31 / 97
30
しおりを挟む
暫く三人で同じポーズをしていたが、ザガリーがパンッと手を叩き、私たちを見た。
「こうしていても仕方がありません。とにかく、今日はもうお帰り下さい。弟子たちが帰ってくる前に」
そうだ。ザガリーは自分たちの弟子の関与も疑っている。それだけでなく、秘密を一人で背負ってくれようとしているのだろう。
「クリスにも用心しましょう。まだ近くにいるかもしれない。裏口から出て行かれた方がいい。でも、その前に!」
ザガリーはそう言ったと思ったら、部屋の棚に向かうと、小さな引き出しから一つの瓶を取り出した。
「殿下、いくら侯爵家の中が安全とは言え、油断してはいけません。さらに身元がバレないように、これで変装なさった方がよろしい」
「これは・・・?」
レオナルドは首を傾げた。
「髪染めです。殿下の御髪は見事な金髪ですからな。特徴を変えればそれだけ身バレはしにくくなります」
確かに、レオナルドの髪は美しい金色。その美しさは宮廷内で褒め称えられるほど。特にご令嬢方には定評がある。
美しい金髪と言えばレオナルド。レオナルドと言えば美しい金髪の王子様と、ご婦人方にチヤホヤもてはやされていた。そう言えば。
「一瞬で髪色を変化させる飲み薬はありますが、既に謎の薬を飲んでいる以上、他の薬を飲むのはリスクがあります。古典的ですが髪染めをお使いください」
「・・・分かった」
頷いたレオナルドを見て、ザガリーは何故かその瓶を私に渡す。
「お帰りになったら早々に殿下の髪の毛を染めて差し上げてください。今は時間がありませんから」
私がかい?!
唖然としている私を余所に、ザガリーはいそいそと帰り支度を整え始める。
レオナルドの金髪を隠すため、スカーフで頭を覆っている。それが終わると、棚からまた何やら持ってきて、私に差し出してきた。
「エリーゼ様もこちらをお使いください」
受け取ったのは、長い金髪ストレートのカツラだった。
・・・。
なぜ、私まで?
そして、なぜ、この家にカツラあるの? しかも女性の・・・。
「いろいろ突っ込みたいところがあり過ぎて・・・、一体どこから突っ込んでいいのか・・・」
「それは後日承りましょう。今は急いでください」
サラッと流しやがったわ!
覚えておきなさいよっ、このジジ・・・このご老人め!
☆彡
裏口に連れて行かれると、ザガリーが一歩外に出て周りの様子を伺った。
「誰もおりません。今のうちに」
長い金髪のカツラを被った私は、ストールで覆ったレオナルドを抱いて外に出た。
「では一旦お暇しますわ。例の物は可及的速やかに、超特急でお作り下さいね!」
「もちろん善処いたします。どうぞお気を付けて」
そう頭を下げるザガリーに見送られ、私はパトリシアの待つカフェに急ぐ。
まずい。一時間は絶対経っている。既にザガリー宅へ向かっていたらどうしよう。違う道を歩いているのだ。鉢合わせすることはない。
大通りに出ると、周りを見渡す。例のカフェが斜め前に見える。
どうやら、今歩いてきた道は、行きの道の一本隣だったようだ。
「あ! あそこ!」
レオナルドが指を差した方を見る。
そこには、パトリシアとトミーが例の曲がり角の前で細道を覗き込んでいた。二人で何やら話している。きっと、迎えに行くべきか、もう少し様子を見るべきか話し合っているのだろう。
「よかった、間に合った・・・」
ホッとするのも束の間。二人は例の脇道に入って行ってしまった。
「うそ・・・、ちょっと、待って・・・!」
私は大慌てで追いかけようとしたが、
〔おい、お前がちょっと待て! 俺たちが追いかけるな!〕
腕の中でレオナルドが小声で制した。
〔あの通りに入るな! 何のために裏口から出てきたんだ!〕
〔でもっ、じゃあ、どうすれば・・・っ?〕
〔そこにいる子供を使え! 子供に頼め!〕
レオナルドが振り向いた方を見る。そこには利発そうな男の子が二人いた。
私は急いでお金を取り出すと、彼らを呼んだ。
「坊やたち、お願いがあるの! 今その角を曲がったカップルを呼んできてちょうだい!」
「へ?」
ポカンとしている子供たちそれぞれの手にお金を握らせた。
「二人に追い付いたら、『馬車で待つ』と伝えてちょうだい!」
二人は握らされたコインの額を見て目を輝かせた。
「ついでに、駆け落ちは駄目よって伝えて!」
「わ! すげっ、なんか大変じゃん!」
「分かった! まかしてくれ、ねーちゃん!」
二人は大きく頷いて駆け出した。凄い速さ。よかった、かけ足の速い子たちで。
私はホーッと溜息を付くと、我が家の馬車が停まっている預り所まで歩き出した。
「こうしていても仕方がありません。とにかく、今日はもうお帰り下さい。弟子たちが帰ってくる前に」
そうだ。ザガリーは自分たちの弟子の関与も疑っている。それだけでなく、秘密を一人で背負ってくれようとしているのだろう。
「クリスにも用心しましょう。まだ近くにいるかもしれない。裏口から出て行かれた方がいい。でも、その前に!」
ザガリーはそう言ったと思ったら、部屋の棚に向かうと、小さな引き出しから一つの瓶を取り出した。
「殿下、いくら侯爵家の中が安全とは言え、油断してはいけません。さらに身元がバレないように、これで変装なさった方がよろしい」
「これは・・・?」
レオナルドは首を傾げた。
「髪染めです。殿下の御髪は見事な金髪ですからな。特徴を変えればそれだけ身バレはしにくくなります」
確かに、レオナルドの髪は美しい金色。その美しさは宮廷内で褒め称えられるほど。特にご令嬢方には定評がある。
美しい金髪と言えばレオナルド。レオナルドと言えば美しい金髪の王子様と、ご婦人方にチヤホヤもてはやされていた。そう言えば。
「一瞬で髪色を変化させる飲み薬はありますが、既に謎の薬を飲んでいる以上、他の薬を飲むのはリスクがあります。古典的ですが髪染めをお使いください」
「・・・分かった」
頷いたレオナルドを見て、ザガリーは何故かその瓶を私に渡す。
「お帰りになったら早々に殿下の髪の毛を染めて差し上げてください。今は時間がありませんから」
私がかい?!
唖然としている私を余所に、ザガリーはいそいそと帰り支度を整え始める。
レオナルドの金髪を隠すため、スカーフで頭を覆っている。それが終わると、棚からまた何やら持ってきて、私に差し出してきた。
「エリーゼ様もこちらをお使いください」
受け取ったのは、長い金髪ストレートのカツラだった。
・・・。
なぜ、私まで?
そして、なぜ、この家にカツラあるの? しかも女性の・・・。
「いろいろ突っ込みたいところがあり過ぎて・・・、一体どこから突っ込んでいいのか・・・」
「それは後日承りましょう。今は急いでください」
サラッと流しやがったわ!
覚えておきなさいよっ、このジジ・・・このご老人め!
☆彡
裏口に連れて行かれると、ザガリーが一歩外に出て周りの様子を伺った。
「誰もおりません。今のうちに」
長い金髪のカツラを被った私は、ストールで覆ったレオナルドを抱いて外に出た。
「では一旦お暇しますわ。例の物は可及的速やかに、超特急でお作り下さいね!」
「もちろん善処いたします。どうぞお気を付けて」
そう頭を下げるザガリーに見送られ、私はパトリシアの待つカフェに急ぐ。
まずい。一時間は絶対経っている。既にザガリー宅へ向かっていたらどうしよう。違う道を歩いているのだ。鉢合わせすることはない。
大通りに出ると、周りを見渡す。例のカフェが斜め前に見える。
どうやら、今歩いてきた道は、行きの道の一本隣だったようだ。
「あ! あそこ!」
レオナルドが指を差した方を見る。
そこには、パトリシアとトミーが例の曲がり角の前で細道を覗き込んでいた。二人で何やら話している。きっと、迎えに行くべきか、もう少し様子を見るべきか話し合っているのだろう。
「よかった、間に合った・・・」
ホッとするのも束の間。二人は例の脇道に入って行ってしまった。
「うそ・・・、ちょっと、待って・・・!」
私は大慌てで追いかけようとしたが、
〔おい、お前がちょっと待て! 俺たちが追いかけるな!〕
腕の中でレオナルドが小声で制した。
〔あの通りに入るな! 何のために裏口から出てきたんだ!〕
〔でもっ、じゃあ、どうすれば・・・っ?〕
〔そこにいる子供を使え! 子供に頼め!〕
レオナルドが振り向いた方を見る。そこには利発そうな男の子が二人いた。
私は急いでお金を取り出すと、彼らを呼んだ。
「坊やたち、お願いがあるの! 今その角を曲がったカップルを呼んできてちょうだい!」
「へ?」
ポカンとしている子供たちそれぞれの手にお金を握らせた。
「二人に追い付いたら、『馬車で待つ』と伝えてちょうだい!」
二人は握らされたコインの額を見て目を輝かせた。
「ついでに、駆け落ちは駄目よって伝えて!」
「わ! すげっ、なんか大変じゃん!」
「分かった! まかしてくれ、ねーちゃん!」
二人は大きく頷いて駆け出した。凄い速さ。よかった、かけ足の速い子たちで。
私はホーッと溜息を付くと、我が家の馬車が停まっている預り所まで歩き出した。
92
あなたにおすすめの小説
『婚約破棄されたので王太子女となります。殿下より上位です』
鷹 綾
恋愛
「君は王太子妃に相応しくない」
その一言で、私は婚約を破棄されました。
理由は“真実の愛”。選ばれたのは、可憐な令嬢。
……ええ、どうぞご自由に。
私は泣きません。縋りません。
なぜなら——王家は、私を手放せないから。
婚約は解消。
けれど家格、支持、実務能力、そして民の信頼。
失ったのは殿下の隣の席だけ。
代わりに私は、王太子女として王政補佐の任を命じられます。
最初は誰もが疑いました。
若い、女だ、感情的だ、と。
ならば証明しましょう。
怒らず、怯えず、排除せず。
反対も忠誠も受け止めながら、国を揺らさずに保つことを。
派手な革命は起こしません。
大逆転も叫びません。
ただ、静かに積み上げます。
そして気づけば——
“殿下の元婚約者”ではなく、
“揺れない王”と呼ばれるようになるのです。
これは、婚約破棄から始まる静かな逆転譚。
王冠の重みを受け入れた一人の女性が、
国を、そして自分の立場を塗り替えていく物語です。
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~
水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」
夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。
王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。
「左様でございますか」
彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。
【完結】婿入り予定の婚約者は恋人と結婚したいらしい 〜そのひと爵位継げなくなるけどそんなに欲しいなら譲ります〜
早奈恵
恋愛
【完結】ざまぁ展開あります⚫︎幼なじみで婚約者のデニスが恋人を作り、破談となってしまう。困ったステファニーは急遽婿探しをする事になる。⚫︎新しい相手と婚約発表直前『やっぱりステファニーと結婚する』とデニスが言い出した。⚫︎辺境伯になるにはステファニーと結婚が必要と気が付いたデニスと辺境伯夫人になりたかった恋人ブリトニーを前に、ステファニーは新しい婚約者ブラッドリーと共に対抗する。⚫︎デニスの恋人ブリトニーが不公平だと言い、デニスにもチャンスをくれと縋り出す。⚫︎そしてデニスとブラッドが言い合いになり、決闘することに……。
悪女と呼ばれた死に戻り令嬢、二度目の人生は婚約破棄から始まる
冬野月子
恋愛
「私は確かに19歳で死んだの」
謎の声に導かれ馬車の事故から兄弟を守った10歳のヴェロニカは、その時に負った傷痕を理由に王太子から婚約破棄される。
けれど彼女には嫉妬から破滅し短い生涯を終えた前世の記憶があった。
なぜか死に戻ったヴェロニカは前世での過ちを繰り返さないことを望むが、婚約破棄したはずの王太子が積極的に親しくなろうとしてくる。
そして学校で再会した、馬車の事故で助けた少年は、前世で不幸な死に方をした青年だった。
恋や友情すら知らなかったヴェロニカが、前世では関わることのなかった人々との出会いや関わりの中で新たな道を進んでいく中、前世に嫉妬で殺そうとまでしたアリサが入学してきた。
虚弱で大人しい姉のことが、婚約者のあの方はお好きなようで……
くわっと
恋愛
21.05.23完結
ーー
「ごめんなさい、姉が私の帰りを待っていますのでーー」
差し伸べられた手をするりとかわす。
これが、公爵家令嬢リトアの婚約者『でも』あるカストリアの決まり文句である。
決まり文句、というだけで、その言葉には嘘偽りはない。
彼の最愛の姉であるイデアは本当に彼の帰りを待っているし、婚約者の一人でもあるリトアとの甘い時間を終わらせたくないのも本当である。
だが、本当であるからこそ、余計にタチが悪い。
地位も名誉も権力も。
武力も知力も財力も。
全て、とは言わないにしろ、そのほとんどを所有しているこの男のことが。
月並みに好きな自分が、ただただみっともない。
けれど、それでも。
一緒にいられるならば。
婚約者という、その他大勢とは違う立場にいられるならば。
それだけで良かった。
少なくとも、その時は。
悪役令嬢に仕立て上げたいのならば、悪役令嬢になってあげましょう。ただし。
三谷朱花
恋愛
私、クリスティアーヌは、ゼビア王国の皇太子の婚約者だ。だけど、学院の卒業を祝うべきパーティーで、婚約者であるファビアンに悪事を突き付けられることになった。その横にはおびえた様子でファビアンに縋り付き私を見る男爵令嬢ノエリアがいる。うつむきわなわな震える私は、顔を二人に向けた。悪役令嬢になるために。
白い結婚にさよならを。死に戻った私はすべてを手に入れる。
美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
商人であった父が、お金で貴族の身分を手に入れた。私というコマを、貴族と結婚させることによって。
でもそれは酷い結婚生活の始まりでしかなかった。悪態をつく姑。私を妻と扱わない夫。夫には離れに囲った愛人がおり、その愛人を溺愛していたため、私たちは白い結婚だった。
結婚して三年。私は流行り病である『バラ病』にかかってしまう。治療費は金貨たった一枚。しかし夫も父も私のためにお金を出すことはなかった。その価値すら、もう私にはないというように。分かっていたはずの現実が、雨と共に冷たく突き刺さる。すべてを悲観した私は橋から身を投げたが、気づくと結婚する前に戻っていた。
健康な体。そして同じ病で死んでしまった仲間もいる。一度死んだ私は、すべてを彼らから取り戻すために動き出すことを決めた。もう二度と、私の人生を他の人間になど奪われないために。
父の元を離れ計画を実行するために再び仮初の結婚を行うと、なぜか彼の愛人に接近されたり、前の人生で関わってこなかった人たちが私の周りに集まり出す。
白い結婚も毒でしかない父も、全て切り捨てた先にあるものは――
政略結婚だからと諦めていましたが、離縁を決めさせていただきました
あおくん
恋愛
父が決めた結婚。
顔を会わせたこともない相手との結婚を言い渡された私は、反論することもせず政略結婚を受け入れた。
これから私の家となるディオダ侯爵で働く使用人たちとの関係も良好で、旦那様となる義両親ともいい関係を築けた私は今後上手くいくことを悟った。
だが婚姻後、初めての初夜で旦那様から言い渡されたのは「白い結婚」だった。
政略結婚だから最悪愛を求めることは考えてはいなかったけれど、旦那様がそのつもりなら私にも考えがあります。
どうか最後まで、その強気な態度を変えることがないことを、祈っておりますわ。
※いつものゆるふわ設定です。拙い文章がちりばめられています。
最後はハッピーエンドで終えます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる