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シルバ・アリウム、剣聖と成る
五十五話
しおりを挟むそれからは、この騒動を収めるのに無駄に労力を割いてしまった。
まず、観衆の目の前で行われたプロポーズの釈明に追われ、私は会場に来ていた貴族や有力者に経緯を説明しに回った。
大多数の人は納得していたが、一部は未だ半信半疑。
隣国との関係性を強める為の政略結婚ではないか、武人として互いに惹かれ合った末の大恋愛なのではないか。
あることないこと、真実は曲解されては噂となって広がってゆく。
「―――はぁーーー……」
机に突っ伏し、深いため息が思わず出る。
「……心中、御察し致します……」
「ヒースぅ……たすけてぇ……」
「―――私の力が及ばず、本当に申し訳ありませんでした……」
「あ、えぇっと……嘘だよ、貴方はあの場において最善を尽くしてくれました、
もし、私がレッド王子に対して直接の返事をしていたら、それだけで事は大きく
なっていました、改めてありがとう、ヒースさん」
「そのように言って頂けるだけで、感無量です」
相変わらずの堅さに苦笑いで返し、私はヒースの身体に視線を移す。
あれほどの大怪我を負って、傷もまだ癒えてないのに何故だか動けている。
シュバルツさんですら未だ満足に動けていないのに、何故ヒースは会場に飛び込めるほどに快復しているのだろう。
「ねぇ、ヒース」
「はい?」
「その……怪我の事ですが、身体は、とても酷い状態だと聞いています、
正直、いまこうやって話しているのも不思議なのですが……」
「ああ……それは……実を言うと私にも分かっていないのです、
気を失っていた時、手を……誰かに握られていた感覚があって……
それから、目が覚める直前にシュバルツの怒号が響いて飛び起きました」
「シュバルツさんの?」
「ええ“お前の主が面倒に巻き込まれている、さっさと起きろッ”と……
まったく、ふざけた奴ですよ、アイツは……」
口ぶりとは裏腹に、どこか楽しそうに語る彼に憂いは無い。
その笑顔を眺めつつ、包帯が巻かれた怪我を流し見るとある変化に気付く。
(……あれ、さっきまで黒く爛れていた箇所が少しだけ治っている?)
ありえないはずの現象に、軽く目を疑って深く目を閉じる。
流石に疲れたのだろう、見間違いの記憶違い、であるはず。
「それよりシルバ様、これからゴッツ殿との決勝となりますが……
この状況です、決勝をどう捉えますか?」
「やっぱりそれ、気になりますよねぇ……」
「ここまで目立った動きをして、尚且つ、
こちらからの挨拶さえまともに取り合わないのは不自然すぎます」
「まぁ……元々死亡していた事を前提であちらは動いていましたし……
大方、シバ公爵に連絡を入れてその返答待ちってところですかね?」
そうである。
今大会で存在を知らしめ、そして惜しみない武を披露したにも関わらず、前大会優勝者にしてアリウム騎士団の武闘派騎士、ゴッツと会えていない。
その理由はなんとなく察してはいるが、ここまで露骨に避けられると疑念は確信へと変わってゆく。
「シルバ王女のジニア村異動の件、それを推し進めたのはシバ公爵とゴッツ殿です、
知略に長けた方とは言い難いですし、予定外の出来事に混乱しているのでは?」
「それなら単純で良いのですが……問題は私の大会参加を想定していた場合です、
何か考えがあって動いているなら、少し不安ではあります」
「ふむ……仰る通りだとは思いますが、それは杞憂だと断言できます、
と、言うのも、ゴッツ殿の人柄やお噂を聞く限り相手の先手を打つ様な
行動はしないはず、彼は―――」
―――コンコンッ……
そこまで話すと、部屋の扉を叩く音が響いてヒースは瞬時に警戒態勢に入る。
が、戦える程の力が残っている訳も無く、私は片手で彼を遮って下がるように訴える。
「―――どうぞ、お入りください」
一瞬の重苦しさを感じつつも、扉は情けない弱さで開く。
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