天下無双の剣聖王姫 ~辺境の村に追放された王女は剣聖と成る~

作間 直矢 

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シルバ・アリウム、剣聖と成る

十九話

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 ―――そして一か月が過ぎた頃、ジニア村唯一の役所で彼女は頭を抱えていた。


 「やってくれますね……シバ公爵、まさか帝都へ送還したフタバ伯爵を極刑に処すとは、
  精々騎士団の除名や領地没収が妥当と思っていましたが、これで責任の所在が
  全てフタバ伯爵に押し付けられてしまった……どうしたものでしょう」

 「ここ最近帝都の動向を見る限り、騎士団では王女暗殺に関する内部調査が
  行われていましたが、それは形だけのようで実際にはフタバ伯爵に一連の事件
  の証拠や裏付けを取り付ける為の時間だったようです……、
  暗殺を計画した騎士を全て特定する為とはいえ、後手に回ってしまいましたね」

 「まだシバ殿に対するアプローチの方法はあります……が、
  穏便に事を済ませられるのであればそれに越したことはありませんので、
  ……ヒースさん、引き続き帝都での情報取集をお願いできますか?」

 「お任せください、しかし……我ら黒き刃が離反した事実が知れ渡り
  帝都内での警戒も高まっております、今後は情報収集にお時間が掛かるかと……」

 「構いません、むしろ無理して貴方達に危険が及ぶ事が問題です、
  怪我だけはしない様にお願いしますよ」

 「了解しました……シルバ」


 名前の呼び方にもだいぶ慣れたヒースさんは、軽く微笑んで私を見つめる。
 
 立場を隠す必要も無くなった為、気兼ねも遠慮も無く接する事が出来るからだろうか、今までもよりも柔らかい印象を感じる。


 「それにしても……私の生存が知れ渡ったとはいえジニア村周辺の街や村の対応が
  一変しましたね、帝都からも帰還要請を促す文が届きましたし、政務作業が滞って
  仕方ありませんよ……」

 「少し資料を拝見させて貰います、これは……
  ―――隣国バーベナ国からは、第二王子との会合希望の手紙、
  それにフタバ伯爵が管理していた城の後任、シュバルツ侯爵が謁見を希望、
  ……アリウム騎士団からは帝都帰還要請がいくつも届いていますね、
  確かにこれは、頭が痛くなりますね……」

 「そうなんですよぉー!今のところ暗殺計画の首謀者特定が至っていないため、
  帝都が危険なうちは戻らないって理由付けて、ジニア村から離れない様に
  していましたけど、こんな強引なやり方で首謀者をでっち上げられるとは…」


 首謀者がシバ公爵である事はほぼ間違い無い。
 それは彼が黒き刃に言い渡した命令、私の暗殺を考えれば自然ではある。

 だが、その証拠を裏付ける物も無く、彼に対する事件の追及は厳しい。
 
 唯一の希望があるとすれば、私が送った宝刀“銀月”の存在ではあるが、シバ侯爵が銀月をどこに保管しているかが分からない。

 用心深く、用意周到な彼に付け入るにはまだ準備が足りない事を痛感する。


 「それで?どうするおつもりですか?
  このままジニア村から出ずにいると立場が悪くなる一方ですよ?」

 「……当面は慎重に動きたいので、時間はどうあれ帝都へ赴くのは後です、
  まずは後ろ盾をしっかり作り、アリウム騎士団に対抗出来る程の立場にならなくては
  いけません、なので、有力騎士の一人であるシュバルツ殿と会おうと思ってます」


 少し懐かしくも感じるその名前。

 元々婚約者であった彼は、ジニア村を領地とするこの地域一帯をフタバ伯爵の後任として赴任してきた。

 ジニア村への追放を機に婚約破棄を言い渡した彼もまた、シバの暗殺計画に加担している可能性はあるが、それ以上に確信できる事もあった。


 「シュバルツ殿ですか……その評判は非常に高く聞き及んでいますが、
  シルバがここに赴任する際に、国王様が取り決めた婚約を破棄したその挙句、
  シバ殿の御令嬢と婚約したと聞いております……あまり良い気分ではない」


 ヒースが口調を強めて私の代わりに怒ってくれる。
 その優しさに感謝しつつ、彼に会う事情と理由を説明する。

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