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20.レイモンド侯爵家(アーサーside)
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悪魔や魔女、亡霊、吸血鬼、呪い・・・。
そんな言葉は小説の中にしか存在しないものだと思っていた。
実際に見たとか体験したなどと言っても、それは寝ぼけていたり、酔っぱらって前後不覚になった人間が、得体の知れない物―――実際は、風に揺れていた柳の枝や、猫や鼠がぶつかって動いた人形など―――を化け物だとか悪魔だとか騒ぎ立てたり、簡単には証明ができない不可思議な事を目にした時に、幽霊の仕業だとか神のご加護などと安易に片付ける人々の妄想だ。
そんな風に思っていたし、まったく信じていなかった。
しかし、12歳の時だった。
母が突然亡くなった。
もともと病弱ではあった。貧血だったのか、顔色はいつも悪かった。
それでも本人は明るく気丈に振舞っており、寝込むことなどほとんどなかった。
それが、突然息絶えたのだ。朝に侍女が起こしに行った時にはベッドで冷たくなっていたそうだ。
私は母に会うことを許されなかった。
最後に母に会ったのは、綺麗に化粧を施された棺の中。
それから一年後の13歳になった誕生日に、父の書斎に呼ばれた。
その時にレイモンド侯爵家の秘密を打ち明けられた。我が家の子息には代々吸血の呪いがかけられていると。
まず、自分の耳を疑った。
―――何を言っているんだろう? 父上は。頭でも打ったのかな?
これが本当に最初に思った私の素直な感想。だって、到底信じられない。
だが、父の悲愴な面持ちを見ているうち、母の亡くなる数日間の異常なほど血色の悪かった顔を思い出し、背筋がゾッと震えた。
父の説明によると、この呪いは私の四代前の当主まで遡るという。
曾々祖父である当時の当主が、奥方―――つまり私の曾々祖母に先立たれ、悲しみのあまり精神が壊れてしまった。
国中から黒魔術が使えるという者を呼び寄せ、妻を生き返らせるよう命じた。
もちろん、集まった者は金目当てのイカサマ師ばかり。
当然、生き返らせることは出来ず、失敗したイカサマ師は怒り狂った当主にその場で無残に斬り殺されたらしい。
何人の黒魔術師が殺されたのか・・・あまりの惨状に息子が止めに入らなければ、この国のイカサマ師は一掃されていたかもしれないというほど屍の山になったそうだ。
それでも諦めきれない当主は、自ら黒魔術を学び始めた。
我が家の蔵書は王家のそれと引けを取らない。それどころか怪しげな秘蔵書が幾つもある。
彼はある日、その膨大な蔵書から魔術よりも悪魔を呼び寄せる本を見つけ出した。
すっかり心が壊れている当主は、悪魔に直接縋ろうと思ったのだろう。代償があるなど思いも付かなかったに違いない。
祈る思いで、本の通り行動する。
そうして呼び出したのは小さい手のひらに乗るような小さな悪魔だった。
当主は彼に妻を生き返らせてくれと懇願した。
すると、彼は簡単に承諾してくれた。代償は彼の一滴の血。
当主はすぐにナイフで小さく自分の指を切ると、悪魔に与えた。
悪魔はそれを飲み込むと、満足したように指を鳴らした。
『墓へ行ってみろ。奥方はもう目覚めているぞ。早く迎えに行ってやれ』
そう言って消えてしまった。
当主が急いで墓へ向かうと、墓は掘り返され、棺が開いていた。
中を見ると、横になってスースーと気持ちよさそうに寝息を立てている妻がいた。
当主は無我夢中で彼女を抱き寄せ、大いに泣き、喜んだ。
生き返った妻を今まで以上に大切にし、そして、二人が共にしている時間をより一層の喜びと幸せを感じながら生きていた。
しかし、それも僅か二週間で終わってしまった。
悪魔から得られた時間は限りがあったのだ。
当主はもう一度悪魔を呼び寄せた。
今回は、血なんぞ、一滴どころかもっとくれてやる。
だから、わずかな時間ではなく、まっとうに生き返らせてくれ。
そう願うつもりだった。
しかし、返ってきた返事は残酷だった。
『蘇りの魔術は一度しか使えない。もともと人間が生き返るなど、道理から外れている。諦めるんだな』
この悪魔の返事に、当主は怒り狂った。
その場にあった銀の短剣で、小さい悪魔を切り裂いた。
小さな黒い塵になりながら、悪魔が苦しげに唸った。
『お前の・・・、お前の一族を呪ってやる・・・。末代まで・・・。血に飢えた化け物にしてくれるわ・・・!』
最後にそう言い残し悪魔は絶命した。その場には黒い塵が残った。
そして、その日から息子が吸血鬼になったのだ。
そんな言葉は小説の中にしか存在しないものだと思っていた。
実際に見たとか体験したなどと言っても、それは寝ぼけていたり、酔っぱらって前後不覚になった人間が、得体の知れない物―――実際は、風に揺れていた柳の枝や、猫や鼠がぶつかって動いた人形など―――を化け物だとか悪魔だとか騒ぎ立てたり、簡単には証明ができない不可思議な事を目にした時に、幽霊の仕業だとか神のご加護などと安易に片付ける人々の妄想だ。
そんな風に思っていたし、まったく信じていなかった。
しかし、12歳の時だった。
母が突然亡くなった。
もともと病弱ではあった。貧血だったのか、顔色はいつも悪かった。
それでも本人は明るく気丈に振舞っており、寝込むことなどほとんどなかった。
それが、突然息絶えたのだ。朝に侍女が起こしに行った時にはベッドで冷たくなっていたそうだ。
私は母に会うことを許されなかった。
最後に母に会ったのは、綺麗に化粧を施された棺の中。
それから一年後の13歳になった誕生日に、父の書斎に呼ばれた。
その時にレイモンド侯爵家の秘密を打ち明けられた。我が家の子息には代々吸血の呪いがかけられていると。
まず、自分の耳を疑った。
―――何を言っているんだろう? 父上は。頭でも打ったのかな?
これが本当に最初に思った私の素直な感想。だって、到底信じられない。
だが、父の悲愴な面持ちを見ているうち、母の亡くなる数日間の異常なほど血色の悪かった顔を思い出し、背筋がゾッと震えた。
父の説明によると、この呪いは私の四代前の当主まで遡るという。
曾々祖父である当時の当主が、奥方―――つまり私の曾々祖母に先立たれ、悲しみのあまり精神が壊れてしまった。
国中から黒魔術が使えるという者を呼び寄せ、妻を生き返らせるよう命じた。
もちろん、集まった者は金目当てのイカサマ師ばかり。
当然、生き返らせることは出来ず、失敗したイカサマ師は怒り狂った当主にその場で無残に斬り殺されたらしい。
何人の黒魔術師が殺されたのか・・・あまりの惨状に息子が止めに入らなければ、この国のイカサマ師は一掃されていたかもしれないというほど屍の山になったそうだ。
それでも諦めきれない当主は、自ら黒魔術を学び始めた。
我が家の蔵書は王家のそれと引けを取らない。それどころか怪しげな秘蔵書が幾つもある。
彼はある日、その膨大な蔵書から魔術よりも悪魔を呼び寄せる本を見つけ出した。
すっかり心が壊れている当主は、悪魔に直接縋ろうと思ったのだろう。代償があるなど思いも付かなかったに違いない。
祈る思いで、本の通り行動する。
そうして呼び出したのは小さい手のひらに乗るような小さな悪魔だった。
当主は彼に妻を生き返らせてくれと懇願した。
すると、彼は簡単に承諾してくれた。代償は彼の一滴の血。
当主はすぐにナイフで小さく自分の指を切ると、悪魔に与えた。
悪魔はそれを飲み込むと、満足したように指を鳴らした。
『墓へ行ってみろ。奥方はもう目覚めているぞ。早く迎えに行ってやれ』
そう言って消えてしまった。
当主が急いで墓へ向かうと、墓は掘り返され、棺が開いていた。
中を見ると、横になってスースーと気持ちよさそうに寝息を立てている妻がいた。
当主は無我夢中で彼女を抱き寄せ、大いに泣き、喜んだ。
生き返った妻を今まで以上に大切にし、そして、二人が共にしている時間をより一層の喜びと幸せを感じながら生きていた。
しかし、それも僅か二週間で終わってしまった。
悪魔から得られた時間は限りがあったのだ。
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今回は、血なんぞ、一滴どころかもっとくれてやる。
だから、わずかな時間ではなく、まっとうに生き返らせてくれ。
そう願うつもりだった。
しかし、返ってきた返事は残酷だった。
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この悪魔の返事に、当主は怒り狂った。
その場にあった銀の短剣で、小さい悪魔を切り裂いた。
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『お前の・・・、お前の一族を呪ってやる・・・。末代まで・・・。血に飢えた化け物にしてくれるわ・・・!』
最後にそう言い残し悪魔は絶命した。その場には黒い塵が残った。
そして、その日から息子が吸血鬼になったのだ。
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