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七話
しおりを挟む――好きかもしれない、すきかもしれない、スキカモシレナイ?
「あぁ゛―…」
自分の感情が分からず悶えながら布団から起きる、これでは今日の出勤が危ぶまれる。
いそいそと身支度を整え、足取りを重くして部屋を出る。
隣の部屋を流し見る、今日のシフトは確か黒井さんが休みで、桐島さんと田中くんが出勤だったはず。
贅沢な三人体勢の夜勤には理由がある、月末特有の棚卸しに加え、商品ポップ類の取り換え、新キャンペーンによる特定の商品の大量展開等々…、やることが実に多い。
気を引き締め直しながらいつもの通勤路を歩き、店内に入る。
「おはようございまーす」
「あ、姉御チッス」
「姉さんおは~」
三者三様の挨拶を交わし、制服に着替える。
髪を結び、打刻をしたところで桐島さんに声を掛けられる。
「そういえば姉さん、黒井さんと買い物行ったってホントですか?」
「っえ!?」
動揺する、何故知られている!?
別に隠していた訳ではないが、いざ知られるとなんだか気恥ずかしい、そんな気分だ。
「ま、まぁ…、そうね、確かに黒井さんと隣街まで買い物行ったかな…」
「やっぱり~、いいなぁ、あたしも行きたかったー」
「きりちゃん…、一応オーナーに頼まれた事だから…」
「あー!その話俺も聞きましたよ!俺も姉御と遊び行きたいっスよ」
田中が話に割って入り、ややこしくなる。
いや、ややこしくはないが説明するのも面倒だ、それになんやかんや楽しかったのも事実だから否定するのも少しおかしい。
「田中…あんたは少し黙ってて」
「えー、俺も気になりますよその話」
「ねー、気になるよね、あたしは姉さんと黒井さんお似合いだと思うけどなぁ…」
――突然、思いもしない言葉を投げかけられる。
「っな!?そんな事、絶対ないよッ!」
「そうスか?俺もいいと思いますけどねー」
「田中まで…、二人して適当な事言わないでよ…」
溜息交じりで返事をする、昨日の事もあり、今この話をされると顔が赤くなってしまう。
「姉さんって前にキャバ嬢として働いていたのに、恋愛絡みに関しては異様な程純真ですよね」
「そうなんスか?俺は単に理想が高いのかと思ってましたが、実際どうなんスか?」
「―――……」
キレそう、いや嘘、全然怒って無いけど恥ずかしくて自分にキレそう。
確かに恋愛絡みになるとどこかおかしいのは自分でも分かっていた、まさかそれが純真なんて言葉で言い表されるとは思わなかったが。
呆気に取られながら我に返り、顔を隠すように言い放つ。
「はいッ!この話題はこれで終了!ほら!もう時間だから仕事するよ二人とも!」
「えー、気になるなぁ」
「しゃーないッスよ、今日はバカみたいに仕事ありますから」
「そそ、田中の言う通り今日は忙しくなるんだから、無駄話なんかしてる余裕ないよ」
急かす様に話を切り上げて二人の関心を仕事に向ける、根が真面目な二人だから仕事の話をすればそちらを優先してくれるのはありがたい。
「―――……」
集中する、思わぬ話題で心を乱されたが仕事だって忙しい。
カウンターでの接客をこなし、納品された品物を展開し、季節に合わせた棚作りをしていく。
黙々と作業を進めると、時間は気付かぬうちに進んでおり、落ち着いたタイミングで田中くんに声を掛けられる。
「あー…、姉御ときりさん先に休憩入っていいっすよ、後は店内見ながら俺が清掃入ってるんで」
「いや、もう少し作業進めてから入ろうかな…、逆に田中入りなよ」
「なに言ってんすか~姉さん、ここは田中君の優しさに甘えましょ~」
「きりちゃん…いや、でも…」
「いいっすよいいっすよ!それに今休憩入らないとタイミング逃しますし」
確かに田中の言う事も一理あると思い、半ば押される形で桐島さんと休憩に入る。
「ふー、疲れますね、姉さん」
「まぁ、そうね、今日はちょっと忙しいかな…」
桐島さんには珍しい他愛のない会話の切り出し方、少し不思議に思いながら返事をしたが、その意図が次の話題の移行だと気付くのには少し遅かった。
「で、なんで宮原姉さんって恋愛にそんな慎重なんですか?」
出勤前うやむやにした話題、やはりか、といわんばかりに予想が的中した。
「はぁー、きりちゃん…こんな話訊いても全然面白くないよ?」
「まぁ、この際面白い、面白くないよりも、宮原さんの事がもっと知りたいんですよね」
「私の…事を…?」
「はい、だって一緒に働いて見て来ましたけど、ずっと無理してるじゃないですか宮原さん、本当の意味で気さくに人と接してるの見た事ないです、いや、見た事無かった、ですかね?」
目が見開く、どこか抜けているようで抜け目のない性格を持つ桐島さんは、私の人との関わり方を見抜いていた。
――故に驚く、息を呑んで彼女の言葉を受け入れる。
「黒井さんが入ってきて、一緒にいる宮原さんを見て初めて人間らしい姿を見ました、動揺したり、不安そうにしたり、心配したり、だから気になるんです、そんな姉さんが素直に感情を出さないのを」
「そ、それは…」
言葉がうまく出ない、図星なのだ。
「――ッ」
呼吸を整え、感情を整理する。
「きりちゃんは…、本当に優しいね、気付いてて合わせてくれてたのかぁ」
「まぁ、合わせてたって訳ではないですけど、その方が姉さん自身も楽かなって」
子猫みたいな悪戯な笑みで微笑んでくれる、その顔を見たらもうなんでも良くなる、素直に話す決心もつくものだ。
「あたしね、――」
決して面白くない話、けれど今は必要な話。
昔を懐かしむように、目を細めて宮原楓は自分を語る――。
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