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巫女教育機関編
十二話
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鈍重で単調な一撃、苦難とされる大厄が放つ剣戟はその程度であった。
「ッぐ…だぁぁぁ!!」
茜や雪の鍛錬を経験している洋助にとって、その程度の軌道など避けられないはずもなく、軽々と躱しては反撃の一撃を叩きこむ。
意思の疎通も取れず、声も発せない大厄は朽ち果てた甲冑ごと叩き切られ、情けなど無く袈裟から一直線に両断される。
「まずは一体ッつ!!」
斬り放った反動を利用し、反転して体勢を整え向き直る。
複数戦による死角を補うため距離を取るが、一瞬で距離感と間合いを把握する程の技量は無く、真横から大厄の接近を許してしまう。
「――っッ」
刀が振れない程の至近距離、咄嗟に刀を持ち換え右手を空ける。
拳を握り、渾身の力を込めて近づく大厄に裏拳を振り下ろす。
ゴギャッ!!と、金属がへし折れる音を轟かせると大厄の首が折れ曲がる。
「二体目ッ!!」
しかし、休む間もなく背後から襲い掛かる大厄。
影の動きからそれを察知していた洋助は、持ち替えた左手の刀を逆手に握ると、視界に捉える事も無く真後ろに突き刺す。
胴体を貫かれた大厄は動きを止め、そのまま突き刺された刀を担ぎ上げられ強引に切断される、その上半身は胴から肩にかけ切り離される。
「―――三体目ッ」
切り上げた拍子に大厄から吹き出る蒼い炎、血の様な流れ方でも人のそれとは別物であり、炎は熱を持たずに洋助の頬に纏わりつく。
「はぁッ…はぁッ…っ…」
霧のように霧散する蒼い炎が、周辺の視界を妨げる。
その骸と化した大厄を飛び越えて、真上から落下してくる苦難と霧を振り払い猛進する苦難、二体同時の襲撃に反応する。
「俺の…、邪魔をするなぁッ!!」
上空の苦難を紙一重のタイミングで躱す、が、折れた刀が肩口に突き刺さり握っていた刀を取りこぼす、その左腕からは血が流れ痛々しい傷口が晒される。
そこに畳み掛ける様に猛進してきた苦難が洋助の頭を掴み、薙ぎ倒す。
地面に打ち付けられた洋助は視界が白く点滅するような衝撃を受けて、一瞬意識が遠のいた。
「ッがはッ…」
押さえつけられたまま嘔吐する、内臓が圧迫され呼吸もままならず、死の予感が頭にちらつく。
――走馬灯、蘇る過去、あの時もそうだった。
両親もこんな風に押さえつけられ、死の間際伊織を頼むと言って俺達を逃がした。
俺は約束すら果たせず、逆に伊織に助けられて生き延びた、あの惨めで、辛い思いをもう一度味わうのか?
そんなものは、二度と、起こさせない。
「ぁ、…ぁぁあああ!!!」
粉骨砕身、力を、振り絞る。
腕に、身体に駆け巡る血潮と神力、その全てを出し切り大厄の腕を押しのけ立ち上がる。
手甲を纏った朽ちた腕を掴み返すと、大厄の腕を握り潰して地面に叩き付ける。
「大厄をッ、滅ぼすんだぁッ、俺がッ!!!」
僅かに残る理性が、纏った神力を保たせる。
だが、その戦いぶりは狂人そのものであった。
「あああ゛ぁぁぁぁ゛!!」
握り潰した腕から蒼い炎が滲み出て、関節ごと引き千切る。
それを投げ捨て、肩に刺された刀を強引に抜き取ると、大厄に抜いた刀を首筋目掛けて突き刺す。
「っぐ…くたばれぇぇ!!」
抵抗され引き離されそうになるが、両手で深く抉るように刃を差し込むと、蒼い炎を噴き出しながら大厄は動きを止め、崩れ始める。
「……はぁっ…はっ…四体目…」
気力と精神が持ちこたえても、身体はとっくに限界を迎えていた。
残り三体の苦難は囲むように距離を取る、洋助は朦朧とした意識の中で、刀を拾い上げて構えだけは取る。
しかし、残った大厄は不自然に動きを止める。
「…なんだ、これは…」
そこには、大厄が訪れる際に出現する結界が張られていた、先程見た時とは明らかに違う結界、そして漂う異様な雰囲気。
風が起き、空気が冷たく変貌すると、顕現するは巨大な蒼き甲冑武者、惨苦と呼ばれる大厄であった。
「―――」
洋助は、自身の弱さに絶望した。
苦難程度の大厄に敗れ、惨苦には勝てるはずがないと、そう思ってしまうほどの力を感じ取り、自分の力の無さを再認識した。
故に絶望し、後悔し、目の前の脅威に立ち向かう力を欲する。
「……ぁあ…」
時間を確認すると五分以上は稼いでいた、役割を果たしその想いを胸に死を覚悟する。
惨苦が扱う大太刀が、洋助を両断しようと振りかぶる。
形だけの構えを取る洋助は、静かに目を閉じ、死を覚悟する。
「―――――………」
刹那とも、長い時間ともとれる感覚、時間が止まったのかと錯覚しながら目を開ける。
と、惨苦の動きが止まっている事に気付く。
「ほーい、新人くん、よく持ちこたえたね!」
「―――え?」
黒いコートをはためかせ、陽気な声を掛ける巫女。
瞬間、惨苦の腕は切り落とされ、強烈な一閃が打ち込まれ爆発する、その爆風が蒼い炎を撒き散らし、辺りを包む。
さらに、爆音が響くかと思えば風を切る矢の音が突然鳴り響き、三体の苦難に矢が同時に突き刺さる。
「お、流石は焔、百発百中だね」
轟音、刺さった矢が爆発を伴い、苦難を破砕させる。
辛うじて眼で追えた矢の軌道を逆算し、遠くの景色を見渡すとそこには巫女装束を着込んだ女性が建物の上で大弓を構えていた。
「戦…巫女、か」
圧倒的な力量、その事実が語るは現役の戦巫女が駆け付けたという事実。
安心感から刀は手から零れ落ち、流れ出る血を抑えて呆然と佇む、そこで洋助の意識は限界を迎え、霞んだ視界を黒く塗りつぶして墜ちていくのであった――。
「ッぐ…だぁぁぁ!!」
茜や雪の鍛錬を経験している洋助にとって、その程度の軌道など避けられないはずもなく、軽々と躱しては反撃の一撃を叩きこむ。
意思の疎通も取れず、声も発せない大厄は朽ち果てた甲冑ごと叩き切られ、情けなど無く袈裟から一直線に両断される。
「まずは一体ッつ!!」
斬り放った反動を利用し、反転して体勢を整え向き直る。
複数戦による死角を補うため距離を取るが、一瞬で距離感と間合いを把握する程の技量は無く、真横から大厄の接近を許してしまう。
「――っッ」
刀が振れない程の至近距離、咄嗟に刀を持ち換え右手を空ける。
拳を握り、渾身の力を込めて近づく大厄に裏拳を振り下ろす。
ゴギャッ!!と、金属がへし折れる音を轟かせると大厄の首が折れ曲がる。
「二体目ッ!!」
しかし、休む間もなく背後から襲い掛かる大厄。
影の動きからそれを察知していた洋助は、持ち替えた左手の刀を逆手に握ると、視界に捉える事も無く真後ろに突き刺す。
胴体を貫かれた大厄は動きを止め、そのまま突き刺された刀を担ぎ上げられ強引に切断される、その上半身は胴から肩にかけ切り離される。
「―――三体目ッ」
切り上げた拍子に大厄から吹き出る蒼い炎、血の様な流れ方でも人のそれとは別物であり、炎は熱を持たずに洋助の頬に纏わりつく。
「はぁッ…はぁッ…っ…」
霧のように霧散する蒼い炎が、周辺の視界を妨げる。
その骸と化した大厄を飛び越えて、真上から落下してくる苦難と霧を振り払い猛進する苦難、二体同時の襲撃に反応する。
「俺の…、邪魔をするなぁッ!!」
上空の苦難を紙一重のタイミングで躱す、が、折れた刀が肩口に突き刺さり握っていた刀を取りこぼす、その左腕からは血が流れ痛々しい傷口が晒される。
そこに畳み掛ける様に猛進してきた苦難が洋助の頭を掴み、薙ぎ倒す。
地面に打ち付けられた洋助は視界が白く点滅するような衝撃を受けて、一瞬意識が遠のいた。
「ッがはッ…」
押さえつけられたまま嘔吐する、内臓が圧迫され呼吸もままならず、死の予感が頭にちらつく。
――走馬灯、蘇る過去、あの時もそうだった。
両親もこんな風に押さえつけられ、死の間際伊織を頼むと言って俺達を逃がした。
俺は約束すら果たせず、逆に伊織に助けられて生き延びた、あの惨めで、辛い思いをもう一度味わうのか?
そんなものは、二度と、起こさせない。
「ぁ、…ぁぁあああ!!!」
粉骨砕身、力を、振り絞る。
腕に、身体に駆け巡る血潮と神力、その全てを出し切り大厄の腕を押しのけ立ち上がる。
手甲を纏った朽ちた腕を掴み返すと、大厄の腕を握り潰して地面に叩き付ける。
「大厄をッ、滅ぼすんだぁッ、俺がッ!!!」
僅かに残る理性が、纏った神力を保たせる。
だが、その戦いぶりは狂人そのものであった。
「あああ゛ぁぁぁぁ゛!!」
握り潰した腕から蒼い炎が滲み出て、関節ごと引き千切る。
それを投げ捨て、肩に刺された刀を強引に抜き取ると、大厄に抜いた刀を首筋目掛けて突き刺す。
「っぐ…くたばれぇぇ!!」
抵抗され引き離されそうになるが、両手で深く抉るように刃を差し込むと、蒼い炎を噴き出しながら大厄は動きを止め、崩れ始める。
「……はぁっ…はっ…四体目…」
気力と精神が持ちこたえても、身体はとっくに限界を迎えていた。
残り三体の苦難は囲むように距離を取る、洋助は朦朧とした意識の中で、刀を拾い上げて構えだけは取る。
しかし、残った大厄は不自然に動きを止める。
「…なんだ、これは…」
そこには、大厄が訪れる際に出現する結界が張られていた、先程見た時とは明らかに違う結界、そして漂う異様な雰囲気。
風が起き、空気が冷たく変貌すると、顕現するは巨大な蒼き甲冑武者、惨苦と呼ばれる大厄であった。
「―――」
洋助は、自身の弱さに絶望した。
苦難程度の大厄に敗れ、惨苦には勝てるはずがないと、そう思ってしまうほどの力を感じ取り、自分の力の無さを再認識した。
故に絶望し、後悔し、目の前の脅威に立ち向かう力を欲する。
「……ぁあ…」
時間を確認すると五分以上は稼いでいた、役割を果たしその想いを胸に死を覚悟する。
惨苦が扱う大太刀が、洋助を両断しようと振りかぶる。
形だけの構えを取る洋助は、静かに目を閉じ、死を覚悟する。
「―――――………」
刹那とも、長い時間ともとれる感覚、時間が止まったのかと錯覚しながら目を開ける。
と、惨苦の動きが止まっている事に気付く。
「ほーい、新人くん、よく持ちこたえたね!」
「―――え?」
黒いコートをはためかせ、陽気な声を掛ける巫女。
瞬間、惨苦の腕は切り落とされ、強烈な一閃が打ち込まれ爆発する、その爆風が蒼い炎を撒き散らし、辺りを包む。
さらに、爆音が響くかと思えば風を切る矢の音が突然鳴り響き、三体の苦難に矢が同時に突き刺さる。
「お、流石は焔、百発百中だね」
轟音、刺さった矢が爆発を伴い、苦難を破砕させる。
辛うじて眼で追えた矢の軌道を逆算し、遠くの景色を見渡すとそこには巫女装束を着込んだ女性が建物の上で大弓を構えていた。
「戦…巫女、か」
圧倒的な力量、その事実が語るは現役の戦巫女が駆け付けたという事実。
安心感から刀は手から零れ落ち、流れ出る血を抑えて呆然と佇む、そこで洋助の意識は限界を迎え、霞んだ視界を黒く塗りつぶして墜ちていくのであった――。
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