BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび

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BADEND6

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バタバタ…

足音を大きく鳴らしながら部屋から飛び出し、部屋で休んでいるはずの兄さんの部屋の扉を勢いよく開くとビクッと兄さんが飛び起きるのが目に映る。
寝ようとしていたらしい兄さんの身体にそのままの勢いで抱き付くと、眠そうな兄さんの顔を見上げた。






「兄さん…っ!」

「ゆ、唯兎くん…?どうしたの?」

「兄さんは…藍田さんって覚えてる…!?ほら、学校で俺の忘れ物を届けてくれた人いたでしょ!?」






焦り過ぎて兄さんが落ち着いて、と言う言葉は俺の耳には入ってこずただ兄さんに今必要な情報を聞き出そうと声を荒げていた。

あの後、桜野にも大原にも何度も確認して…2人とも藍田さんを覚えていない事。
そもそも知らない人である事を伝えられていた。

そんな筈はない。
だって、2人と…藍田さんに会ってる。
お爺ちゃんと藍田さんと…深緑でカフェラテを淹れてもらって…っ!

頭が混乱し過ぎて息が切れる。
はぁはぁ、と呼吸を荒くする俺に兄さんは背中をゆっくり摩りながら兄さんは口を開く。






「…ごめんね、僕はちょっと藍田さんって人知らないや」






キーン、と耳鳴りがする。

どうして?
兄さんは絶対藍田さんに会っていて、名前だって…俺に本を返してくれる時に知っていた筈なのに。

あれだけ騒いでいた俺が一気に静かになった事で兄さんは心配したのか、俺をベッドに座らせると頭を抱えて優しく撫でた。
大丈夫?どうしたの?何かあった?
そう聞いてくる兄さんに何も反応出来ない。
最後にもう一つ、確認したら…部屋に戻ろう。

身体に力が入らない俺を支えてくれている兄さんを見上げると心配そうに首を傾げていた。







「…スマホの、連絡先リスト見せて」

「…え?」

「見せてくれるだけでいいから、お願い」






弱々しく頼む俺に困惑しながらもベッド横のサイドテーブルから充電していたスマホを取ると、ロックを外してからすぐに俺に渡してくれる。
ソッとそれを受け取ると、連絡先一覧を見る。
藍田さんの名前は確実に始めの方にある筈なのに、ない。
念の為下の方を見ても、やっぱりない。

もう、混乱を通り越して真っ白だ。

それでも心臓は嫌な音を立てていて、俺はグッと苦しくなる胸を押さえながら兄さんにスマホを返した。







「…唯兎くん、大丈夫…?」

「…大丈夫、ありがとう…寝るところに来てごめん」







ヨロヨロと立ち上がり、心配そうな兄さんに見送られながら部屋から出て行くとそのまま自室へ戻り自分のスマホを取り出した。
自分の連絡一覧にも、藍田さんの名前はない。

どうして。

さっきからこの問いしか生まれてこない。
その問いに答えられる術も、人物もいない今…ただその事実を否定するために証拠を探すしか俺にできることはない。

…そうだ、あの動画。

俺はスマホをゆっくり操作し、松岡先生に対して使用する予定だったあの日の動画を再生した。
画面は真っ暗だが、俺と先生の声がハッキリと残っている。
…助けてくれたのは藍田さんだ、それなら当然藍田さんの声も残っている筈。

静かな室内でその動画をジッと聞いていくと、そろそろ藍田さんが来てくれるであろう部分に差し当たった。







《ああ!ほらこんなにもフラフラじゃないか!ダメだよ無理したら…ほら、先生の家に向かおう》

《ちょ、離して…っ!》






あの日の嫌な記憶が脳に蘇る。
自然と眉間に皺が寄るのを感じるが、今はそれどころじゃない。
そろそろ…そろそろだ。
藍田さんが俺を助けてくれた音声はきっと…







《…っ、藍田…さん》







………あれ?






《…この子はうちの生徒ですよ。体調が悪そうだから一度家に来て貰って落ち着いたら送り届けます。貴方こそ無関係では?》






いない。
どこにも、いない。

何度再生しても、いた筈の藍田さんの声が…そこにはいなかった。

どうして。

どうしてこの世界は、俺が頑張ろうとしたら根本から否定するような事をするの?
どうしてこの世界は、俺から大事なものを奪って行くの?
どうして…幸せになろうとしてるだけなのに幸せから遠ざけようとするの…?

どうして…。

何度も何度も同じ動画を確認し、確認したところで変わらない残酷な現実に本当に心が折れそうになる。
胸が苦しい。
息がしにくい。

ボロボロと流れ出る涙が俺のスマホを濡らしていくが、それを気にする余裕なんてなく藍田さんがいなくなった現実を受け入れるしかなかった。







『また来週、来いよ。その時に答え聞かせてやる』







藍田さん、もう1週間ですよ。
答え…教えてください…っ。
俺、そのために…藍田さんが辛くならないために…っ!

唸るような声をあげながら、俺はただ涙を流すことでしかこの気持ちに対抗する術を持ち合わせていなかった。

いつの間に眠ってしまったんだろう。
顔中に乾いた涙の跡がついてる感覚に自然と不快感が強くなり、勢いや身体を起き上がらせると顔を洗ってこよう…と寝た時の格好のまま洗面所に向かった。
ぬるま湯で顔を洗えばカサカサとしていた涙の跡もキレイになり、しっかり目も覚めた。

一晩泣いた。
そうしたらあとは…行動するだけ。
何が起きてるのか、一体どうして藍田さんがいなくなってしまったのか。
まずは今日、深緑に行ってみよう。

それから…_____

なんて考えながらリビングの扉を開けると、そこにはポカンと口を開いている兄さんとコンビニのものであろう2個入りのケーキと、お皿とフォークが用意されていた。
…なんでケーキ?

首を傾げながらリビングに一歩入ると、慌てた様子の兄さんがあわあわと俺に言葉を並べた。







「あ、あっ!あ、朝早いね…!もっとゆっくりしてても、いいんだよ…!」

「…おはよ、もう目が覚めたから大丈夫だけど…今日何かあったっけ?」

「お、おはよ…えと…昨日元気なかったから何かできないかなって考えてね、ちょっと日付過ぎちゃったけど唯兎君の誕生日をって」







コンビニだけどね。

なんて照れたように笑う兄さんに藍田さんの事で硬くなっていた心があたたかいもので包まれた感覚が生まれた。
ほわっとあたたかい兄さんの気遣いに嬉しくなった俺は頬が緩むのを感じて兄さんに甘えて兄さんが朝から買ってきてくれたであろうケーキと、淹れ慣れていないことが伺える紅茶を楽しむことになった。

数日過ぎた誕生日ではあるが、きっと今までは誕生日に祝うなんて考えることすらできない関係だった筈。
それでも俺のためにこうして何かをしようと考えてくれるくらいに俺の事を許してくれた事実が嬉しい。

藍田さんのことは確かに不安で、心配で…悲しい。
でも俺だって弱いままじゃない。
これからのことをしっかり考えないと…。







「兄さん、この前話してたホラー映画なんだけど早めてもいい?」

「映画館に行くやつだよね?いいよ、唯兎君に合わせる」

「ありがと、じゃあ……」






観に行きたい日、時間。
それらは前回よりずっと早いけど、確かゲームでも栗河さんはあの映画館でバイトをしていた筈。
前の世界でシフトを聞いていたから、それを考慮して兄さんを誘ってみたからおそらくは問題なく出逢える、と思う。
それで無理そうだったらまた後日1人で会いに行くことを考えるだけだ。

よし、と気合を入れると同時にケーキをまた一口と口に含んだ。

























朝ごはんに、とケーキを食べた俺は心配そうにしている兄さんに一言告げて外に出た。
向かう先は深緑。
藍田さんは本当にいないのか、それとも…いるのに何かおかしなことが起きているのか。

元々おかしな事が起きまくっているこの世界だ、ショックは受けど驚きはしない。
夏の空が暑く照らしてくる中、通い慣れた道を歩きもう少しで深緑が見えてくる場所まで来た。
そこでつい、足を止めてしまう。

これから待ち受けているかもしれないショックに、足が動かない。
どうして、だなんて当たり前のことは思わない。
自分にとって大きな存在がいなくなってしまったかもしれない、そう考えるだけで足の力が抜けそうなくらいショックなんだ。
それを目にした瞬間のショックは更に大きいのは想像に難しくない。

それでも、確かめない事には今後のことを考えるのも難しくなる。
震えそうになる足を両手でバンっと叩くと、大きく息を吸って止まっていた足を無理矢理動かした。

目にした先には、確かにいつもと変わらない深緑がある。
営業は…しているようだ。
バクバクと嫌な音を立てる胸を押さえながらゆっくりと店の前まで移動すると、中には知らないお兄さん。
すーっと心臓の音が静かになる。

心の中の自分が無になるのを感じながら扉を開けば、カランカランとお客さんを迎える聞き慣れた鐘の音。
見慣れた店内。
嗅ぎ慣れた匂い。

その中にいる、見知らぬお兄さん。






「いらっしゃい、好きなところ座ってどうぞ」

「……は、い」






なんとなくいつも座っているカウンター席には座りたいと思わず、少し離れたテーブル席に座ってみるとお兄さんが水と注文は決まっているか聞きに来た。







「何を飲むか決まってるかな?メニューはここの…」

「あ、の…アイスの、カフェラテを…」

「アイスカフェラテだね、かしこまりました」







微笑みながら見知った店内を歩く見知らぬ人は俺から見たらかなり歪で、見ているだけで眩暈がしてくる。
でも、もしかしたら…今日は藍田さんはお休みで、代わりに頼まれた人かもしれないし。
ほら、お父さんだって店にいたくらいだから親戚の人とか…。

そう、現実から目を背けるような事ばかり考えてながら手に持っていたスマホを画面を見ることもしないままただ弄っているといつの間にか出来たらしいカフェラテを持ってお兄さんがすぐ隣に来ていた。






「アイスカフェラテ、お待たせしました」

「あ、ありがとうございます。あの…」

「はい?」

「この、お店に…藍田和彦さんって、います…?」







お兄さんの方を見る事が出来ないまま、俯いた状態でそう聞くとお兄さんは不思議そうな声で、即答した。








「…初めて聞く名前だね、誰かな?」








それから、店内での記憶はほとんどない。
せっかく淹れてくれたカフェラテの味は、当たり前だが俺の知ってるものではなくただ気持ちを落ち込ませる材料へとなってしまった。
そんなカフェラテをなるべく早く飲み干し、気持ちを落ち着かせるために外に出たいと早めにお会計に行くとずっと失礼な事をしている俺に対しても優しく「また来てね」と声をかけてくれた店員さんに申し訳なく思いながら頭を下げて店を出た。

店を出たあとは何も考えず、ただただ家に向かって歩いていた。
顔を上げられず、汗が滝のように流れるのもそのままにただ、何も考えず歩き続けた。

知ってたはずだ、ショックを受けると。
それでも確認せずにはいられなかった、自業自得だ。
そう理解していても悲しいと、辛いと叫ぶ気持ちを抑えることは出来ないのが人間というもの。
俺は静かに唇を噛み締めながら、藍田さんの声を思い出していた。























「唯兎君…?」






たまたま、そう本当にたまたま。
佐久間の後についてまわり、佐久間が寄っていくと言っていた本屋に向かっている途中だった。

唯兎君が1人、胸を押さえながらとあるカフェの近くで深呼吸をしていたのだ。
そのカフェは、深緑。

藍田和彦に会いにいくのか?
それにしては表情が暗い気がする。






「栗河?どうした?」

「あ、いや…」






唯兎君がいる場所はここから離れていない。
すぐに向かえば呼び止めることも出来るだろう。
ただ、唯兎君が本当に藍田和彦に会いに来ただけならそれは迷惑にも繋がる。
俺は佐久間が本屋に入っていくのを見届けながら、念の為とカフェに入っていく唯兎君を見守り、何かあった時のためにと本屋の外で待った。

夏の日差しは眩しい、というより痛い。
これは日焼けするかもしれないな、と腕を摩っていると意外と早く唯兎君がカフェから出てきた。
問題なかったのか、と安心したのも束の間入る前よりずっと顔色が悪く…心なしか足取りも覚束ないようにも見える。

声をかけるべきか、と足を一歩前に出すと後ろから佐久間が俺を呼んだ。






「栗河?どうした?」

「え、あ、いや」

「なぁ、これから俺の家来るか?この前言ってたお勧めの本貸してやる」







今回の世界に来てから一度も行っていない家に、今日に限って呼ばれるなんて。

次、はもしかしたらないのかもしれない。
佐久間は気まぐれだ、今回これを逃したらもう呼ばれない気がする。

けど、唯兎君のことも気になる。
そう思いチラッと唯兎君の方を見るとゆっくりとした足取りで歩いている。
進む方向は家のある方、このまま帰るつもりなのだろう。
それならまた近々会えるだろうし、その時話を聞くか。

そもそも、今の唯兎君が俺の知っている唯兎君の可能性も100%あるわけでもない。
俺の好きな、あの子の可能性もある。

それならいきなり話しかけたら警戒されてしまうかもしれない。
そう結論つけた俺は佐久間の方に近付き、そのまま2人で佐久間の家へ向かった。

その日はただ2人で本を読み、約束していた本を借りて解散しただけではあったが俺は久しぶりに佐久間の近くにほぼ1日いられて大きな満足感、多幸感を得られていた。
このまま佐久間にアピールを続けて、なんとか佐久間が俺の方を向いてくれるように…そう、思っていた。

あの日から2日後、俺は佐久間に呼ばれてある公園に来ていた。
いつもより暑くなると天気予報で告げられていたその日は本当に暑く、ジリジリと肌が焼かれるような痛みを強く感じた。
早めに来ていた俺は佐久間が痛くないようにと日傘を2本持参していて、佐久間と合流したらもう一本を貸すつもりだった。

今日は何の用だろう、佐久間の方から呼び出すのは初めてだ。

そうドキドキと高鳴る胸を押さえながら待つと、時間通りに佐久間が現れた。
予想通り日傘も何も差していない佐久間に慌てて駆け寄り、今使っている日傘を差し出した。






「今日暑いだろ、日傘あると楽だから。ほら」

「いい」

「でも、今日相当暑くなるって…」

「長居はしない」








そう言い放つ佐久間に俺は困惑してしまった。
冷たく突き放すような言い方ではないが、どこか…いつもと違う言葉の温度に戸惑っていると佐久間が遠慮なしに口を開いた。







「俺、彼女出来た」

「………は」







何を言ってる?

わからない、どうして。
俺はずっと佐久間に好きだってアピールしてて…それなのに、どうして。







「あ、いて…は…?」

「幼馴染。元々向こうは好きな人に好かれるために努力してたんだけど、それを見ててすげー気になったから告白した。丁度向こうもフラれたタイミングだったからそのまま付き合える事になった。これでいいか?」

「なんで、俺…ずっとお前に好きだって…っ」

「お前、俺と一緒にいるだけでいいって言ってたよな?それ以上望んでないんじゃなかったのか?」







そう言われると、何も言えなくなる。
確かに俺は気持ちに応えられなくても近くにいられたらいいって、前の佐久間と同じように伝えていた。

何も言えない俺に背中を向けた佐久間は俺から数歩距離を取った後、少しだけ俺の方を向いて







「もう俺に告白しても意味ないって事を伝えに来ただけ。貸した本はそのままやるよ」







そう言い放つと、それ以上何も言わずに俺の前から去っていった。

…どうして。
俺はお前に、気持ちを…。

佐久間がいたところをじっと見つめながら動けずにいた俺は、いつの間にか日傘を下に落としてしまっていた事も気付かないまま立ち尽くした。
頭がクラクラする。
そういえば、飲み物…今何時だ?

ダメだ、顔を上げられない。
どうして、佐久間。
目がグルグルする、まわる。
佐久間…。

自身の体調不良と、佐久間の姿に翻弄されながらその場にしゃがみ込み動けずにいると近くを通った人が俺の様子に気付き救急車を呼んでくれた。

結果は熱中症。

熱は高く、俺の状態を見た医者は3日程の入院を俺に告げ両親へ連絡した。
病院からの知らせを受けた両親が入院手続きや必要なものを持ってきてくれる中、俺は何も言葉に出来ないままぼーっとするだけ。

もう、何かを考えるのが…疲れた。

熱に浮かされ、考える力を失った俺の頭は閉じた目と共に動く事をやめた。
ごめん、唯兎君。

…ごめん、唯兎。

俺、思ってた以上に佐久間が好きだったみたい。
自分勝手で、ごめん…唯兎。
























…いない。

今日は兄さんと例のホラー映画を観に栗河さんがいる筈の映画館に来ていた。
映画が始まるまでキョロキョロと探してみたものの、栗河さんはおろか佐久間さんの姿も見えない。

…今日、休みの日だったのかな。

いや、まだわからない。
栗河さんのことを考えていた事もあり、映画の内容が全然頭に残っていない。
それでもあっという間に過ぎた時間は俺の気持ちを急かすようで、俺は小走りでポップコーンを販売しているレジに向かった。







「あの!栗河凪さんって、今日お休みですか?」

「いらっしゃいませ…えーと、栗河さんはお休み…というより、暫く出勤できないみたいで」

「ど、どうしてですか?」

「えーと、従業員情報だからこれ以上はちょっと…」







苦笑しながら答えてくれるお姉さんにこれ以上はダメか…と落ち込みながらごめんなさい、と頭を下げる。
それを見ていた兄さんもすみません、とお姉さんに謝りながら俺の手を引いて休憩出来るように椅子へと連れていってくれた。







「唯兎君、どうしたの?その人がどうかした?」

「…会わないといけないんだ。でも、ここにいないとなると…どうしたらいいかわからない…」






前の世界で栗河さんの家に行った事はあるが、それは栗河さんが一人暮らししていた時の家だ。
その家には今は誰も住んでいない事は確認済み、だから映画館だけが最後の頼りだったのに…。

栗河さんが前の世界で一緒だった栗河さんだなんて保証はない。
それでも、会うだけでも気持ちの整理はつくと勝手に決めつけて…会えるものだと。
今日は休みで、また後日くれば大丈夫だと思い込んでいた。

…どうしたらいいの。

勝手に栗河さんに頼って、頼れないとなると答えが出せなくなる自分が嫌になる。
それでも、藍田さんだっていなくなり…栗河さんまでいなくなってしまうとなると…どうにも出来ない気がしてしまう。

…ダメだ。
弱気になるな、俺は頑張るって…泣くのはあの日だけって決めただろ。

フルフルと頭を振って勢いよく立つと、俺は兄さんの腕を掴んで帰ろう!とそのまま帰路についた。



それからというもの、俺は一日一日が辛かった。

いつ、誰が消えてしまうのかわからない恐怖。

明日には桜野や大原だっていなくなってしまうかもしれない、そう思うと側にいるのが怖くなってしまう。

兄さんが消えてしまうかもしれない。
そう思うと、話すのも怖くなってしまう。

怖い。
怖い。
怖い。
怖い。

何をするのも怖い。

父さんに電話したら、父さんが消えてしまうかもしれない。

怖い。
怖い。
怖い。
怖い。

俺が…何かしたら誰かが消えてしまうかもしれない。

怖い。
怖い。
怖い。
怖い。



俺の脳には、恐怖しか残らなかった。
何をするにも、誰かが消えてしまうかもしれないという恐怖。
俺が存在するだけで、誰かが消えてしまうかもしれない恐怖。

だんだんと、俺は学校に行くのも。
誰かに連絡を取るのも。
部屋を出るのも。
食事をするのも。

だんだんと、怖くなり。

だんだんと、何もしなくなり。

だんだんと、

だんだんと…____




俺は、自分が消えてしまえば誰も消えずに済むのかもしれないと考え。





だんだんと…______






鍵をかけた扉をドンドンと叩く音を聞きながら






だんだんと…______________







手首から滴る赤いものを静かに眺めていた。
















     【バッドエンド】


___________壊れた歯車___________


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