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剣を司る者
一話
しおりを挟む―――ッカン……!!
心臓が止まる感覚と、聞き覚えのある煙管を弾く音。
視界に映る全ての時間が、止まっていた。
『そやつに罹っている呪い……祓ってしまうのか?』
全てが止まっているのに、吐かれた煙だけが怪しく漂う。
その煙を追って視線を移すと、気付けばシルバのいる空間がさっきまでいた部屋ではなくなっていた。
「―――本当にいつも、突然現れては私の心を乱しますね、
それに、ここはいったい……現実世界ではない、のでしょうか……」
『ふむ……敢えていうならその狭間、と言ったところか、
お主の精神構造を反映させた時の止まった世界、とでも言っておこう』
「私の精神を写しているのなら、随分とここは何も無いのですね、
ただひたすらに、浅い水たまりが延々と続く地平線……
正直言ってまったく心当たりの無い情景と感情に思えます」
わざとらしく辺りを見渡し、清々しい晴天と水面に反射する雲を仰ぎ見る。
この空間が意味する物を少し考え、だがすぐに諦めた。
『なぁ、小娘……アタシは死神めいたあやつの呪いを見届けたいのだ、
この意味がわかるだろう?それを理解したらこの世界にも納得いくはずだ』
「―――戯言を」
『そう殺気立つな、答えは明白かもしれぬが一応の対話をしてやっている、
そもそも、お前が狂気に呑まれず退屈な日々を送っているのが悪いのだ、
少しぐらい血と怨嗟に塗れた世界を作って何が悪い、なぁ?小娘?』
「その為に、ヒースの呪いを放置しろと」
『そうだっ!!あやつは面白いっ!!人間如きが神々の力に触れて
暴走しかけている、なんとも心躍る状況……これを黙って見ているなど、
アタシには―――剣の女神デュランザメスには絶対に出来ないのだよ』
最初から最後まで、己の享楽を目的としてきた女神。
この神が初めて声色を変えて、シルバと対峙した。
「あなたほどの女神様が、なぜこの様な形で剣を取るのか……
私には理解できません、ですが、我が道を阻む事は許さない」
『随分大口を叩くなぁ……小娘よ、少し祝福を授けたからと言って
このアタシがお前如きに負けはせぬ、それはわかるか?』
「なら、試してみましょうか」
構えを取り、剣を握る。
そして彼女は理解した。
この無限とも思える広い空間は、戦いに適した世界なのだと。
精神の奥底、その更に深淵に秘めていた想いは信仰していたこの女神を打ち破る事。
故に、無駄を一切排したこの情景こそが、私の闘技場。
『弱き人よ、お前の脆弱な精神をそのまま頂くとしようか』
「もう、あの時の自分ではありません……参りますッッ!!!」
銀月が、抜刀される。
「来い、人間」
シルバはヒースを救うため、かつての神に刃を向けた。
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