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93.どうか、もう一度
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翌日は卒業式に相応しい快晴の青空だった。
清々しい気持ちでオフィーリアは女子寮の門に立っていた。彼女はその場で気持ちいい空気をスーッと吸い込んだ。
『深呼吸しろ、深呼吸。はい、スーハースーハー』
向こうの世界で担任だった竹田の言葉が脳裏に浮かんだ。同時に竹田とセオドアと三人で両手を広げ深呼吸を繰り返した時の景色が瞼に浮かんだ。思わず笑みが零れる。
「オフィーリアお嬢様?」
門まで送りに来たマリーが不思議そうに首を傾げた。
「何でもないわ。では、行ってくるわね」
今日で本当に最後の登校。学生として最後の式典だ。心して臨まなければ。
オフィーリアはキリっと気持ちを引きしめた。
「はい。行ってらっしゃいませ」
マリーに見送られ、オフィーリアは一歩踏み出した。
学院に向かって歩いて行く彼女の後ろ姿は背筋がピンと伸びており、一切の迷いも感じられないそれは堂々とした姿だった。
☆彡
学院内の大会堂での厳かな卒業式を終えた後、生徒たちはから夜から始まる卒業パーティーの準備のために、みんな早めに寮に帰って行った。
特に令嬢たちは準備に時間が掛かる。終わりが遅くなることに備え一度昼寝をし、パーティー中に出されている軽食にあまり手を出さないように、先に腹を十分に満たさなければならない。そして、何よりも最後の晴れの舞台に相応しく自分を飾り立てなければいけないのだ。
それはオフィーリアも同じだ。早く帰らないと。マリーが今か今かと待っているに違いない。マリーは一見大人しいが、実はお洒落にとても敏感で、人を着飾らせることが大好きだ。大人しく従順な振りをしていながら、主人であるオフィーリアの髪で色々と楽しんでいたことは知っている。いつも可愛らしく出来上がっているから、オフィーリアも黙っていたが。
きっと、今頃、ドレスに合わせた髪飾りと髪型をどうするか考えているはずだ。
それでも、オフィーリアは真っ直ぐ寮には帰らなかった。
一度校舎に戻り、裏庭に向かって歩いて行った。
一人、花壇の前に佇む。
短い間だったが、自分で世話をした花壇を満足そうに眺めていた。
「オフィーリア」
背後から名前を呼ばれ、驚いて振り向いた。
そこにはセオドアが立っていた。
「まあ、セオドア様。どうされましたか?」
「いや・・・。君がこっちに歩いて行くところを見たから・・・」
セオドアはどこか気まずそうに頭を掻きながら顔を逸らした。
「そうですか」
「・・・」
「・・・」
二人の間に気まずいのか甘いのか、穏やかなのか寂しいのか、よく分からない不思議な沈黙が流れる。ただ、昔のように険悪な沈黙ではないのは確かだ。
その沈黙を先に破ったのはオフィーリアだった。
「良かったですわ、ここでお会いできて。最後にご挨拶くらいはしたかったですから。卒業パーティーではきっと話す機会はないでしょうし」
昨日の出来事を知らされていないオフィーリアは、パーティーでは今まで通りセオドアはオリビアの傍を離れることはないと思っていた。
少し寂し気に微笑んでセオドアを見つめた。
『最後』という言葉に、セオドアはハッと目を覚ますように軽く頭を振った。そして、オフィーリアの近くにゆっくりと近づくと、何かを差し出した。
「オフィーリア、これを」
それは、一輪の黄色いガーベラだった。
オフィーリアは目を丸めてそれを見た。
「向こうの世界で渡したものは持ってこれなかっただろう? だから」
「・・・わざわざ、また買ってくださったの・・・?」
オフィーリアは感動したように黄色いガーベラに見入った。
「従者に頼んだんだ。街への外出は禁じられていたから、前みたいに自分で買うことはできなかった。ごめん」
セオドアは申し訳なさそうに笑った。
オフィーリアはフルフルと顔を横に振った。
「そんな・・・、とても・・・とても嬉しいですわ・・・」
オフィーリアはそっとそのガーベラに手を伸ばした。しかし、オフィーリアがその花を受け取る前に、セオドアは彼女の前に跪いた。そんなセオドアの行動にオフィーリアは驚いたように目を見開いた。
「オフィーリア。君への俺の態度は本当に酷いものだったっていう事は十分に分かっている。きっと君もそんな俺のことを呆れていると思う。だが、俺にもう一度チャンスを与えてくれないだろうか?」
「チャンス・・・?」
「ああ。もう一度、君の婚約者に戻りたい」
驚いて目をまん丸にしているオフィーリアをセオドアは真剣な眼差して見上げた。
「オリビアとの関係は解消している。どうか、もう一度だけチャンスが欲しい」
清々しい気持ちでオフィーリアは女子寮の門に立っていた。彼女はその場で気持ちいい空気をスーッと吸い込んだ。
『深呼吸しろ、深呼吸。はい、スーハースーハー』
向こうの世界で担任だった竹田の言葉が脳裏に浮かんだ。同時に竹田とセオドアと三人で両手を広げ深呼吸を繰り返した時の景色が瞼に浮かんだ。思わず笑みが零れる。
「オフィーリアお嬢様?」
門まで送りに来たマリーが不思議そうに首を傾げた。
「何でもないわ。では、行ってくるわね」
今日で本当に最後の登校。学生として最後の式典だ。心して臨まなければ。
オフィーリアはキリっと気持ちを引きしめた。
「はい。行ってらっしゃいませ」
マリーに見送られ、オフィーリアは一歩踏み出した。
学院に向かって歩いて行く彼女の後ろ姿は背筋がピンと伸びており、一切の迷いも感じられないそれは堂々とした姿だった。
☆彡
学院内の大会堂での厳かな卒業式を終えた後、生徒たちはから夜から始まる卒業パーティーの準備のために、みんな早めに寮に帰って行った。
特に令嬢たちは準備に時間が掛かる。終わりが遅くなることに備え一度昼寝をし、パーティー中に出されている軽食にあまり手を出さないように、先に腹を十分に満たさなければならない。そして、何よりも最後の晴れの舞台に相応しく自分を飾り立てなければいけないのだ。
それはオフィーリアも同じだ。早く帰らないと。マリーが今か今かと待っているに違いない。マリーは一見大人しいが、実はお洒落にとても敏感で、人を着飾らせることが大好きだ。大人しく従順な振りをしていながら、主人であるオフィーリアの髪で色々と楽しんでいたことは知っている。いつも可愛らしく出来上がっているから、オフィーリアも黙っていたが。
きっと、今頃、ドレスに合わせた髪飾りと髪型をどうするか考えているはずだ。
それでも、オフィーリアは真っ直ぐ寮には帰らなかった。
一度校舎に戻り、裏庭に向かって歩いて行った。
一人、花壇の前に佇む。
短い間だったが、自分で世話をした花壇を満足そうに眺めていた。
「オフィーリア」
背後から名前を呼ばれ、驚いて振り向いた。
そこにはセオドアが立っていた。
「まあ、セオドア様。どうされましたか?」
「いや・・・。君がこっちに歩いて行くところを見たから・・・」
セオドアはどこか気まずそうに頭を掻きながら顔を逸らした。
「そうですか」
「・・・」
「・・・」
二人の間に気まずいのか甘いのか、穏やかなのか寂しいのか、よく分からない不思議な沈黙が流れる。ただ、昔のように険悪な沈黙ではないのは確かだ。
その沈黙を先に破ったのはオフィーリアだった。
「良かったですわ、ここでお会いできて。最後にご挨拶くらいはしたかったですから。卒業パーティーではきっと話す機会はないでしょうし」
昨日の出来事を知らされていないオフィーリアは、パーティーでは今まで通りセオドアはオリビアの傍を離れることはないと思っていた。
少し寂し気に微笑んでセオドアを見つめた。
『最後』という言葉に、セオドアはハッと目を覚ますように軽く頭を振った。そして、オフィーリアの近くにゆっくりと近づくと、何かを差し出した。
「オフィーリア、これを」
それは、一輪の黄色いガーベラだった。
オフィーリアは目を丸めてそれを見た。
「向こうの世界で渡したものは持ってこれなかっただろう? だから」
「・・・わざわざ、また買ってくださったの・・・?」
オフィーリアは感動したように黄色いガーベラに見入った。
「従者に頼んだんだ。街への外出は禁じられていたから、前みたいに自分で買うことはできなかった。ごめん」
セオドアは申し訳なさそうに笑った。
オフィーリアはフルフルと顔を横に振った。
「そんな・・・、とても・・・とても嬉しいですわ・・・」
オフィーリアはそっとそのガーベラに手を伸ばした。しかし、オフィーリアがその花を受け取る前に、セオドアは彼女の前に跪いた。そんなセオドアの行動にオフィーリアは驚いたように目を見開いた。
「オフィーリア。君への俺の態度は本当に酷いものだったっていう事は十分に分かっている。きっと君もそんな俺のことを呆れていると思う。だが、俺にもう一度チャンスを与えてくれないだろうか?」
「チャンス・・・?」
「ああ。もう一度、君の婚約者に戻りたい」
驚いて目をまん丸にしているオフィーリアをセオドアは真剣な眼差して見上げた。
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