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シルバ・アリウム、剣聖と成る
二十六話
しおりを挟む「城改修の視察でお伺いしました、シルヴィア・ライトと申します、
担当の方はいらっしゃいますか?」
「身分証を拝見します…………はい、ありがとうございます、
会議室までご案内致しますので、こちらへどうぞ」
城の番兵に偽りの名前と身分をスラスラと話し、予めシュバルツ侯爵に用意してもらった身分証を掲示して城内に入る。
もちろん、見た目を変えているため誰もシルバ・アリウムと気付かずに素通りしてゆく。
「―――」
私の影から感じる異様な雰囲気。
それは護衛としての役目を全うするヒースのものであり、彼は影に潜んで警戒していた。
「シルヴィア様、担当の者がいらっしゃいますので、少々お待ちください」
「わかりました、案内ありがとうございます」
甲冑を纏った番兵に部屋まで案内され、煌びやかな来賓室の席に座る。
と、同時に苦笑しながら私は語り掛ける。
「ヒース……あまりにも殺気が目立ちます、もう少し気楽に臨んでください」
『―――警戒し過ぎる、なんて事は無いと思いますが?』
「それで気配を察知されたら意味がないですよ、ほら、もっと気楽にっ」
『む……気楽に……ですか……』
得意の堅い思考に囚われて、ヒースは影から声を響かせ思い悩む。
段々と物々しいその雰囲気が和らぎ、普段の彼らしさが出てきた。
「ふふっ……やっぱりヒースはお堅いですね」
『恐縮です……―――シルバ、そろそろ始まります』
廊下から響く鎧の音。
重装備の屈強な兵士が歩み寄り、来賓室に足音が近付く。
重い金属音が響く中、その中で軽やかな足音が目立って聴こえ、視線が足音の主に誘導されて彼らは部屋に入って来た。
「お待たせ致しました、この地を治める事となりましたシュバルツ・レイです、
本日は我が城までご足労頂き、まことに感謝致します」
「ご丁寧にありがとうございます、シルヴィア・ライトです、
今日は有意義な時間に致しましょう」
アリウム国の土地を治める騎士団の一人、シュバルツに対しての対等な振る舞い。
王女として考えればその振る舞いに何も問題など無かったが、今は一般の身分。
彼の後ろの護衛に睨まれて、一瞬の警戒を感じ取り愛想笑いを返しておく。
「―――お前達、部屋から下がって誰も入らぬ様に警護しろ、
この会議は重要な物だ、何か異常があればすぐに知らせろ」
「ッハ!」
威勢の良い返事と共に、三人の兵は規律良く部屋を出る。
その姿を見届けると、シュバルツは部屋に居る人間を確認して魔法を唱えた。
『―――結界展開』
小さく呟かれた魔法は、部屋全体を覆って構築される。
それは外部からの魔法干渉の遮断及び、物理的な侵入も阻止する防御系の結界。
「……さて、これでこの部屋の会話が漏れる事もありませんし、外から盗み見される
心配もありません、シルバ王女が安心できる環境でありましょう」
「お心遣い感謝致します……っと、このままでは流石に失礼でしたね」
改めて自身の身なりを確認し、姿変えの魔法が施されている事に気付く。
重要な話し合いの場で、相手を警戒していると捉えられてもおかしくないこの姿を解き、その真の姿を晒す。
「―――改めて、今回の会合感謝致します、シュバルツ・レイ侯爵」
はらり……と、美しい銀の髪が舞い王女の気品を醸し出す。
あまりの美しさに美男であるシュバルツも呆気にとられ、その姿に魅入ってしまい、
―――自然と、その騎士は跪いていた。
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