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プロローグ

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「フローライト様はとても美しくていらっしゃる」
「フローライト様はとても賢くていらっしゃる」
「フローライト様は乗馬も得意であらせられる」
「フローライト様は」
「フローライト様は」
 小さい頃から何度も何度も聞いてきた言葉だ。美しいミントグリーンの髪や澄んだレッドの瞳が絵画のようだ、美の化身のようだと持て囃し、試験で高得点を取れば理知的だ聡明だと騒ぎ立て、馬術部の大会で優勝すれば文武両道で才色兼備の王女だと美辞麗句を並べ立てられる。
 嬉しくなかった訳ではない。瞳をきらきらさせて心から褒めてくれている人の言葉ならば、私だって素直にありがとうと言って受け取った。だけど、大半は私が王女だから媚びるために言っていた。粘つくような視線が、不快に吊り上がった口端が、それを物語っていた。
 そして、そういう輩は決まってこう言ったのだ。
「それに比べて、もう一人の方の王女様は」
「フローライト様と双子の筈なのに、成績は平凡で」
「馬術はもちろん社交ダンスも人並みで」
「何より、見るに堪えない醜い火傷の痕がある」
 私がいないと思っている場所で、私が聞いてないと思っている場所で、そう言って姉さまを罵った。姉さまの目の前で、そう言って罵倒する馬鹿もいたそうだ。
「姉さまを悪く言わないで!」
「貴方達に姉さまの何が分かる!」
「姉さまは立派な王族、立派な王女! そんな姉さまを目の前で罵ったお前達を、私は絶対に許さない!」
 エレメンタリースクールを卒業するくらいまでは、感情を制御出来ずにそう言って癇癪を起こしていた。ミドルスクールを卒業する辺りでは、そうやって姉さまを馬鹿にした奴らの汚職や不正を徹底的に暴いて公的に失脚させた。人を悪く言う人間ほど後ろ暗い過去を持っている事が多く、特に姉さまを悪く言わなかった人や良く言ってくれる人には何もなかった事が多かったので、やはり性格と罪は連動しているのかとすら思ったものだ。勿論、悪く言ってるくせに叩いても何も出なかった奴もいたし、その逆もあったけれど。
「どうしたの。そんなに泣いていては、折角の美人が台無しだわ」
「一応、平均点は取っているんだけどね。私の立場が立場だから、それ以上を求めてくるんでしょう」
「フローが練習に付き合ってくれたお陰で、お相手の足を踏まなくなったわ。いつもありがとう」
「仮面のデザインを新しくしてみたのよ。どう? 似合う?」
 私がベッドの上に俯せて泣きながらぶつぶつ言っていると、決まって姉さまは優しく声をかけて下さった。腫れた目元に氷枕を当ててくれたり、皺の寄った眉間を撫でてくれたりもしてくれた。
「私達は同じ日の同じ時間に産まれた双子の姉妹だけど、フローはフロー、私は私よ。だから、もっと自分自身の事に目を向けてあげて。私に言われた悪口は私がどうにかするから、ね?」
 幼子をあやすように、私の体を抱きしめ頭を撫でて言ってくれた。そんな風に優しい姉さまこそが、誰よりも一番幸せになるべきなんだ。それが最優先だから、自分の事はその後でいい。姉さまの幸せのためなら、何だってする。

 姉さまが火傷を負ったあの日から、私はずっと心に誓い続けている。
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