天下無双の剣聖王姫 ~辺境の村に追放された王女は剣聖と成る~

作間 直矢 

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迷いと、後悔

五話

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 恐ろしい、ただ恐怖だけが感情を支配して戦火の灰が目の前で止まった。


 『お前なら、全員殺せる』


 煙管の煙が辺りを漂い、世界だけが止まる。

 懐かしくも神々しいその姿は、かの女神の再誕であった。


 『何を考える事がある?ここにいる全員殺せば、
  お前の願いは叶うだろう?ほら、殺さねば殺される』


 確かにそう、シバも、兵も、そして敵対する全てを殺せば済む話だ。

 けど、それをさせずに大切に育ててくれた義父がいる。
 その想いを無駄にすることなんて出来ない。

 出来ぬ、はずなのに―――


 『お前は最強だ、か細い人間風情に後れをとるほど弱くない、
  それにいまや、忌々しい月明かりさえお前の手の内だ、
  何を迷う必要がある?さっさと殺してしまえ』


 その声が私を誘い、惑わせた。

 握った柄が強みを増して、負の感情によって力がこもる。
 時間の進まない現実で、語りかける女神の言葉だけが唯一の拠り所。

 故に、シルバは銀月に魔力を注いだ。


 「二度と、大切な人を失う訳にはいかないっ……!!!」

 『そうだ、それでいい……さぁ魅せておくれ、お前の剣を』


 停止していた灰が舞い、急激な現実感に引き戻されて意識が覚醒する。

 銀月は薄暗く銀の光に包まれ、いつでも光波を飛ばせる状態でシバを睨む。


 「許しは、しません」

 「なら、私を殺すか?その有り余る殺気で」

 「そう―――」


 瞬間、シルバの殺気を感じ取りシバも応戦しようと剣を抜く、

 が、あまりに遅い。

 刀身を鞘から抜くまでに、彼を殺せる速度で剣は振られた。


 「ぬぅッ……!!」


 突然のシルバの豹変ぶりにシバは戸惑い、為す術も無く銀月の切っ先を見つめる。

 あとわずかの距離まで刃が迫った時、黒き旋風がそれを弾いた。


 ガキィンッ……!!


 剣聖の神業と、宝刀の業物によって相打った得物は砕け、彼は片手を抑えて現れた。


 「―――なりません、シルバ……その手で人を斬ってはいけませんッ……!!」


 黒鎧布をたなびかせ、既に満身創痍の身でありながら、全身に更なる呪いを巡らせてヒースはシルバの一撃を受け止めた。

 彼はシバを庇って、弾かれた右手から血を流して膝を付く。

 状況の変化に兵が取り囲み、シバは難を逃れて後退した。


 「どう、して……どうしてっ……ヒースッ…!!」

 「何があろうと、貴方をお守りするのが私の役目、
  その剣を汚したら最後、シルバを守り通す事は出来なくなりますッ……
  だからっ……決して迷わないでくださいッ……シルバの剣をッ!!」

 「私はっ……どうして……ごめん、ね……ヒース…」


 もはや手の施しようが無いほどの呪いは、ヒースの命を削り取って蠢く。

 首筋まで浸食した呪詛は、彼の身体を駆け巡って意識を奪った。
 倒れ込むヒースを必死に受け止め、詫びるようにシルバは剣を収めて涙を流す。

 もう、彼を裏切らない。

 この願いを踏みにじらない、そして、踏みにじらせもしない。


 「いやはや、これは何の真似かな?話し合いを放棄した……
  と、いう事でいいのかな?まさか死神の横やりが入るとは思わなかったが、
  なんにせよ私を出し抜く事は出来なかったな、偽の姫よ」

 「―――斬りかかった事実は謝ります、
  ですが、貴方の言葉には耳を貸すことはありません」

 「ほぅ、それは彼らの命を蔑ろにするということ、
  ひいては、この村の人達ですら見捨てる事になるが……
  分かっておいでか?状況は常に私が優位だという事を?」


 断れば黒き刃の四人を殺し、あまつさえ村人ですら人質に取る。

 高々と宣言した言葉は、遠回しな脅迫であり威圧。
 虚偽の命に騙されている兵達を前にしても、彼の詭弁は衰える事はなかった。


 「最初から……私は間違っていたのです、
  人を信じ、己だけで全てを背負うから失敗する、
  なればこそ、シバ公爵……あなたには従えない」

 「そう、ですか……それはとても、残念だ、
  お前にはまだ利用価値があった、だからこそ機会を与えてやった、
  だがもう、それすら無くなったお前に用はない」


 シバは視線を移し、兵に号令を下す。

 振り上げた手は、シルバ達の死刑宣告。
 囲んだ兵は魔術を構え、必殺の一撃に備えた。

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