天下無双の剣聖王姫 ~辺境の村に追放された王女は剣聖と成る~

作間 直矢 

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迷いと、後悔

六話

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 「ヒース……」


 この程度の包囲網であれば、シルバにとって問題はない。
 しかし、瀕死のヒースを庇って彼を抱きしめ、そこからシルバが動く事は無かった。


 「さようなら、穢れた血よ」


 躊躇いも無く腕は下ろされ、シルバの道はここで閉ざされた―――


 ヅガァァンッッ……!!!!!


 大きな雷鳴が轟く。
 紫電の稲妻が地を穿ってその場を一変させる。


 「あーあー……随分辛気臭い顔をしてるな、王女様」

 「っ……貴方はっ…!?」

 「剣術大会ぶりだなぁッ!!ちょいと様子見に来たつもりだったが……
  どうやら取り込み中のようだなッ?それとも、迷惑だったか?」


 大剣を携え、雷と共に現れたのは隣国バーベナ国の第二王子。

 二つ名を、紫電の英雄。

 彼は苛烈な戦意を瞳の内に宿し、颯爽と現れてはシバを睨む。


 「にしても……おいおい、一国の王女を襲うってのはどんな了見だ?
  そこの偉そうなお前、ここにいる御方をシルバ王女殿下と心得ての狼藉か?」

 「貴様は……バーベナの第二王子風情が、他国の事情を詮索しないで頂きたい、
  あなたこそ、我がアリウム国で身勝手な振る舞いをして許されるとでも?」

 「はぁ?ここは両国の国境となる重要な商業拠点でもある、
  シルバ王女が直接の指揮を執り、取りまとめたこの土地での内政を
  話し合うのに俺がいては都合が悪いのか?なぁ……?小悪党?」

 「きっ……貴様ッ……誇り高きアリウム騎士に向かって、
  お前の失言はいかにバーベナの王子とて許されるものではないッッ!!」


 初めて見るシバの取り乱し様に、シルバは呆気に取られて眺める。

 徐々に隣国の第二王子、レッド・バーベナのペースになって事態が変わるが、シバは依然として人質を有している。

 それを思い出した彼女は閉ざしていた口を開き、レッドを遮る。


 「ぁ、レッド王子……どのような事情であれ、今はっ……!!」

 「―――ん?あぁ……心配すんな、事情はアンタの友人から全て聞いてる、
  ミオって子から村とシルバ王女を任されたからな、少し時間はかかったが
  人質は全て解放している、今はあんたの部下が避難誘導しているだろうよ」

 「う、そ……ミオが」

 「嘘を言ってどうすんだよ、お前に会いにここまで来たのに、
  いざ来てみれば村が襲撃されてアンタは危機的状況……
  となれば、まずは威力偵察から入るのが定石だろ?」

 「で、ではッ……!!ミオも、みなさんもっ……!!」

 「あぁ、生きている、怪我は酷いが命には問題ない、
  なぁ…そうだろ?そこの小悪党?」


 わざとらしく、にやついた顔で目配せして公爵の画策を砕いたレッド。

 シバは今にも激怒する寸前で拳を握り、顔を歪めて兵に告げる。


 「えぇいッ!!何をしているお前らッ!!さっさとあいつらを討てッ!!」

 「で、ですがっ……」

 「あやつらの言う事は全て戯言だ!!我らの油断を誘い、
  この場を脱するための方便だと何故わからないッ!!」

 「おいおい、流石に見苦しいぞ、
  いい加減兵を退かせて潔く己が罪を認めるんだな」

 「黙れッッ!!隣国の王子に我らの大義の何がわかるッ!!
  これはアリウムを正しき道に導く覇道なのだッ!!誰であっても邪魔はさせんッ!!」


 その狂気じみた振る舞いに、兵は困惑と疑念を抱いて武器を降ろす。


 「かの剣聖が築いたこの国を守るためならばッッ!!
  私はどのような事だってしようッ!!アリウムの名は高潔であり唯一、
  未来永劫、世界に覇を唱えるべき者でなくてはならないッ!!
  何故ッッ!?なにゆえッ……それがわからないッッ!!!」


 この願いは、きっと純粋すぎたのだろう。


 過去、一人の騎士は剣聖と並んで戦場を馳せた。
 無双の月光に想いを乗せ、理想を掲げた大志が成就する度に、騎士の価値観は積み重なって不動となる。

 アリウムとは、かくあるべき。

 血と、剣と、大義と意思。

 全てが揃い合わさってこその国の名、騎士にとってはそれが全てだった。

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