あさおねっ ~朝起きたらおねしょ幼女になっていた件~

沼米 さくら

文字の大きさ
19 / 50
よっかめ ~たのしいようちえん~

おままごと

しおりを挟む
 さて。
「あおいちゃん! おままごと!!」
 俺、日向蒼は、いま幼稚園の授業が終わったところだ。
 とはいえ、授業といっても簡単なお絵かきやとんでもなく基礎的な算数くらいで、頭を使うようなことは全くなく、現在だいたい二時半くらい。
 ……1+1を「さん!」とか「いや――むげんだいッ!」なんて割と本気で答えてた子にはちょっと笑っちゃったなぁ。
 閑話休題はこの辺にしておいて。
「ねーねー、あおいちゃんってばー!」
 さっきからずっと、なのちゃんに袖を引っ張られている。そういえば、朝の授業が始まる前に「おままごとで遊んであげる」って約束したんだっけ。
 正直、少し面倒だけど、仕方ない。というか、可愛い幼女と遊べるなんてまたとない機会を逃すわけには……いや、なんでもない。
「わかった。一緒に準備しよ」
「うんっ!」
 そんな会話をしたその時。
「ちょっとまった!!」
 聞こえた声に顔を上げてみると、そこにはこれまた元気そうな角刈りの男の子が。
「その子とはおれがあそぶってきめてたんだ!」
 うーん。全然身に覚えがないぞ。
「ちがうわ!」
 後ろから聞こえた声に振り向いてみると、そこにはいかにもお嬢様って感じのくるくるツインテールの女の子が、俺――いや、その後ろにいる男の子を指さしていて。
「あおいちゃんはあたしとあそぶってやくそくしたのよ!」
 いや、そっちも心当たりはないかなぁ。
 どっちも忘れてただけならすごく申し訳ないけど、少なくとも全然覚えてない。少し話したかもしれないけど、約束とかがあればちゃんと覚えてるはずだ。
 一方、なのちゃんはというと……意外なことに、二人に突っかからずに、俺の腕にしがみついている。肩に濡れた感じがするのは――涙?
「おれとあそぶの!」
「いや、あたしよ!」
「あおいちゃんはおれとあそびたいよね! そうだよね!」
「ちがう! あれはどうみてもあたしとあそびたがってるかおだわ! まちがいない!」
 バチバチと火花を散らす男の子と女の子。置いてけぼりになる俺に、ふたりは詰め寄って、選択を迫った。横から、息の詰まる声が聞こえ。
「ねぇ、おれとあそぼうよ。そんなおむつ女なんかほっといて、さ」
「いや、あたしとあそぼう。おむつのとれないあかちゃんとなんて、あなたもいやでしょ?」
 小さな泣き声。肩が濡れる。
 ……ああ、もう。
「うるさい!」
 俺は怒鳴った。
「なのちゃんのことを悪く言うな。おむつ女だとか、赤ちゃんだとか……言われたほうはどう思うのか、考えたことはあるか?」
『……』
 二人は押し黙った。それどころか、子供たちの騒ぎ声で埋め尽くされていたその教室が、一瞬で静まり返った。
 …………幼い彼らには、まだ少し難しかったのかもしれない。
 語調を柔らかくして、俺はつづけた。
「君たちにとっては当たり前のことかもしれないし、本当のことだから仕方ないというのかもしれない。でも、そんな些細な一部分だけを悪く言ってからかうのは、ひどすぎると思うんだ。……なのちゃんは、おむつで赤ちゃんなだけの子じゃないだろう?」
「………………」
 長く、黙ったままのふたり。その目に涙が浮かんでいるのが見えて。
「……ごめん、言いすぎた。偉そうに言っちゃって、怒鳴っちゃって、ごめん」
 そんなことだけ言って、俺は思わず逃げてしまった。

「あおいちゃん、どうしてあんなこと言ったの?」
「すみません。初めて仲の良くなった友達を悪く言われて、感情的になってしまい……」
「……うーん」
 別室にて。
 幼稚園の先生は、俺のしっかりとした受け答えを見て首をひねらせた。
 うんうんと呻き声をあげて考える彼女は、やがて立ち上がり、叫ぶように。
「あーもうっ! 単刀直入に聞くわ! あなたは何者なの!?」
 なにものもなにも。
「お、じゃなかった。わたしはただの六歳児ですが」
「こんなしっかりしすぎた六歳児ねんちょうさんがいてたまるかっ!」
 ……もっと子供らしく振舞ったほうがよかったかなぁ。
 ――だけど、彼らには一度こういう風に言っておくのが正解だったのかもしれないなんて、柄でもないのに思ってしまった。
 こんこんとノックの音。ゆっくりと開けられるドア。そこにはさっきの男の子と女の子が立っていた。
「……あおい、ちゃん。さっきは、なのちゃんのことバカにして、ごめんなさい!」
「ごめんなさい! もう、しないから……」
『いっしょにあそんでください!』
 頭を下げる二人に、俺は内心面食らった。
 そこまでしてか……。というか、完全に俺を年長者としてみてないか?
 ……まぁ、いいけどさ。気持ちは全然わかるし。
「なのちゃんには謝ったのかい?」
「うん! なのちゃんにもちゃんとごめんなさいしたよ」
「なら、よし」
 ちょっと偉そうにすましてみてから、俺は笑顔で言った。
「じゃあ、一緒に遊ぼうか」

 それからしばらくして、教室に戻って。
「おれとあそぶのー!」
「いやあたしがあそびたいの。じゃましないで」
 結局、俺の取り合いに逆戻り。でも。
「……だけど、きょうはいいや。あかね、さき、ゆずってやる」
「……こっちこそいいわよ。ろく、さきにあそんでいいよ」
 あれ? 流れが変わったぞ?
 どうやら、順番を譲り合ってるみたいだ。
 だけど、こういうことなら。
「順番こもいいけどさ、みんな一緒に遊んでみない?」
 提案してみると、二人は顔を見合わせ――
「あっ、あおいちゃん!」
 別室に行った時から離れてたなのちゃんがすり寄ってきて。
「あおいちゃん、さっきはありがと! ……ろくくんとあかねちゃんも、あやまってくれてありがとう」
「お、おう……」
「……」
 多少ぎくしゃくはしてるし、まだいい雰囲気とはいいがたいけど……さっきよりちょっとはよくなったのかな。
 そうだ。
「ねえ、いま二人と一緒に遊ばないかってこと話してたんだけど……どう?」
 すると、なのちゃんはもじもじしながら。
「……い、いいよ」
 これをきっかけに、なのちゃんにも『ともだち』って言える人が増えてくれればいいな、なんて。
 そんなことを考えてると、不意になのちゃんが俺のスカートをめくってきた。
「ひゃっ!? なに!?」
「おむつきもちわるいから……もしかしたらちーなのかなって。ついでにあおいちゃんもしちゃってたのかなって」
「……ちなみに結果は?」
「でてた!」
「よし、先生に言って替えてもらおうか!」
「あおいちゃんもだよ?」
「ふぇ!?」
 いつの間に出てたの。いやマジで。まったくそんな感覚なかったよ……。
 目の前の二人があっけにとられてる。……さっき「ろく」って呼ばれてた男の子が近づいてくる。下から何かをつかみ上げるような手で……おい、やめろ!
 防ぐのも間に合わず、ついにめくられてしまうスカート。おとこのこに……同性おんなのこならまだしも異性おとこのこに……っ!
「へんたいっ!」
 男の子の背後から叩く音。ろくくんの手が離れる。どうやらさっきの女の子――「あかね」って呼ばれてた子――に助けられたようだ。
 スカートを直しながら、俺は彼女にお礼を言った。
「あ、ありがと……」
「いいの。こいつ、どへんたいなんだから」
「だってぇ……おむつって……」
「かんけーないでしょ! ……どうだった?」
「ばっちりおむつだった。しかもちょっとくさかった」
 さっきまでのおよそ半日間秘密にしていたことが、続々とバレていく。
「けがされた……もうおよめさんにいけない……」
 俺はちょっと泣きたくなった。

 ……でも、あれ? 俺ってもともと男の子だったはずじゃ……ん?
 あとから冷静になって頭がこんがらがったのは、別の話。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

月弥総合病院

僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ナースコール

wawabubu
大衆娯楽
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

野球部の女の子

S.H.L
青春
中学に入り野球部に入ることを決意した美咲、それと同時に坊主になった。

小学生をもう一度

廣瀬純七
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

秘められたサイズへの渇望

到冠
大衆娯楽
大きな胸であることを隠してる少女たちが、自分の真のサイズを開放して比べあうお話です。

処理中です...