魔法少女 マジカル☆ドヘンタイ

沼米 さくら

文字の大きさ
5 / 20

#5 花と琥珀色の魔法少女

しおりを挟む

『もしもし、にーに』
 自宅のボロアパート。僕は電話に出ていた。
 電話の相手は、別の魔法少女。そして、僕の……ある意味上司と言えるような少女だ。
「聞こえるよ、エミリー。でも、にーにって呼ぶのはやめてくれないかなぁ」
『やだー。にーにはにーになんだもん』
 わがままそうな女の子の声。
 エミリー・ユーリン。十歳。世界魔法少女協会なるものの日本支部の支部長に十歳にして選出された、いわば日本の魔法少女の総大将的存在である。しかも五歳のころから五年間も魔法少女をやってるベテランだ。
 なお、にーにと呼ばれてはいるが血縁関係はないことを追記しておく。せいぜい僕が彼女に気に入られていて、来日したときに僕の家に転がり込む程度の関係だ。だいぶ深い気はする。
 にーにというのもたぶん同じ家に住んでいる時のカモフラージュ程度の意味なのだろう。さすがに海と大陸を挟んでまでこう呼び続ける必要はないぞ。
「ロンドンの生活はどうだい?」
 普通の世間話を振ってみると。
『まあまあ。いつも通りよ。……早く日本に帰りたいわ……』
 そんなため息を吐くエミリー。愁いを帯びたその声に儚さのようなものを感じたのも刹那。

『だって、日本のおむつのほうがきもちいいんだもん!』

 ……もうこんな発言にも慣れたものだ。
 鈴の鳴るような声の妹系美少女であるエミリーだって魔法少女。つまり、変態である。
 エミリーの性癖は「おしっこ」。
 おしっこ。おむつ。おもらし。放尿。そういった性癖の変態。それも、だいぶ拗らせたド変態である。
 おねしょも治しておらず、毎晩子供用のおむつで寝ている。たまにしなかった日でも朝一のおしっこは確実におむつの中にする。
 それどころか、たまに昼間もおむつをしていたり、普通のぱんつでも一日一回は確実におもらししていたりする。わざと。
『イギリスのも悪くはないんだけどねー。でも、日本の奴のほうが通気性が良くて好きよ。吸収帯もふわふわでデザインもかわいいし――』
「そんな話いらないから……」
 変態的なうんちくを披露する彼女に、僕は呆れた。
 デザインがかわいいというのには少しときめいたが、それは今度直接会ったときにでも話してもらうとして。
「そろそろ本題に行こうか。国際電話って高いし」
『もう、にーにってばせっかちなんだからー』
 僕が急かすと、エミリーは軽口を叩いてから、急に真剣な声音になって問い詰めてきた。
『新しい魔法少女が生まれたって、マジ?』
「マジ。この目で見た」
 答えると、彼女は少し間をおいてから再び僕に聞く。
 数時間前の出来事。僕は電子メールで歌恋ちゃんのことを伝えていたのだ。
『……その子って、年齢どのくらい?』
「十歳。エミリーとほぼ同じ。小四の女の子」
『そう……』
 悲し気に呟くエミリー。僕はわけもなく、視線を落とした。
 ――幼ければ幼いほど、世間を知らなければ知らないほど、自分が変態だという事実は受け入れにくいものだ。変態に悪いイメージを抱いていれば、それは尚更。
 自身の変態性癖を受け入れられなければ、闇堕ちする。闇堕ちとは、すなわち人類の敵である魔獣を生み出す側に寝返ること。
 魔法少女とは敵対することになる。元仲間同士で刃を向けあうことも、往々にして起こりうる。
『最悪、あたしが手をかけることにならなければいいけど』
 その言葉に、否定も肯定もできなかった。

 闇堕ちした魔法少女はもう元には戻せない。救うには殺すしかない。

 電話越しの少女は、そういった経験を何度も経ている。友達の命を奪ったこともある、なんて言っていた。
 エミリーは電話越しに息を吐いて、まくしたてるように告げる。
『……よし、今からそっち行くわ。飛行機の予約とって、日本、成田までだから……だいたい、三日くらい待ってて』
 それは、同じくらいの年の少女を、これ以上手にかけたくないという意思の表れか。それとも、日本の魔法少女のトップとしての矜持か。
『闇堕ち、させないようにね』
 その言葉が、僕にはひどく重くのしかかった。
「わかったよ。気を付ける」
 そう言うしかなかった。できなかった。
 保障なんてできないけど、珍しく真面目にまくしたてた彼女の期待を裏切ろうとは思えなかった。
『暴走なんて、させないでよね? ……仲間を手にかけるなんて、二度とごめんなんだから』
「うん。……気を付けて」
『じゃあね、にーに。また……三日後に』
 がちゃりと電話が切れる。
 ふっと息を吐いて、僕はボールペンを手に取った。
 まずはレポートを終わらそう。それで、部屋片づけて、あとは……魔法の練習もしよう。やってみたいことがある。
 今夜は眠れそうにないな……と、僕は少し頭を抱えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

OLサラリーマン

廣瀬純七
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小学生をもう一度

廣瀬純七
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

処理中です...