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シルバ・アリウム、剣聖と成る

ーーその頃、帝都では……

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 フタバ伯爵によるシルヴィア・ライト、もといシルバ王女への武力制圧から一週間。
 ジニア村にて存命していた王女の存在は帝都まで知れ渡り、激怒する人物がここにいた。


 「馬鹿なッッ!!あり得んッ……!!シルバ王女が生きているだとッ!?」


 激昂し、机を叩いて感情をあらわにするシバ公爵。
 
 彼は謀殺したと思っていたシルバ王女の生存を目の前の人物から直接聞き、報告してきたアリウム騎士団の一人を殴りつける。


 「この愚か者がッッ!!!あの小娘が城に書状を送って来た時点で
  何故報告しなかったッッ!?事前に状況が分かればこちらで対応も出来たものの…
  これは万死に値する失態だぞ、フタバ伯爵ッッ!!」

 「で、ですが……まこと本当に生きているとは思わず、サインが本物とは……
  それに、まさか黒き刃を従えているなんて……虚を突かれた想いです……」

 「なればこそッッ!!だッ……!!あのような小娘にはばかられおって……
  黒き刃が娘側に寝返っていたとは予想外だが、暗殺者ごときに遅れを取るとは
  何事かッッつ……貴様にアリウム騎士団の名は相応しくない」

 「そんなぁ……私は国のために交易や商業取引を必死に行ってきたのに、
  これではあんまりではないですかぁッ!!」

 「黙れッッ!もはやお前に領地は任せられない、
  城の後任はシュバルツ殿にお願いする、お前は早々に消え去るがよい」


 蔑んだ目で彼は視線を切ると、フタバ伯爵は足元にしがみ付き懇願する。


 「何卒ッ……何卒機会を……」

 「離れろ下郎っ、二度は無い……
  お前の失態はそれほどに重く、帝都の安寧と私の威信に関わっている、
  ―――だが、そうだな……どうしてもというなら役に立って貰おうか」

 「本当ですかッ!?なんでもしますッ!!なんなりとッ」

 「そうか、なら、首を差し出せ」

 「………………へ」


 ―――ザンッ……!!!


 振り落とされた刃は醜い首を切り落とし、凄惨な現場を作り出す。
 はじけ飛ぶ血しぶきは部屋を彩り、赤い景色がそこら中に広がっていた。


 「醜いお前でも、死体ぐらいは役に立とう」


 この殺戮の実行者は冷たい目で剣を握る。
 
 交差する策謀。
 繰り広げられる蛮行。
 そして、燃え滾る野心。

 シバは己が目的のため、シルバが突き進む道すら突き崩す。


 「フタバ伯爵を暗殺の計画者に仕立て上げ、一連の責任を取らせれば時間は稼げる、
  が、面倒なのは黒き刃だ……やつらが何故裏切ったが知らんが、
  せいぜい騎士道ごっこをして楽しんでいろ、ヒースよ……くくくっ…」


 その笑いは暗く響き、空虚な闇に消えてゆく。


 「―――シルバよ、穢れた血筋のお前を決して騎士団は認めん、
  アリウムの騎士はその血と名誉を絶対とするのだ、
  素性の知れぬ貴様を認める訳にはいかぬッッ!!!」


 傲慢な言葉を口にして次なる野望を志す。

 これから待ち受ける謀略をシルバはまだ知る由も無い、しかし、如何なる試練であろうと彼女はそれを超えてゆき、そのことごとくを打ち破るだろう。

 来るべき日に備え、シルバは帝都への帰還に着々と力を備えていた。

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