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55.壮絶な姿
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悪魔を壮絶な姿を目の当たりにして、ウィリアムの蛮行を改めて思い知らされた。
私は言葉を発することが出来ず、その場に立ち尽くしてしまった。
「お前は何者だ・・・?」
「わ、わた・・・、わたく・・・しは・・・」
アレクと同じ尖った耳、潰れた鼻、眉や髪など毛が無い皮膚。真っ赤な目。
それでもアレクとは全然違う。
アレクよりも大きい耳、アレクより濃い灰色の皮膚。そしてその皮膚に刻まれた皺。
そして何よりも彼をグロテスクにしているのは上半身しかないその姿。
その化け物が私を鋭く睨みつけている。私は喉の奥が詰まり、思うように話せない。
「ここは・・・。この場所は覚えがあるぞ・・・」
悪魔は低く呟いた。その声に強い怒りと憎悪を感じ取り、私はその場に崩れ落ちるよう膝をついた。
「お許しくださいませ・・・。どうか、お許しくださいませ」
祈るように手を合わせ、やっとの思いで言葉を発した。
「先祖の・・・愚かな行いを・・・、あなたへの卑劣な行為を・・・、野蛮な行為をどうか・・・、どうかお許しください・・・」
「許せだと・・・?」
冷たく怒りに満ちた声に、私は俯いた。
許せだと? 本当だ、私は何を言っているのだ?
こんな酷い目に遭って・・・、下半身をもぎ取られてどう許せと? 許せるはずがないではないか。何て烏滸がましい!
その上、呪いを解いてくれなど、一体どの口が言えるのだ?
「申し訳・・・ございません・・・」
私は手を降ろして項垂れた。立ち膝が崩れ、床に座り込んだ。
身体に力が入らない。
自分の浅はかさと傲慢さ・・・。如何に自分達のことしか考えていなかったのか・・・。
ここにきて自分の愚かさを叩きつけられた。恥ずかしくて顔を上げることが出来ない。
「ローゼ、どうした? 大丈夫か?」
アレクが私の足元まで降りてきた。私の膝に両手を付き、心配そうに私を見上げる。
「何で泣いてるんだ? 針を刺したところが痛いのか?」
「ううん・・・。大丈夫よ、指は痛くないわ・・・」
私はアレクを安心させようと無理やり笑顔を作ろうとしたが、きっとできていない。
「痛いのは・・・」
胸だ。心が痛い。
ここまでの残虐行為を目の当たりにして許せと堂々と言ってのける自分の心が痛い。
「それでも・・・」
私はギュッとスカートを握りしめた。
それでも私は許しが欲しいのだ。
呪いを、怨念を解いてほしいのだ。
愛する人たちの苦悩を取り除きたいのだ。
「あなた様のお怒りはごもっともでございます。許せなどと傲慢なことを申し上げてしまいました。本当に申し訳ございません」
私は勇気を出して顔を上げた。
「ですが、今現在あなた様の呪いで苦しんでいる者は愚行をおかした当の本人ではなく、子孫ではありませんか。更にあの者はもう何代も前の人。とうの昔に亡くなっており、面識もないのです」
両手を合わせ、悪魔を見る。彼の大きく真っ赤な目は力強く私に注がれている。
私は恐れずにその真っ赤な瞳を見つめ返した。
「罪のない者に負わせる罰としては余りにも酷でございます。子孫として生まれてくる者は親を選べないのですから」
私は姿勢を直し正座すると、両手を床についた。アレクが慌てたように膝から退いた。
「恥を忍んでお願い申し上げます。どうか呪いを解いてくださいませ。この通りでございます」
私は頭を下げた。額が床につくほど深く。必死に誠意を示したつもりだった。
だが、頭上から降り注ぐ声は冷たかった。
「愚かな。呪いをいつまでも継続させているのはそっちだろうが。子など作らねばいいだけの話。血を絶やせばいい」
え・・・?
「滅びてしまえばいい。それだけのこと」
何て言った?
私は土下座したままの状態で固まった。
「お前も上手い事を言ったな。生まれてくる者は親を選べないと。正しくそうだ。あんな屑の血を引いた者など生まれない方がいい。生まれてくる子の為、世の為にもな」
私は言葉を発することが出来ず、その場に立ち尽くしてしまった。
「お前は何者だ・・・?」
「わ、わた・・・、わたく・・・しは・・・」
アレクと同じ尖った耳、潰れた鼻、眉や髪など毛が無い皮膚。真っ赤な目。
それでもアレクとは全然違う。
アレクよりも大きい耳、アレクより濃い灰色の皮膚。そしてその皮膚に刻まれた皺。
そして何よりも彼をグロテスクにしているのは上半身しかないその姿。
その化け物が私を鋭く睨みつけている。私は喉の奥が詰まり、思うように話せない。
「ここは・・・。この場所は覚えがあるぞ・・・」
悪魔は低く呟いた。その声に強い怒りと憎悪を感じ取り、私はその場に崩れ落ちるよう膝をついた。
「お許しくださいませ・・・。どうか、お許しくださいませ」
祈るように手を合わせ、やっとの思いで言葉を発した。
「先祖の・・・愚かな行いを・・・、あなたへの卑劣な行為を・・・、野蛮な行為をどうか・・・、どうかお許しください・・・」
「許せだと・・・?」
冷たく怒りに満ちた声に、私は俯いた。
許せだと? 本当だ、私は何を言っているのだ?
こんな酷い目に遭って・・・、下半身をもぎ取られてどう許せと? 許せるはずがないではないか。何て烏滸がましい!
その上、呪いを解いてくれなど、一体どの口が言えるのだ?
「申し訳・・・ございません・・・」
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身体に力が入らない。
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ここにきて自分の愚かさを叩きつけられた。恥ずかしくて顔を上げることが出来ない。
「ローゼ、どうした? 大丈夫か?」
アレクが私の足元まで降りてきた。私の膝に両手を付き、心配そうに私を見上げる。
「何で泣いてるんだ? 針を刺したところが痛いのか?」
「ううん・・・。大丈夫よ、指は痛くないわ・・・」
私はアレクを安心させようと無理やり笑顔を作ろうとしたが、きっとできていない。
「痛いのは・・・」
胸だ。心が痛い。
ここまでの残虐行為を目の当たりにして許せと堂々と言ってのける自分の心が痛い。
「それでも・・・」
私はギュッとスカートを握りしめた。
それでも私は許しが欲しいのだ。
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愛する人たちの苦悩を取り除きたいのだ。
「あなた様のお怒りはごもっともでございます。許せなどと傲慢なことを申し上げてしまいました。本当に申し訳ございません」
私は勇気を出して顔を上げた。
「ですが、今現在あなた様の呪いで苦しんでいる者は愚行をおかした当の本人ではなく、子孫ではありませんか。更にあの者はもう何代も前の人。とうの昔に亡くなっており、面識もないのです」
両手を合わせ、悪魔を見る。彼の大きく真っ赤な目は力強く私に注がれている。
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だが、頭上から降り注ぐ声は冷たかった。
「愚かな。呪いをいつまでも継続させているのはそっちだろうが。子など作らねばいいだけの話。血を絶やせばいい」
え・・・?
「滅びてしまえばいい。それだけのこと」
何て言った?
私は土下座したままの状態で固まった。
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