喪女に悪役令嬢は無理がある!

夢呼

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69.赤髪の女

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オフィーリアこと椿が座っている机の前で、楽しそうにアニーとクラリスがおしゃべりしている。目の前の楽し気なガールズトークの眩さに目を背けそうになるのを何とか耐え、椿は机の上で拳を握りながら、二人の会話を必死に解読していた。

今、椿の目の前にいるのはアニーとクラリスだけ。ダリアはいない。
なぜなら、三人の中で一番社交的で顔が広い彼女は、昨日から柳と一緒に情報集めに奔走してくれているのだ。
そして、この二人は今やオフィーリアのお守役。柳からオフィーリアを一人にしないように頼まれていた。それだけではない。オフィーリアと共に彼女たちもできる限り人目の付くところにいるようにと忠告を受けていた。
理由としては 万が一、何か「事件」が起きてもアリバイが取れるようにとのこと。

その事件とは―――。

小説『麗しのオリビア』では、卒業式の間近に控えたある日、オリビアが誰かに階段から突き落とされるという事件が起こるのだ。もちろん犯人は悪役令嬢であるオフィーリア。
それが決定打となり、オフィーリアはセオドアから断罪を受けるのだ。

しかし、オフィーリアが悪役令嬢ではないことが分かった以上、彼女がそんな事をするはずがないし、さらに中身が椿という喪女の状態ではそんな行為はもはや神業、できっこない。
それでも事件が起きたとしたら他に犯人がいるはずなのだが、現状ではオフィーリアに濡れ衣を着せられる可能性が高い。その為、常にオリビアからは距離を置き、できる限り人目のある場所で複数人と行動を共にすることにしたのだ。

「オフィーリア様、また四人で街に買い物に行きましょうね」
「そうですわ。また楽しみましょうよ」

二人は優しく椿を見つめる。最近のオフィーリアの様子がどこかおかしいことに絶対に気が付いているはずなのに、態度を変えることなく暖かく見守ってくれている。
それだけ彼女たちの絆は深いのだろう。

彼女たちの優しい表情を見ているうちに椿はだんだん緊張が解れてきた。

「卒業したら今までのように会えなくなってしまいますもの。今のうちに一緒に楽しみましょう!」

卒業したら・・・。
そうだ、卒業したらみんなそれぞれ領地に帰ってしまう。自分オフィーリアも然り。
例え、みんなが王都に残ったとしても、そんなに頻繁に会うことはなくなるだろう。
そんな大切な時間をオフィーリアから奪ってしまったことを申し訳なく思い、椿の胸はキュッと痛くなった。

「そそ、そ、そうですね、お買い物! ぜ、是非行きましょう! みんなで。一緒に!」

椿はブンブンと大きく首を縦に振った。

「まあ! 嬉しい! では、学院のお休みの明後日なんてどうかしら?」
「いいですわね、そうしましょう!」

明後日! すぐだ!

(ど、どうしよう・・・、乗り切れるかな・・・)

覚悟を決めて返事をしたくせに、すぐに弱気なってしまう。早速オフィーリア本人に相談しなくては。


☆彡


一方、柳はダリアと一緒に、泥水をかけられたオリビアを見たという女子生徒のもとを訪ねていた。

「わたくし達がオリビア様を見た時は既に制服が汚れた状態で歩いてましたわ。誰かにバケツの水をかけられたとか・・・」

「そうでしたわよね。わたくしもあの時に貴女からそう聞きましたけれど。でも、貴女はそれをどなたからお聞きになったの?」

ダリア自身も当時を思い出すように首を捻りながら女子生徒に尋ねた。

「誰から聞きましたっけ? そうそう、たしか・・・」

そんなやり取りを何人かとした結果、泥水をかけられた現場を見たという人物に辿り着いた。

「確か・・・、場所は北校舎の端の階段でした」
「階段の上からバケツの水をかけられていました」

現場を見たという女子生徒は二人いた。

「水をかけた犯人は・・・チラリと後ろ姿しか見ていなくって・・・」
「その・・・、長くて赤い髪の女性だったことは分かるのですが・・・」

二人ともとても言い難そうに上目遣いでセオドアとダリアを見た。

「長くて赤い髪?」
「オフィーリア様のようなとおっしゃるの?」

「ええ・・・」

柳とダリアの驚きの問いに、女子生徒は小さく頷いた。

「そんな・・・」

ダリアは震える手をギュッと握った。

「オフィーリア様がそんなことなさるはずがないわ! それに一人でいる事なんてあまりない方よ! わたくし達は一緒にいることが多いですもの!」

「だから、あんたも一緒に疑われてるんだろうが」

「あ、そうでしたわ」

柳の突っ込みにダリアはハッと息を呑んだ。

「オフィーリア様やダリア様たちではないとおっしゃるの・・・?」

女子生徒は恐る恐るダリアに尋ねた。

「まあ、貴女方もわたくし達をお疑いなの?」

ダリアは二人をキッと睨みつけた。

「だ、だって・・・長くて赤い髪でしたし・・・」

「赤髪の女なんて他にもいるんじゃねーの? いねーのかよ? それだけでなんでオフィーリアって決めつけんだよ?」

柳もついムッとして言い返した。

「た、確かにわたくし達ははっきりと犯人を見えていたわけではないですけど・・・」
「でも・・・あの後、オリビア様がお友達に泣きながら訴えているのを見かけて・・・オフィーリア様にかけられたって言ってましたから・・・」

二人の不機嫌な顔に女子生徒達はビクビクしながら言い訳をした。

「お友達? それはどなた?」

「その・・・ジャック様とか・・・その・・・」

彼女たちは気まずそうにチラリとセオドアを見る。

「え・・・? もしかして俺?」

「・・・はい」

「マジか・・・」


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