喪女に悪役令嬢は無理がある!

夢呼

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68.自分たちもピンチ

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「そうだ、柳君! 大変です! 実は他にもショッキングな話を聞きいたんです!」

「何?」

「オフィーリア様が全然授業についていけないそうです!!」

椿はじょうろを両手で握りしめ、興奮気味に柳を見上げた。

「は?」

「オフィーリア様がついていけないということは、恐らくセオドア様も同じだと思います!」

「ふーん、そうか。そうだよなぁ~、化学とか物理とかチンプンカンプンなんじゃねーかなぁ? 俺もぜーんぜん分かんねーのにさぁ」

柳はさして驚きもせず、両手を頭の後ろに組んで空を見上げた。
そんな柳を椿は少し呆れ気味に見た。

「・・・あの、柳君、気が付いてますか? もうそろそろ中間テストがあること・・・」

「え・・・?」

「このまま二人がテストを受けたとしたら・・・」

「あ゛・・・」

「文字は読めるので文系は何とか・・・歴史は丸暗記したとして、国語も文章が理解できればどうにかなるかもしれませんが、それでも漢文や古文は怪しいですし・・・」

「・・・」

「英語も外国語なのでたぶん無理かと・・・。現に山田はこの世界の隣国の言葉が分かりませんし。他の人はみんな理解しているのに」

「・・・」

「正直、理系に至っては壊滅的かと・・・」

「うわぁ~! ちょっと待って~~!!」

突然、柳は頭を抱えて叫んだ。

「やべ~! やべ~よ! 俺、一年の時、ほとんどの教科、赤点ギリギリだったんだよ! それって今回、絶対全教科赤点ってヤツじゃん!!」

「全教科赤点・・・、それどころか最悪全教科0点という快挙を成し遂げてしまうかもしれません・・・」

椿は低い声で呟く。

「ねーよ! ねーよ! そらねーよ! ヤベーって!!」

「中間テストを失敗したら、期末テストに相当響きますね・・・。もはや夏休みの補習授業は覚悟しておかないと。下手したら留年・・・」

「うわぁ~!! 止めて~~! 何とかして中間テストまでに帰らなきゃ!」

「そうなんですよ。何とかして早く帰らないと。卒業した後だとか結婚した後だとかそんな悠長なこと言っている場合じゃないんですよ。山田達も相当ピンチなんです」

「はい! すいませんでしたぁ!」

偉そうに柳に向かって説教じみた事を言ったところで、何も解決するわけではない。

「・・・こちらこそ、すみません。元はと言えば山田のせいで柳君をこちらの世界に引き込んでしまったというのに・・・」

椿はシュンとうな垂れた。

「何言ってんだよ! 元はと言えば俺達があんな廊下でサッカーボールなんて蹴ってたのがいけねーんだし!」

「でも・・・」

「・・・っつかさ、留年するくらいなら、いっそ戻れなくてもいいとか・・・?」

「逆ですよ? 戻れないくらいなら留年した方がいいですよ?」

「あはは・・・、だよな・・・」

「はい・・・」

「「はあ~~~~」」

二人して同時に溜息を付いた。
未だに元の世界に変える方法は分からない。ただ自分たちの窮地を再認識しただけだった。


☆彡


〔おっし! んじゃ、俺、ちょっくら行ってくるから!〕

一時限目の講義を終えた後、柳は椿に小声で話しかけた。
朝に受けたショックは既に消えてしまったのか、引きずっている様子は全くない。立ち直りが早いと言うか、鳥頭と言うか、もういつのも元気いっぱいの柳に戻っている。

昨日、二人でオフィーリアの断罪回避を決めてから、柳は既に諜報活動と銘打って周りに聞き込みを始めていた。

「あ、は、はい・・・。えっと、や、山田も何かお手伝いを・・・」

やる気に満ちている柳とは真逆に椿は不安そうに眉毛を下げている。席を立った柳を情けない顔で見上げた。

「いーって、山田は。下手に動くな」

昨日もそうやって止められた。そう言われても、柳にばかり負担を掛けることに自責の念に駆られる。
そんな困惑気味な顔の椿に、柳はそっと顔を近づけた。

「いいか? 俺が傍にいない間、一人っきりになるなよ? 誰にも隙を見せるな。ぼっち好きの山田には酷かもしれねーけど、我慢しろよ?」

真顔で忠告され、椿は頷くしかなかった。

「じゃあな」

そう言うと、軽く手を振り、一人教室から出て行ってしまった。

柳がオフィーリアから離れた途端、示し合わせたかのようにオフィーリア・ガールズが椿のもとにやって来た。

「オフィーリア様、ごきげんよう」
「ふふふ、今日もセオドア様と仲がよろしいわね、羨ましいですわ」

「お、お、おは・・ようございますっ・・・」

椿はしどろもどろに彼女たちに挨拶をした。

「オフィーリア様、今日お召しになっているおリボンって、先日、一緒にお買い物に行った時に買った物ですわね! やっぱり可愛いわ、わたくしも買えばよかった!」
「本当、可愛いわ。でも、アニー様が今付けている髪飾りも素敵ですわよ? 婚約者からのプレゼントなのでしょう?」
「まあ、ありがとう。ふふふ、気に入ってますの」
「センスのある殿方で羨ましいわぁ、わたくしの婚約者はどうもセンスがイマイチで・・・」
「あらら、クラリス様ったら、そんなことおっしゃって。プレゼントを頂いた時、いつも嬉しそうなお顔をしているのを知ってますのよ?」

目の前で繰り広げられるガールズトークに、椿はハラハラドキドキが止まらない。いつ自分に話が振られるか、気が気でない。オフィーリアらしく優雅に振舞える自信が全くない。

(が、頑張れ、私! 大丈夫! みんな良い人達だから!!)

柳にだけに負担を強いるわけにいかないのだ。自分も頑張らなければ!

椿は己に言い聞かせ、必死にガールズトークに耳を傾けた。
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