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束の間の安息と追憶
七話
しおりを挟むけだるそうに煙管を咥え、神秘的であるはずの天使の羽は濁った灰色でよく目立つ。
更に、象徴であるはずだった腰の剣は古びてボロボロであった。
『殺そう、アンタにはそれが出来る』
語り継がれていた伝説。
大好きだったおとぎ話は砕け散り、時が止まった世界で彼女の言葉を食い入って聞く。
『剣を司る女神、デュランザメスの名においてアンタを祝福しよう』
これが私の信仰していた女神様なら、本当に馬鹿げた話だ。
何一つ伝承と違う、性格も、語る言葉も、剣を持つ意味すら全てが違う。
こんな体たらくで民を導くなど、それこそ伽話だ、詐欺もいいとこ。
―――けれど、けれどそれでいい。
今、私が求めるのは力だけなのだから。
『さぁ殺せ、アタシは殺して、殺して殺して殺しまくって、
その果てに全てを黙らせた、アンタにもそれが出来る』
咥えていた煙管をゆっくり離し、指し示すは壁に掛かっている大剣。
ろくに手入れもされず、刃こぼれもしている鈍らの凶器。
同時に、狂気が少女を蝕んでいた。
『せいぜい殺せ、アタシを愉しませろ』
瞬間、急速に訪れる現実感。
心臓の心拍数は跳ね上がり、恐ろしかった感情は高揚さえして消え去っていく。
何をすべきかを自分が一番わかっている、故に迷いなど微塵も無い。
「ほらッ!!俺を楽しませろッ……!!もっと泣けよおいッ!!」
「………」
返事をしない死体に向かって激高し、何度も暴力を振るう野盗。
もはや彼の行為に何の感情も湧かず、冷え切った殺意を宿して少女は立ち上がった。
「あん?なんだ銀髪のガキ?丁度こいつにも飽きたとこだ、相手してやる」
「―――そう」
手足を縛る鎖が、純粋な力によって爆ぜる。
そして剣を取り、構え方も知らないまま力強く柄を握った。
自身の背丈ほどの大剣をぶらりと下げて、少女は呟く。
「死んでください」
「……おいおい、おいおいおいおいおいおいッッ!!!!!
これはマジでおもしれーな、おい!!!いいぜッ!!はやくこっち来いッ!!」
想像すら出来なかったのだろう。
自身が蹂躙して楽しむだけの存在に、圧倒されるなど。
ザンッ……!!!
白く細い腕で振り抜かれた斬撃は、確かに稚拙で実直であった。
だが、その速度と威力はおよそ子供と思える物ではなく、大剣は男の胴体を二つに斬って血を滴らせる。
「―――は」
声を発する暇も無く、ずるずると身体は二つに切り離されて辺りに臓物が散らばる。
もはや少女の様相は消え去り、そこには憎悪に囚われた女神の化身が佇む。
「私が、やったんだ」
肉を、骨を断つ感触が手に纏わり付き、離れない。
あまりにも呆気ない、人を斬る時の感触。
身に余るこの力を求め、少女はふらついた足取りで戦火に歩を進める。
この人外の如き力で、全てを終わらせるため。
「次だ」
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