いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼

文字の大きさ
37 / 62

37.元凶

しおりを挟む
到着が夕方だったので、屋敷内の案内は明日ということで、夕食後はすぐに休ませてもらうことにした。
しかし、どうしても一か所だけ先に行っておきたい場所があり、使用人に無理を言って連れてきてもらった。

それは、代々レイモンド侯爵家当主の肖像画が飾られている廊下のギャラリーだ。

「ありがとう。一人でゆっくり拝見したいの。貴女はもう下がっていいわ。部屋までの道順は覚えたから一人で戻れるわ」

連れてきてくれたメイドは心配そうにしていたが、蝋燭を私に手渡すと言われた通り下がっていった。

私は一番端の新しい肖像画の前に立った。これは義父だ。凛々しくて男前だ。堂々とこちらを向いている姿が様になっている。はっきり言って格好良い。流石親子。

「でもアーサーの方が格好いいわね」

ふふんっとつい勝ち誇った笑みを浮かべてしまう。

私は肖像画を見上げながらゆっくりと歩き始めた。そしてある肖像画の前で立ち止まった。
書かれている名前を確認する。

『ウィリアム・レイモンド』

そこには細身の中年男が描かれていた。

生気には溢れ、威風堂々と描かれているその姿は、侯爵家当主に相応しい威厳が滲み出ている。この時代、きっとこの屋敷の中、いや、この領土で絶対的な権力を持っていたのだろう。誰もがひれ伏して当たり前、そんな存在であることを自覚しているような瞳でこちらをじっと見据えている。絵画だというのにその瞳から放たれる強い威圧感。これが実物だったら震え上がりそうだ。

だが、私は臆せずにその男を睨みつけた。
そうだ! こいつだ! この呪いの元凶ジジイ!
私はレイモンド侯爵家に来たら、まず初めにこいつに一言モノ申してやりたかったのだ。

「ウィリアム・レイモンド様!」

私はその男の肖像が前で仁王立ちになった。

「ご先祖様にこのように意見を申し上げるのは無礼で罰当たり、且つ身の程知らず、さらに場違いであることは承知の上、貴方様に申し上げますわ」

私は額縁の中の男に向かってビシッと人差し指を向けた。

「貴方様の過去の愚行のせいで今も子孫は苦しんでおります。私の大切な人も毎日苦しみ涙を流しています! それはお分かりですわよね?」

そうよ! あんたのせいで私のアーサーはどれだけ苦しんでいるか!

「私はこの元凶をどうしても断ち切りたいのです!」

私は蝋燭を足元に置くと、肖像画の前に跪いた。そして祈るように両手を胸の前に組み、彼と向き合った。

「ウィリアム様。貴方様も心から後悔されたと伺っております。それが本当ならば、どうか私に力を貸してくださいませね! 天から見守ってください!」

私はそっと目を閉じた。
数秒祈りを捧げた後、ゆっくり立ち上がった。
最後にその場を離れる時、もう一回肖像画に振り向いた。そして再度彼に向かって指を差した。

「いい? 絶対だから! だってあなたのせいなんですからね!」

うん! 言ってやった! ああ、すっきりした。明日以降に備えてもう寝よう!





翌朝から私は精力的に動き出した。
執事のエリオットが忙しい時間を割いて、屋敷内を案内してくれた。

その中でも一番気になっていたのは、レイモンド家自慢の書庫と元凶ジジイ、もとい、ウィリアム・レイモンドの研究室だ。

「こちらが図書室でございます」

重厚感あふれる扉の前でエリオットが立ち止まる。ゆっくりと扉を開け、私を中へ誘ってくれた。

「うわ・・・」

部屋に足を踏み入れた途端、無意識に感嘆の溜息が漏れた。
壁一面、天井に届くまである本棚だけでなく、何列にも規則正しく連なる棚まであり、すべての棚にぎっしりと且つ美しく書籍が並んでいる。相当な書籍の数だ。

「ご自慢の書庫とはよく言ったものね・・・」

周りを見渡して思わず独り言ちた。エリオットに振り返ると、ふふんとドヤ顔していた。自慢したがるのは分かるわ。

「では、エリオット。この中で呪いに関する黒魔術系の書籍はどこにあるのかしら?」

私の問いにエリオットは急に顔が曇った。

「・・・黒魔術は禁書でございますから・・・。奥にございます小さな部屋に保管されております。誰も開けてはならない禁忌の部屋として錠を掛けております」

「誰も? 私も入れないの? それは困るわ!」

だって私の目的そのものなのに!

「いいえ。若奥様は特別でございます。ただ・・・その・・・」

「?」

言い淀むエリオットに首を傾げた。
エリオットはコホンと軽く咳をすると、すぐに姿勢を正し、軽く頭を下げた。

「失礼いたしました。旦那様からの許可は得ております。こちらでございます」

そう言って部屋の奥に向かって歩き出した。
首を傾げてついて行くと、部屋の角に小さな扉があり、その前で立ち止まった。
扉を見ると、大きくてやたらと派手な錠前が付いている。ここは禁忌であることを示さんばかりだ。

エリオットはポケットから鍵を取り出すと、錠前に差し込んだ。
カチャリと音がすると錠が外れた。ギィーっと軋んだ音共に扉が開く。
足を踏み入れると・・・。

「え・・・?」

私は絶句した。

「えっと・・・?」

言葉に詰まりその場に佇む。
私の斜め後ろで、ハア~とはめ息が聞こえた。エリオットだ。

「はい・・・。この通り、現在禁書はほとんどございません」

私の目の前には幾つのも本棚が並んでいる。しかし、その中は殆んど空。数冊の本がポツンポツンと遠慮がちに置いてある。

「四代前のご当主がほとんど焼き捨ててしまったと聞いております」

はああ? なにやってんの!? 元凶ジジイ!

「ご自分の愚行を後悔し、二度と同じ過ちを繰り返してはならないと強い反省のもと、忌まわしい禁書はすべて廃棄されたようです」

分からんでもない! いや、分かるよ? こんな忌まわしい本があるからいけないわけで、そんなもは下手すりゃ犯罪の温床だもんね! 同じ過ち繰り返さないためって分かるよ? 崇高な考え方だと思いますよ? でも、でもさぁ、それって、

「証拠隠滅じゃん~~!」

いきなり出鼻を挫かれた私はその場にへたり込んだ。

しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

私の頑張りは、とんだ無駄骨だったようです

風見ゆうみ
恋愛
私、リディア・トゥーラル男爵令嬢にはジッシー・アンダーソンという婚約者がいた。ある日、学園の中庭で彼が女子生徒に告白され、その生徒と抱き合っているシーンを大勢の生徒と一緒に見てしまった上に、その場で婚約破棄を要求されてしまう。 婚約破棄を要求されてすぐに、ミラン・ミーグス公爵令息から求婚され、ひそかに彼に思いを寄せていた私は、彼の申し出を受けるか迷ったけれど、彼の両親から身を引く様にお願いされ、ミランを諦める事に決める。 そんな私は、学園を辞めて遠くの街に引っ越し、平民として新しい生活を始めてみたんだけど、ん? 誰かからストーカーされてる? それだけじゃなく、ミランが私を見つけ出してしまい…!? え、これじゃあ、私、何のために引っ越したの!? ※恋愛メインで書くつもりですが、ざまぁ必要のご意見があれば、微々たるものになりますが、ざまぁを入れるつもりです。 ※ざまぁ希望をいただきましたので、タグを「ざまぁ」に変更いたしました。 ※史実とは関係ない異世界の世界観であり、設定も緩くご都合主義です。魔法も存在します。作者の都合の良い世界観や設定であるとご了承いただいた上でお読み下さいませ。

はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「はじめてお目にかかります。……旦那様」 「……あぁ、君がアグリア、か」 「それで……、離縁はいつになさいます?」  領地の未来を守るため、同じく子爵家の次男で軍人のシオンと期間限定の契約婚をした貧乏貴族令嬢アグリア。  両家の顔合わせなし、婚礼なし、一切の付き合いもなし。それどころかシオン本人とすら一度も顔を合わせることなく結婚したアグリアだったが、長らく戦地へと行っていたシオンと初対面することになった。  帰ってきたその日、アグリアは約束通り離縁を申し出たのだが――。  形だけの結婚をしたはずのふたりは、愛で結ばれた本物の夫婦になれるのか。 ★HOTランキング最高2位をいただきました! ありがとうございます! ※書き上げ済みなので完結保証。他サイトでも掲載中です。

その発言、後悔しないで下さいね?

風見ゆうみ
恋愛
「君を愛する事は出来ない」「いちいちそんな宣言をしていただかなくても結構ですよ?」結婚式後、私、エレノアと旦那様であるシークス・クロフォード公爵が交わした会話は要約すると、そんな感じで、第1印象はお互いに良くありませんでした。 一緒に住んでいる義父母は優しいのですが、義妹はものすごく意地悪です。でも、そんな事を気にして、泣き寝入りする性格でもありません。 結婚式の次の日、旦那様にお話したい事があった私は、旦那様の執務室に行き、必要な話を終えた後に帰ろうとしますが、何もないところで躓いてしまいます。 一瞬、私の腕に何かが触れた気がしたのですが、そのまま私は転んでしまいました。 「大丈夫か?」と聞かれ、振り返ると、そこには長い白と黒の毛を持った大きな犬が! でも、話しかけてきた声は旦那様らしきものでしたのに、旦那様の姿がどこにも見当たりません! 「犬が喋りました! あの、よろしければ教えていただきたいのですが、旦那様を知りませんか?」「ここにいる!」「ですから旦那様はどこに?」「俺だ!」「あなたは、わんちゃんです! 旦那様ではありません!」 ※カクヨムさんで加筆修正版を投稿しています。 ※史実とは関係ない異世界の世界観であり、設定も緩くご都合主義です。魔法や呪いも存在します。作者の都合の良い世界観や設定であるとご了承いただいた上でお読み下さいませ。 ※クズがいますので、ご注意下さい。 ※ざまぁは過度なものではありません。

悪女役らしく離婚を迫ろうとしたのに、夫の反応がおかしい

廻り
恋愛
第18回恋愛小説大賞にて奨励賞をいただきました。応援してくださりありがとうございました!  王太子妃シャルロット20歳は、前世の記憶が蘇る。  ここは小説の世界で、シャルロットは王太子とヒロインの恋路を邪魔する『悪女役』。 『断罪される運命』から逃れたいが、夫は離婚に応じる気がない。  ならばと、シャルロットは別居を始める。 『夫が離婚に応じたくなる計画』を思いついたシャルロットは、それを実行することに。  夫がヒロインと出会うまで、タイムリミットは一年。  それまでに離婚に応じさせたいシャルロットと、なぜか様子がおかしい夫の話。

酷いことをしたのはあなたの方です

風見ゆうみ
恋愛
※「謝られたって、私は高みの見物しかしませんよ?」の続編です。 あれから約1年後、私、エアリス・ノラベルはエドワード・カイジス公爵の婚約者となり、結婚も控え、幸せな生活を送っていた。 ある日、親友のビアラから、ロンバートが出所したこと、オルザベート達が軟禁していた家から引っ越す事になったという話を聞く。 聞いた時には深く考えていなかった私だったけれど、オルザベートが私を諦めていないことを思い知らされる事になる。 ※細かい設定が気になられる方は前作をお読みいただいた方が良いかと思われます。 ※恋愛ものですので甘い展開もありますが、サスペンス色も多いのでご注意下さい。ざまぁも必要以上に過激ではありません。 ※史実とは関係ない、独特の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。魔法が存在する世界です。

「君以外を愛する気は無い」と婚約者様が溺愛し始めたので、異世界から聖女が来ても大丈夫なようです。

海空里和
恋愛
婚約者のアシュリー第二王子にべた惚れなステラは、彼のために努力を重ね、剣も魔法もトップクラス。彼にも隠すことなく、重い恋心をぶつけてきた。 アシュリーも、そんなステラの愛を静かに受け止めていた。 しかし、この国は20年に一度聖女を召喚し、皇太子と結婚をする。アシュリーは、この国の皇太子。 「たとえ聖女様にだって、アシュリー様は渡さない!」 聖女と勝負してでも彼を渡さないと思う一方、ステラはアシュリーに切り捨てられる覚悟をしていた。そんなステラに、彼が告げたのは意外な言葉で………。 ※本編は全7話で完結します。 ※こんなお話が書いてみたくて、勢いで書き上げたので、設定が緩めです。

元聖女になったんですから放っておいて下さいよ

風見ゆうみ
恋愛
私、ミーファ・ヘイメルは、ローストリア国内に五人いる聖女の内の一人だ。 ローストリア国の聖女とは、聖なる魔法と言われる、回復魔法を使えたり魔族や魔物が入ってこれない様な結界を張れる人間の事を言う。 ある日、恋愛にかまけた四人の聖女達の内の一人が張った結界が破られ、魔物が侵入してしまう出来事が起きる。 国王陛下から糾弾された際、私の担当した地域ではないのに、四人そろって私が悪いと言い出した。 それを信じた国王陛下から王都からの追放を言い渡された私を、昔からの知り合いであり辺境伯の令息、リューク・スコッチが自分の屋敷に住まわせると進言してくれる。 スコッチ家に温かく迎えられた私は、その恩に報いる為に、スコッチ領内、もしくは旅先でのみ聖女だった頃にしていた事と同じ活動を行い始める。 新しい暮らしに慣れ始めた頃には、私頼りだった聖女達の粗がどんどん見え始め、私を嫌っていたはずの王太子殿下から連絡がくるようになり…。 ※史実とは関係ない異世界の世界観であり、設定も緩くご都合主義です。魔法も存在します。作者の都合の良い世界観や設定であるとご了承いただいた上でお読み下さいませ。 ※クズがいますので、ご注意下さい。

愛しているなら何でもできる? どの口が言うのですか

風見ゆうみ
恋愛
「君のことは大好きだけど、そういうことをしたいとは思えないんだ」 初夜の晩、爵位を継いで伯爵になったばかりの夫、ロン様は私を寝室に置いて自分の部屋に戻っていった。 肉体的に結ばれることがないまま、3ヶ月が過ぎた頃、彼は私の妹を連れてきて言った。 「シェリル、落ち着いて聞いてほしい。ミシェルたちも僕たちと同じ状況らしいんだ。だから、夜だけパートナーを交換しないか?」 「お姉様が生んだ子供をわたしが育てて、わたしが生んだ子供をお姉様が育てれば血筋は途切れないわ」 そんな提案をされた私は、その場で離婚を申し出た。 でも、夫は絶対に別れたくないと離婚を拒み、両親や義両親も夫の味方だった。 ※独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

処理中です...