7 / 24
臆病者ゴートゥヘル(1)
しおりを挟む「おはよう、シキ!」
「ん……はよ……」
眩い朝日……とともに制服越しにハルのほどほどに大きなOPPAIが目に飛び込んで。
「……なんでせーふくきてんの?」
寝ぼけ眼で舌も回らないながらにした質問に、彼女は少しイラついた声で答える。
「これから学校に行くからよ! いつまでも休んでるわけにはいかないし」
「……なんで僕の部屋に来たんだ?」
「決まってるでしょ。一緒に行くからよ!」
嘘、だろ?
「やだやだやだやだ行きたくない行きたくない~~!!」
「いいから早く着替えなさい!!」
僕が必死にしがみついている布団を無慈悲にも引っぺがそうとしてくるハル。僕は半泣きで言った。
「というかなんであんなとこに行かせようとするのさー」
「学校は行かなきゃダメな奴でしょーが!」
わかってるけど! 普通は行った方がいいのはわかってるけど!!
「僕、友達いないし」
「いるでしょ、ここに一人」
「ほぼ身内だし。それに……」
いじめられるのが怖い。笑われるのが怖い。悪い印象を持たれるのが怖い。
故に、誰とも会わない。誰とも会わなければいじめられることもない。笑われることもない。何故なら、いじめる人も笑う人もいないのだから。
「とにかく、僕のことなんて気にしないで! 早く学校行ってきなよ」
「やだよ。シキのいない学校なんて言っても面白くないんだもん」
「いいや、僕以外の友達と遊んだほうが楽しいだろ」
「そんなわけないし。確かに遊べるけどシキといたほうが楽しいもん」
一方通行な議論。僕は少しの怒りを抱き。
「すとっぷ。落ち着いてくださいお姉ちゃんたち」
そこに現れたのは、赤いランドセルを背負ったアキちゃんだった。
「痴話喧嘩はよそでやってくださいよ。いくら両思いだからって」
『ち、違うしっ! ただの幼馴染だし!!』
「……いつまでもお幸せに」
言ってる意味はちょっとよく分からなかったが、ひとまず頭を冷やす。
「その、悪かった」
「いいの。それで、学校行くの?」
「行きたくない」
そこは譲る気はない。理由は先述の通りだ。だが、そこにいる小学生は僕の方をじっと見つめて言った。
「行った方がいいと思いますよ、学校」
「なんでアキちゃんまでそんなこと言うんだよう……」
半泣きで尋ねると、少女はまじめな顔をして。
「お姉ちゃん、今のあなたは昔のあなたじゃないんです。姿も変わって、心も……きっと、変わりつつある」
「人生、何事も挑戦っていうじゃん?」
「ハルさん、いいこと言いますね。……きっと、大丈夫。あなたが信じる限り、なんだって変えられるのだから」
じっと目を見つめられ、少しだけどきりとして、さっと目を逸らした。
変わりたい。こんなくそったれな自分を変えたいと願った僕はどこに行ってたんだ。
「……わかったよ。行けばいいんだろ! 行けば!」
やけくそになって叫ぶと、ハルは「やったぁー!」と年甲斐もなくはしゃいだ。それほどのことなのか……?
ひとまず僕は制服を手に取り、数秒の硬直。そして、またも半泣きで聞いた。
「女子制服ってどう着るの……」
まあ、昨日の認識改編だか何だかの話の時点で察してはいた。僕は生まれた時から女の子だったことにされているので服も女物しかない。すなわち制服も女子のそれに置き換わっているというわけで。
「シキ、制服の着方くらい」
「わかるかっ! というか制服一つでも男女で結構違うものなんだね……ワイシャツのボタンが逆だし……スカート短いし……」
「いいじゃん、これから慣れてけば。あんまり似合ってないのも……まあ、どうにかなるって」
「やっぱり似合ってないよな!? ……心配だ……」
「どうしてこの人はネガティブなとこばっかり拾うんでしょうか……」
ため息を吐くアキちゃん。かわいい。
それを横目に、今度は教科書の束を引っ張り出してきて。
「……今日の授業、なに?」
「えーっと……英語、数学、現代文……あと体育! あとは……」
言われた通りの教科書とノートをリュックに詰め込んでいく。
誰かに迷惑をかけるわけにはいかないから、忘れ物は絶対にしないように気を付けるのだ。
「というか、体育か……やだな……」
「なんで? 今日はテニスだよ?」
「いや、体育自体が嫌いなんだよ。体を動かすのが苦手というか……あんまりいい思い出はないし……」
「あー……そうだったねそういえば」
忘れてたのか、俺がものすごい運動音痴だということを。
この姿ならそりゃワンチャンいけるかもだけど……。
「でも、大丈夫でしょ。いざとなったら『生理です』って言って休めばいいだけだし」
「それはズルだろ……」
冷静なツッコミもほどほどに、僕はリュックを背負った。
うわ、めっちゃ重い……。少しだけよろめきつつも立ち上がり。
「じゃあ、早く行きましょう」
無表情のアキちゃんがせかす。……いま気づいたんだけど。
「……アキちゃんも学校行くの?」
「はい。外面上有利になりますし……あと人脈はどんなものでもうまく使えば武器になると親に教わったので」
きっといい親に育てられたんだろうな……。うちの親も見習ってほしいところだよ。いや、悪い親ではなかった……はずだけど。
……そんな親ともう数か月も顔を合わせてないのは申し訳ないと思ってます。
『行ってきまーす』
僕たちはおそらく誰も残っていないであろう自宅に別れを告げて、学校へと歩いた。
0
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
黒に染まった華を摘む
馬場 蓮実
青春
夏の終わり、転校してきたのは、初恋の相手だった——。
鬱々とした気分で二学期の初日を迎えた高須明希は、忘れかけていた記憶と向き合うことになる。
名前を変えて戻ってきたかつての幼馴染、立石麻美。そして、昔から気になっていたクラスメイト、河西栞。
親友の田中浩大が麻美に一目惚れしたことで、この再会が静かに波紋を広げていく。
性と欲の狭間で、歪み出す日常。
無邪気な笑顔の裏に隠された想いと、揺れ動く心。
そのすべてに触れたとき、明希は何を守り、何を選ぶのか。
青春の光と影を描く、"遅れてきた"ひと夏の物語。
前編 「恋愛譚」 : 序章〜第5章
後編 「青春譚」 : 第6章〜
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件
暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる