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束の間の安息と追憶
一話
しおりを挟む伝説的な最後を飾って、大会を制覇したシルバの活躍は帝都にまで響き渡り、様々なアクシデントを伴いながらも当初の目的を果たしていたシルバ。
彼女は突如として大会に参加し、その強さを示して優勝し人々を魅了した。
そんな剣聖は目的を果たすと、シュバルツとの会合で交わした約束を実現しつつ、ヒースの身体を療養すべくジニア村へと帰還する。
「しかし……疲れましたねヒースさん」
「ええ、思っていた以上に大変な遠征となりました、
しかし得られた物も大きいです、シルバの帝都帰還は現実的となります」
「確かに、ゴッツ殿の助力があればアリウム騎士団を納得させられますからね、
民の信頼も実績を重ねてゆき、常に彼らの声を聞いて行動すれば王女として
認めてくださると、わたしは、信じております……」
馬車に揺られながら、不安な気持ちを吐露する少女。
一度家臣に裏切られた経験を考えれば、年頃の女の子の心を不安定にさせるのには充分すぎる経験である。
「安心してください、シルバは必ず王女として、剣聖として、
民を導く存在となります、それは私が保証しますよ」
「えー、でもヒースは私に甘いからなぁ…」
「そ、それは……」
「嘘ですよっ、けど、ありがとうねヒース」
一番近くで見ていたからこそ断言する彼は、いつもの困り顔で励ます。
その表情を見ていると酷く安堵し、不意に弱い部分をぽつりと話してしまった。
「……ねぇ、ヒース」
「なんでしょうか」
「血筋とは、やはり大事な物なのでしょうか」
「それは……そう、ですね、脈々と受け継がれる人の繋がりですから、
大事と考える人の気持ちは理解出来ます」
「では、私の過去はやはり足枷なのでしょうか……」
どうあっても覆らぬ過去は、彼女にとっての唯一の弱み。
血筋を重んじる人間は一定数存在し、シバ公爵を筆頭とする彼らの考えをどう取りまとめるかが今後の課題である。
そのため、剣術大会を終え成果を上げた今だからこそ、弱音を吐いてしまった。
「確かに、これからの行動に制限がつく過去かもしれません、
ですが、過去を含めて今のシルバがあると思えば私は嬉しいぐらいです、
血筋は大事かもしれませんが、それが全てという訳ではありませんので、
これからも今のシルバを大切に、前を向いてください」
ヒースの言葉はいつだって優しく、私の胸に涼しげな感情を巡らせる。
重く、心にのしかかった重圧が軽くなり、気分が晴れていく気がした。
「ありがとう、ヒース……」
「いえ、感謝される事は何もしておりません」
少し照れたように顔を逸らし、しばらく心地の良い沈黙を過ごして思い出に浸る。
思えば、黒き刃として暗殺を請け負った彼らが来て、私の人生は大きく変わった。
初めての実戦を経験し、シルヴィアの名を預かり、ジニア村を発展させ、果てには剣術大会で優勝までしてしまった。
私の生まれた孤児院での日々を振り返ると、ここまでの一日一日が奇跡の連続としか思えず、自然と口角が上がってしまう。
「嬉しそうですね、シルバ」
「……少し、昔を思い出していました」
「昔、ですか」
「興味あります?」
「まぁ、ほどほどに」
「では少し、語らせてください」
姿勢を彼に向け、一拍置いて息を吸う。
なんてことはない、これはただの昔話で与太話。
「わたしは過去、人を、斬り殺しているのですよ―――」
ジニア村までの帰路で語られる少女の過去は、銀の王女には似つかわしくない血と怨嗟に塗れた歪な物であった―――。
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