天下無双の剣聖王姫 ~辺境の村に追放された王女は剣聖と成る~

作間 直矢 

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シルバ・アリウム、剣聖と成る

そして剣聖へ

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 『もはや言葉は要りません、両者、存分に武を奮ってください』


 告げられた開始宣言、僅かに聴こえた呼吸音。
 熟達の老騎士が握る大槍がゆっくりと矛先をこちらへ向け、息を吸い込んで距離が縮まり始める。

 じりじりと詰まる間合いは、彼にとって最良となる槍特有の間合いになってゆく。

 それでいい。

 全てを乗り越えた先にのみ、剣聖と謳われる道があるのだから。


 「―――往きますぞぉぉぉお!!!!」


 歳を感じさせない勢いと疾さ、大柄な体格を思わせない軽さで攻めるゴッツは鬼神の如き気迫であった。


 「……」


 集中を切らさず全神経を銀月に注ぐ。
 世界が急激にスローモーションに映り、槍の軌道ですら遅く感じる。
 
 
 ―――私の戦いは、己自身にあり。


 剣と、魔力と、身体を同調させるイメージを保ち、眼前の武を打ち払う。


 「……っ」


 流れる血液が熱くなる感覚を押し殺し、感情は冷静に冷たく澄んでゆく。
 もはや振りかざされる槍は壁にもならず、僅かな回避行動で悉くをいなす。


 「おおっ……!!おおぉぉッ……!!
  その輝きはっ……!!月の灯が如き輝きはっ……!!!」


 老騎士は手を緩めることなく猛攻を仕掛ける。
 が、大槍は一切当たる気配が無く躱され、シルバの持つ銀月に輝きが灯ると老騎士は間合いを仕切り、震撼した。


 「銀月、貴方の銘をお借りします」


 刀身に浮かぶ波紋が光輝き、それは幻想的な灯を迸らせ剣筋に沿って写る。
 歴代の宝刀使用者とは異なる色で、その銀月は王姫の力に応じた。


 暗銀の月光、纏うは星明り。


 彼女は、剣聖として真に覚醒したのだ。


 「―――これこそッ!!かつて仰ぎ見た王の光ぞッ!!!
  おおぉ……!!儂はなんたる愚かであったかッ!!
  かの剣聖が見込んだ姫を疑うとは、一生の不覚であったわッ!!」


 歓喜と、後悔と、そして武者震い。

 憧れて、目指した武の頂きは先に逝った。
 だが、彼の残した娘は後を継ぐように剣聖として君臨している。

 老騎士は、悦びに震える手で構え直し、全力でシルバを迎え撃つ。


 「殿下ッ!!我が“豪槍烈覇”を以て、貴方様の全力を受け止めようぞッ!!」

 「―――参ります」


 ゴッツは全身の力を溜め、大きく跳躍して上空へ舞った。
 前大会でダガーンとの激戦を制した際、この技によって勝敗を決した必殺の一撃。


 ―――ドガァァァァン!!!!!!!


 それは魔力を込めた大槍の投擲。

 爆撃と化した槍はゴッツによって打ち出され、全てを破壊する威力を誇って迫る。


 「さあッ!!誇示して下され、その月光をッ!!」


 流星めいた軌道で急降下する大槍が、シルバに向かって飛んで行く。
 だが、焦るどころか涼しい顔で彼女は剣を振り上げ、その銀の魔力を解放する。


 「アリウムの名のもとに、月明かりを」


 眩い威光は、月光となって闘技場を包む。
 宝剣から放たれる魔力の渦は、投擲された大槍を撃ち落として空を穿った。


 神話の再臨、それを皆は目の当たりとする。


 もはや斬撃は剣にあらず、空気を、雲を、星を断ち切って宙に消え入った。
 儚い銀の残滓が漂い、きらきらと星の粒子が目に映って闘技場を彩る。


 銀の一閃は全てを覆す程の威力を以てこの大会に終止符を打ち、シルバ・アリウムの大会優勝という結果を残して大きな幕を閉じたのであった―――。

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