リリスだけが、すぐには動かなかった。
「……本当に、それでいいのね」
アシュレイは、視線を逸らさない。
「必要なことだ」
その一言で、話は終わった。
三人は、揃って一歩引く。
恭順の姿勢だった。
だが、扉に向かいかけたところで、リリスが振り返る。
「言っとくけど」
口調は、いつもより強い。
「あとから後悔しても、知らないからね」
セルフィも、苦笑しながら頷く。
「ほんと。私たちは止めたって、言わせてもらうよ」
アシュレイは、何も答えなかった。
ただ、地図の上に置いた指を離し、静かに畳む。
三人は、それ以上何も言わず、部屋を出ていった。
会議室に残ったのは、アシュレイ一人だけだった。
「倒されたふり、か」
誰に聞かせるでもなく、呟く。
それが、手放す覚悟だと分かっていても、
他に選べる道はなかった。
灯りの下で、アシュレイはしばらく動かなかった。
長机の周囲に、三人が集まっている。リリスは腕を組み、セルフィは椅子の背にもたれ、ガルドは立ったまま動かない。誰も雑談を始めないのは、呼び出しの理由を察しているからだった。
アシュレイは、机の上に地図を広げている。指先で境界線をなぞり、しばらく何も言わなかった。
「進軍は、ここまでだ」
低い声が落ちる。
三人の視線が、地図に集まる。
「これ以上進めば、こちらの消耗が大きい。補給も、兵も、維持できなくなる」
それは、誰もが分かっていたことだった。だが、口に出されると重みが違う。
「とはいえ」
アシュレイは指を止める。
「このまま引けば、人間側は納得しない」
セルフィが、軽く息を吐いた。
「まあ、そうだろうね。『魔王軍が疲れたから引いた』なんて、信じるわけがない」
「理由が要る、ってことね」
リリスが、眉をひそめる。
アシュレイは、頷いた。
「倒された、という形を取る」
一瞬、空気が止まった。
ガルドが、低く言う。
「……敗北を装う、ということですか」
「そうだ」
言い切りだった。
「人間側が安心する理由が必要だ。勝った、という実感がなければ、戦は終わらない」
セルフィが、少しだけ真顔になる。
「派手にやる気?」
「必要な範囲で」
アシュレイは、淡々と答える。
「こちらが負けたと信じられる程度には」
リリスは、舌打ちをするように息を吐いた。
「随分と思い切ったことを言うじゃない」
「他に、消耗を抑える手はない」
反論は、それ以上続かなかった。
三人とも、渋い顔をしている。
だが、否定はしない。
ガルドが、短く頷く。
「命令とあらば」
「準備はするよ」
セルフィも続く。
リリスは、腕を組んだまま、しばらく黙っていたが、やがて肩をすくめた。
「……分かったわよ」
そこで、セルフィがふと思い出したように言う。
「で」
視線が、アシュレイに向く。
「聖女様は、人間側に返すの?」
室内の空気が、わずかに変わった。
アシュレイは、間を置かなかった。
「そうだ」
決定事項として、告げる声だった。
「倒された形を取る以上、捕らえていた象徴も手放す」
ガルドが、黙って一礼する。
「承知しました」
セルフィも、軽く頭を下げる。
「了解」
リリスだけが、すぐには動かなかった。
「……本当に、それでいいのね」
アシュレイは、視線を逸らさない。
「必要なことだ」
その一言で、話は終わった。
三人は、揃って一歩引く。
恭順の姿勢だった。
だが、扉に向かいかけたところで、リリスが振り返る。
「言っとくけど」
口調は、いつもより強い。
「あとから後悔しても、知らないからね」
セルフィも、苦笑しながら頷く。
「ほんと。私たちは止めたって、言わせてもらうよ」
アシュレイは、何も答えなかった。
ただ、地図の上に置いた指を離し、静かに畳む。
三人は、それ以上何も言わず、部屋を出ていった。
会議室に残ったのは、アシュレイ一人だけだった。
「倒されたふり、か」
誰に聞かせるでもなく、呟く。
それが、手放す覚悟だと分かっていても、
他に選べる道はなかった。
灯りの下で、アシュレイはしばらく動かなかった。
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