いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼

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3.優しい両親と冷たい婚約者

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コンコンというドアのノックと共に、父と母が雪崩れ込むように入ってきた。

「ローゼ! 目が覚めたのか!」
「ローゼ! 大丈夫!? 気分はどう?」

二人とも私の元に駆け寄ると、母は私を抱きしめ、父は私の手を握った。

「もう大丈夫ですわ。熱も引いたようですし、気分も良いです。心配かけてごめんなさい。お父様、お母様」

二人を安心させようと、私はにっこりと微笑んだ。

「本当に? でもやつれた顔して・・・」

母は私の頬を撫でながら、心配そうに顔を覗き込んだ。

「それは当然ですわ。今起きたばかりですもの。飲まず食わずで四日も寝ていたのでしょう? そう言えば、喉が渇いたわ」

「そうよね! まず、水分を補給しないと! マリアンヌ、お水を頂戴!」

「はい!!」

マリアンヌはすぐに水の入ったコップを母に渡した。
母は上半身起き上がった私に、自ら水を飲ませようとする。私は苦笑いをしてそれを断って、コップを受け取った。

「本当に心配したよ。このまま熱が下がらないようなら、レイモンド卿にも連絡して、結婚式も延期にしようって話していたんだよ」

父は、水を飲み終えた私からコップを受け取ると、空いた私の手を握った。

「でも、大丈夫そうか? お前があんなにも待ち望んでいた結婚式だ。延期などせずに挙げてやりたいが、また倒れるようなら・・・」

「もう大丈夫ですわ、きっと・・・」

私は父に向かって頷いた。

「そうか・・・」

「あなた、まずはお医者様の診察が先ですわよ。その結果、いくらローゼが大丈夫と言っても、お医者様がダメと言ったら延期です!」

「そ、そうだな」

私は今生の両親をじっと見つめた。
優しい父と母。ちょっと過保護気味で、私をとても大事にしてくれる。
二人の愛情に、ジーンと胸が熱くなり、鼻の奥に痛みが走った。

「まあ、ローゼ! 何で泣いているの? まだ頭が痛いの?!」
「大丈夫か? ローゼ!」

「違いますわ、嬉しいのです・・・。こんなに心配してもらって・・・。ごめんなさい、心配をかけているのに、嬉しいなんて言って・・・」

「何を言っている。心配して当然だろう。可愛い娘を」
「本当よ。まあまあ、泣き虫さんね」

母は優しく私を抱きしめてくれた。父も握っている手を優しく摩ってくれる。
私の目から涙が止めどもなく溢れてきた。
二人から感じる温かい体温から、もう一組の両親の愛情が交わって私の中に流れ込んでくる感覚を覚え、切ない気持ちと幸せな気持ちが入り混じり、涙を止めることが出来ない。

私は暫くの間、母に身を預けたまま泣き続けた。





アーサー・レイモンド侯爵令息。

私の婚約者の名前だ。
彼との結婚は子供の頃から決まっていた。

初めて会ったのは私が10歳で、彼が12歳の時だ。
その時の印象は、細身で頼りなさそうで、どこか儚さを感じさせる寂しそうな少年だった。
口数も少なく、私が一方的に話し、それをただ頷いて聞いている暗い子供だった。これは仲良くなるのに時間が掛かりそうだと一人不安を感じていたことを覚えている。

加えて、レイモンド侯爵家の領地は我が家から遠い。婚約者としての仲を深めたくても頻繁に会える距離ではなのだ。
それ以来会うことは無く、次に再会したのは、五年後の15歳の時。その時のアーサーは17歳。身長は伸び、幼さはすっかり消え、端正な少年成長していた彼に、私は一目惚れしてしまった。
そして、また会えずに時を過ごし、三年後の18歳。20歳になりさらに男前になった彼にもう一度恋に落ちた。

この頃は私も婚姻に向け、王都にある今のタウンハウスで過ごすようになり、既に王宮で仕事をされているアーサーと頻繁に会うことが出来た。
とは言っても、アーサーは忙しい。頻繁と言っても、過去に比べてというだけ。大した回数は会っていない。基本はひと月に二回のお茶会。それすらもすっぽかされることがあった。

つまり、9年間、彼の婚約者で有りながら、数えるほどしか会っていないのだ。20回も無いのではないか?

それでも、彼に恋している私は幸せの絶頂にいた。
だが、つい五日前、それは打ちのめされたのだ。

久々のアーサーに会えて喜ぶ私に彼が放った言葉。

『君も分かっているとは思うが、これは政略結婚だ。私に愛されたいという思いを持っていたら捨ててくれ。その期待には応えられない』

あの時、その場では気丈に振舞っていたが、部屋に帰ってから泣き崩れた。

しかし、最後にはそれでもいいと、自分が愛する人の妻になれるなら、愛されなくてもいいと思うようにした。それすら叶わない令嬢だっているのだから、自分は恵まれていると言い聞かせたのだ。

だが、翌日、私は熱を出した。
三日三晩うなされていたらしい。

そして今日、目覚めたのだ。前世の記憶と共に。
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