天下無双の剣聖王姫 ~辺境の村に追放された王女は剣聖と成る~

作間 直矢 

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シルバ・アリウム、剣聖と成る

十三話

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 ざっと流し見ると、そこに記載されている物品の種類と個数に見覚えがある。
 が、所々に改ざんの跡が見え、この資料の意味が分かってくる。


 「なるほど、さしずめ真納品リストってとこですか……
  この資料が本物なら充分すぎる証拠ですが、どこでこれを?」

 「―――少しばかり、フタバ伯爵の私室から拝借しました」

 「……有能すぎるのも困りものですね、
  ですが、有難くこれは預かっておきます、ご苦労様ですヒースさん」

 「あり難きお言葉……シルバさんはこれからどうされるのですか?」

 「どうもしませんよ、ただ待ちます」

 「……待つ、ですか」


 状況証拠、物的証拠、いずれも複数の要因から今回の不正を摘発することは可能だが、このまま突き進んでもそれは失敗する。

 ―――それは何故か。

 答えは単純明快、権力による揉み消しが予想出来るからである。
 
 いくら不当な行いをこちらから指摘し改善を求めようが、辺境の地で働く下っ端の役人の言葉に耳を傾け頷く道理もなし。

 であれば、フタバ伯爵がしっぽを出す様な策を打つのが吉、それ故に待ちの一手。


 「心配要りませんヒースさん、既に仕掛けは打っております、
  近いうち、このジニア村にフタバ伯爵は必ず訪れますので、
  それまで休んでいてくださいね、ヒースさん」

 「かしこまりました……無理だけは、しないように……な」

 「―――ん、え?いまの話し方良かったですよ!ヒースさん!」

 「今は、これが……精一杯、です……ので…」


 自分よりも年上であるヒースさんが、顔を赤らめてそれを隠す。
 死神を思い起こさせるその様相に似合わず、極めてギャップのある姿である。


 そんなヒースを流し見つつ、シルバは次なる事態に備えて時を待つのであった。


 「市民から寄せられた要望書、まとめました!」

 「ありがとうミオ、机に置いておいてください」


 フタバ伯約の汚職疑惑の証拠を掴んで一か月程、シルバは着々と仕事をこなしジニア村の発展に尽くしていた。


 「はーい、しかし……シルヴィアさんがここで働きだしてから一か月……
  ここ最近のジニア村にはなんていうか……活気が出てきました」

 「この活気こそが本来のジニア村の在り方なんですよ、
  農作物の販売先を同盟国のバーベナにしたのは正解でした」

 「農家の方々も大変喜んでいましたね、
  今までの賃金では考えられない額だって、
  ですが……販売先の変更なんてよく通りましたね」

 「―――んにゃ、村長さんの判は貰って無いけど、
  勝手に隣国の商人さんと契約書を取り付けてきた、
  領主であるフタバ伯爵には、必要な申請書類は送ったけど」


 ――パリンッ……。


 なんて音が響くぐらいには丸眼鏡を掛け崩し、ミオは可愛らしい目を見開いた。
 あまりにも突飛な発言に、事務作業を生業とするミオは開いた口が塞がらずにただシルバを呆然と見つめる。


 「そ、そそそそ、それってッ!?ヤバくないですかッ!?」

 「なんで?農作物の販売先を変えて農家の皆様や、村のみんなにも仕事が回って
  幸せじゃないですか、バーベナ国の取引先も喜んでたし、みんなはっぴーだよ?」

 「そ、それは……そうかもですけど、許可も無く行動するのは……」

 「大丈夫、何かあれば私が責任取るから!」


 ふんすっ……。


 と、ドヤ顔で言うもんだから役職の域を超えた何かを感じてミオも押し黙る。
 
 立場的にはミオがこの役所を総括する責任者であり、更にその上に村全体の管理を任されている村長がいる。

 加えて、この村を領地とするアリウム騎士団であるフタバ伯爵が事実上の最高責任者であり、新人役人見習いのシルバはそれらの役職を飛び越えて行動した。

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