【R18】亡国の聖女は、魔王の最愛になりました。

白木ゆか

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第20話 魔王の決断

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城の中枢に近い会議室は、いつもより静かだった。

長机の周囲に、三人が集まっている。リリスは腕を組み、セルフィは椅子の背にもたれ、ガルドは立ったまま動かない。誰も雑談を始めないのは、呼び出しの理由を察しているからだった。

アシュレイは、机の上に地図を広げている。指先で境界線をなぞり、しばらく何も言わなかった。

「進軍は、ここまでだ」

低い声が落ちる。

三人の視線が、地図に集まる。

「これ以上進めば、こちらの消耗が大きい。補給も、兵も、維持できなくなる」

それは、誰もが分かっていたことだった。だが、口に出されると重みが違う。

「とはいえ」

アシュレイは指を止める。

「このまま引けば、人間側は納得しない」

セルフィが、軽く息を吐いた。

「まあ、そうだろうね。『魔王軍が疲れたから引いた』なんて、信じるわけがない」

「理由が要る、ってことね」

リリスが、眉をひそめる。

アシュレイは、頷いた。

「倒された、という形を取る」

一瞬、空気が止まった。

ガルドが、低く言う。

「……敗北を装う、ということですか」

「そうだ」

言い切りだった。

「人間側が安心する理由が必要だ。勝った、という実感がなければ、戦は終わらない」

セルフィが、少しだけ真顔になる。

「派手にやる気?」

「必要な範囲で」

アシュレイは、淡々と答える。

「こちらが負けたと信じられる程度には」

リリスは、舌打ちをするように息を吐いた。

「随分と思い切ったことを言うじゃない」

「他に、消耗を抑える手はない」

反論は、それ以上続かなかった。

三人とも、渋い顔をしている。
だが、否定はしない。

ガルドが、短く頷く。

「命令とあらば」

「準備はするよ」

セルフィも続く。

リリスは、腕を組んだまま、しばらく黙っていたが、やがて肩をすくめた。

「……分かったわよ」

そこで、セルフィがふと思い出したように言う。

「で」

視線が、アシュレイに向く。

「聖女様は、人間側に返すの?」

室内の空気が、わずかに変わった。

アシュレイは、間を置かなかった。

「そうだ」

決定事項として、告げる声だった。

「倒された形を取る以上、捕らえていた象徴も手放す」

ガルドが、黙って一礼する。

「承知しました」

セルフィも、軽く頭を下げる。

「了解」

リリスだけが、すぐには動かなかった。

「……本当に、それでいいのね」

アシュレイは、視線を逸らさない。

「必要なことだ」

その一言で、話は終わった。

三人は、揃って一歩引く。
恭順の姿勢だった。

だが、扉に向かいかけたところで、リリスが振り返る。

「言っとくけど」

口調は、いつもより強い。

「あとから後悔しても、知らないからね」

セルフィも、苦笑しながら頷く。

「ほんと。私たちは止めたって、言わせてもらうよ」

アシュレイは、何も答えなかった。

ただ、地図の上に置いた指を離し、静かに畳む。

三人は、それ以上何も言わず、部屋を出ていった。

会議室に残ったのは、アシュレイ一人だけだった。

「倒されたふり、か」

誰に聞かせるでもなく、呟く。

それが、手放す覚悟だと分かっていても、
他に選べる道はなかった。

灯りの下で、アシュレイはしばらく動かなかった。
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