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始まりの革命(上)
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空歴1974年3月4日。
空に浮かぶ大陸。世界の中心とも言えるハルバート王国の首都アキナス真っ赤な炎に包まれた。
「お父様、空が真っ赤だよ」
王国の一等地に立つ豪邸に住む4歳くらいの女の子が嬉しそうに叫んだ。
だが、事態はそんなに優しい状況でもない。屋敷の中は皆がピリピリしていた。
油断していたところを、嵌められたのだ。
「軍を動かせ。多少の犠牲は構わん。この騒ぎを止めろ」
同じ部屋にいたバスローブ姿の長身の男が老執事に命じる。
男の名はレイリー=クウラ。
この家の主であり、二人の子供の父親。そして、国の王であった。
評判は良く、何よりも民を思っていた。部下からは慕われていて、家族仲もとても良好な関係を築いていた。
だから、先ほども翌日の執務に備えて自室にてぐっすりと寝ていた。まさか、民による武装蜂起が起こるなんて夢にも思っていなかった。
「それが旦那様…………」
「軍も寝返ったと言うのか。誰がこんなことを…………あの噂は本当だったのか」
老執事の言いにくそうな言葉を途中で察した。
レイリーにはこの事態を主導する人物に僅かに心当たりあった。
普通の人間に軍を巻き込んだクーデターなんて起こせるわけがない。だが、その人物の存在自体がは都市伝説の部類だと思っていた。しかし、それ以外にこんなことが出来る人物は考えられない。
民は王を殺せと、躍起になっている。
ある者は街をいたずらに壊す。ある者は自らの街に火をつける。
加害者も被害者も誰もが叫ぶ。「王よ、死ね」と。
明らかに通常の状態ではない。きっと黒幕にうまいようにあることないことを吹き込み、王に殺意が向くように洗脳されているのだろう。
この騒動は、きっと王が死なねば収まらない。
何故このような出来事が起こったのか、心当たりがある。
「…………空の王め。そんなに戦争を望むと言うのか」
「…………あなた」
金髪の綺麗な女の人。大人の美人と言った風貌で、色香が漂っている。名実ともに王国一の美女だ。普段から冷静で落ち着いた人であったが、今は顔にはっきりと不安と書いている。
きっと誰もがこのような地獄とも思える光景を目にすれば、不安にもなる。
「セレジア。すまない」
あまりにも唐突な出来事だったので、このような事態に備えることが出来なった。全く、不甲斐ない父親だ。レイリーは本当に心苦しい。
「今、この島はちょうどアルバスの上を飛んでいる」
「…………分かりました」
セレジア=クウラは元々は帝政アルバスと呼ばれる地上にある国で暮らしていた。そこからきっと察したのだろう。国を出て、地元のアルバスで暮らすようにとレイリーの言葉に出来ない程に悔しい苦渋の決断を。
アルバスにならば、セレジアにも多少の伝手がある。だから、不幸中の幸いなのかもしれない。
「………… 名前は捨てろ。きっともう誰もお前のことをセレジアと呼ぶことも、息子をアカツキと呼ぶことも、娘をテレサと呼ぶことももう二度とないだろう。俺のことはもういい。いなかったものとして忘れろ。王家であったことは忘れて生きろ。それはあってもつらいだけの記憶だ」
「貴方はどうするのですか?」
「分かっていることを聞くな。…………だが、俺はそう易々と死ぬ男ではないのは知っているだろ。俺は空の王だ。死ぬのは空の上でと決めている。それにな、大切なお前たちを守らずにして何が父親だって話だ」
「父上。行かれるのですか?」
セレジアに言われ支度を終えたクウラ家の長男のアカツキが広間へ入ってきた。
長男は今年で、6歳になる。まだまだ子供だ。だが、とても6歳とは思えないとても思えない頭脳明晰な子供だ。ただ、レイリーに似た王の素質とも言うべき、人の心を見透かしたような王の目が彼を孤独にした。だが、レイリーは知っている。アカツキがとても優しい男の子であることを。他人を思いやるやさしさのある男の子であると言うことを。
「アカツキ。これから言うことは王として、父親として最後の命令であり、言葉だ。まず、俺を忘れろ。それから復讐なんて馬鹿なことは考えるな。復讐なんてしても決して誰も喜ばない。無駄に人生を狂わせる悲しいだけの生き方だ。俺はそんな連中を沢山見てきた。アカツキ、お前は人を思いやれる優しい子だ。だから、どうか家族を大切に。そして、大切な家族を守れるような男になれ。いつかきっと、空を飛べ。空は良いぞ。言葉では説明しにくいけどな」
男は今にも泣きそうな息子の頭を撫でた。男の顔はこんな状況なのに、こんな状況だからこそだろうか。男は誰よりも父親らしかった。
「レイリーさま。そろそろ狂人と化した暴徒が屋敷に押し寄せてきます」
「機体の準備はどうだ? 行けるか?」
「はい。整備は常日頃なら行っていたので25機と少ないですが、いつでも出発できます」
軍服の男が言った。
彼らは軍ではなく、王家に忠誠を誓っている空挺騎士団に属する空の騎士たちだ。少数精鋭であるが、王国内でもトップクラスの集団だ。
「ハイベル。お前とシューバルトとハインの三人は俺と来いと伝えろ。それ以外は、セレジアの護衛だ。何としても、地上まで降ろせ」
「分かりました。全隊員に通達いたします」
「すまない。こんなことになってしまって」
「レイリー様。我々は王家の翼です。我々の運命は王家とともに」
ハイベルは部屋を足早に去って行った。無礼な対応ではあるが、今は礼儀作法になりふり構っている余裕などどこにもない。兎に角、時間がないのだ。
「ルイマン、他の者は王族専用の隠し通路から逃げろと伝えておいてくれ。こんな結果をもたらした馬鹿な王に今まで仕えてくれたことを心より感謝する。皆を任せるぞ」
老執事に向かってレイリーは深々と頭を下げた。
「もったいないお言葉。今まで、クウラ王家に仕えられたことが私の誇りでございます。どうか、レイリー様。ご武運を」
王家に彼此60年以上もの間、クラウ王家に仕えていた執事も部屋を後にした。いよいよ、屋敷に残っているのも4人だけとなってしまった。
「終わるのはあっという間だな」
レイリーは窓から終わって行く時代を眺める。
祇園精舎の鐘の声
諸行無常の響きあり
沙羅双樹の花の色
盛者必衰の理をあらわす
おごれる人も久しからず
ただ春の夜の夢のごとし
たけき者もついには滅びぬ
偏に風の前の塵に同じ
いつしか夢中で読んだ異世界の小説の冒頭部分をレイリーは思い出していた。きっとこれからは多くの血が流れるのであろう。時代とは常に移り変わるものだ。
ならば、少しでも子供たちが明るく暮らせる未来を創ろう。それが私の。レイリー個人としての役目だと思う。
「アカツキ、戦闘機で地上に降りれるか? 操縦をハイベルに学んだんだろ」
「学びました。技術的には問題ありません。ですが、僕なのですか?」
「アカツキは空の一族の男だからな。それに言ったろ、家族を守れって。セレジアも操縦は出来るが、風読みの力を持っていない。地上に降りるだけとはいえ、空には軍の戦闘機が何台も特攻覚悟で俺たちを殺そうとしてくる。きっと過酷な空になる。だからこそ、風読みの力が重要になってくる。これは王家の一族にしか分からない力ではあるが、空においては絶大な力だ。護衛を沢山つけるつもりではあるがやはり他人任せで終わらないこともある。やれるか?」
「…………分かりました。僕が家族を守ります」
アカツキは軍人のように敬礼をした。一人の戦士としての、覚悟が受けてとれる。
「良い返事だ、アカツキ。死ぬな。生きるんだ。時代に負けるな」
「…………父上も…………どうか…………」
本当に賢い子だとレイリーは思う。きっと今、自分が同い年で同じ状況にいたらアカツキみたいな返事も出来ないだろう。生きて欲しいという願いを願いたくても、きっと無理なことを理解していた。
アカツキは父親がこれから死ぬということを理解している。だから、お元気でともご無事でとも言わなかった。言いたかったけど、言えなかったのだろう。
レイリーは、テレサの抱っこした。とても愛しそうな顔で優しく頭を撫でた。
「テレサ。お母さんの言うことをきちんと聞くんだぞ」
「うん。分かったよ」
無邪気な子供らしい返事だ。出来ることなら、子供たちが立派な大人になるまで側にいてあげたい。別れたくない。そんな当然な気持ちにレイリーの胸が締め付けられる。
「…………家族は俺が守る」
弱い心に叱咤を入れるようにぼっそっとつぶやく。
そして、最後に自分の最も愛する人たちの姿を目に焼き付け。部屋を飛び出した。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「母上…………僕たちも行きましょう。」
アカツキは泣きたい心を必死に殺した。ここで泣いたら、もう立ち上がれない気がした。
セレジアものそんなレイリーの勇気を知ってか、4歳になるテレサを抱っこした。テレサはもう時間も遅かったので、抱っこされているうちにすやすやと寝息をたてて寝てしまった。
「アカツキ、任せます」
「はい、母上」
生まれ育った屋敷をアカツキは後にする。目指すは屋敷の南方にある飛行場。そこに飛行機が何台かある。そこで戦闘機に乗って、地上に降りるつもりである。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
国の王であった男は一人、戦闘機に乗る。
国王専用機であるスカイクロアは通常の軍で配備されているスクラムの全ての性能において3倍以上の差がある。王家の人間の風読みを前提として、造られた名実ともに王国最高の機体である。
機体にはクウラ家の二つの剣が描かれた紋章が張られている。
「カルデラに向かう。3人は俺に着いて来い。島の軌道を変える。俺の大切な家族には手を出させない。残りは護衛を。頼んだぞ」
「はい」
無線から仲間の心強い返事が聞こえた。空には既に50台以上の戦闘機が空を舞っている。敵が獲物が空へと上がることを察している陣形だ。
「離陸」
レイリーは飛び立つ。それを早々に発見した部隊が追撃してくる。
「向かってくる数は4機か。ずいぶんと、空の王も馬鹿にされたものだな。見せてやるよ、王の怒りを」
スロットル全開で加速する。距離を詰め、標的を照準に入れるとすぐさま、銃の引き金を引く。そうすると、前方に向けて取り付けられた機関銃が無数の鋼の弾を発射し、相手の機体を撃ち抜く。翼に被弾した敵機はそのまま高度を落とし、空中で爆散した。
「お見事です」
「世事など言っている暇があるなら、お前らも敵をすべて殺せ。ここで数を減らしておくことが俺達の仕事だ」
「了解」
3人の騎士たちは隊長であるをハイベルをメインとした三角陣形を組む。隊長が獲物を狙い突撃し、そのサイドに来る敵を脇の二人が倒す。三位一体のなせる業だ。
熟練した素晴らしい連携で向かってくる敵機をどんどん撃ち落としていく。
だが、空の王はそれ以上の戦果をたった一人で上げる。
「敵の数も減った。お前らはカルデアへ向かってくれ。何としても島のコンパスをずらし、破壊するんだ。そうすれば、二度とこの島がアルバスを通ることは無い。俺は此処で食い止める。ちょうど、陽動部隊も飛びたつ頃合いのようだしな。任務が終わり次第、お前らも早く遠くに逃げろ。命令だ」
「分かりました。レイリー様もどうかご武運を」
律儀にも三人はレイリーの機体と平行に飛び、敬礼をしてからカルデアに向かった。
「…………これでとうとう俺一人になったか。さて、何機でもかかって来いよ。空の王。レイリー=クウラのこの命。ただで獲れると思うなよ」
空の王はまるで舞踏会で踊りをするかのように優雅に空を舞う。空を飛ぶものなら否応なく、その自分との実力差を思い知らされる。絶対にマネできないような鳥のように自由でとても美しい飛び方だ。
「…………セレジア、アカツキ、テレサ。どうか俺の分まで生きてくれよ」
レイリーは家族の無事を祈りは大空を舞った。
空に浮かぶ大陸。世界の中心とも言えるハルバート王国の首都アキナス真っ赤な炎に包まれた。
「お父様、空が真っ赤だよ」
王国の一等地に立つ豪邸に住む4歳くらいの女の子が嬉しそうに叫んだ。
だが、事態はそんなに優しい状況でもない。屋敷の中は皆がピリピリしていた。
油断していたところを、嵌められたのだ。
「軍を動かせ。多少の犠牲は構わん。この騒ぎを止めろ」
同じ部屋にいたバスローブ姿の長身の男が老執事に命じる。
男の名はレイリー=クウラ。
この家の主であり、二人の子供の父親。そして、国の王であった。
評判は良く、何よりも民を思っていた。部下からは慕われていて、家族仲もとても良好な関係を築いていた。
だから、先ほども翌日の執務に備えて自室にてぐっすりと寝ていた。まさか、民による武装蜂起が起こるなんて夢にも思っていなかった。
「それが旦那様…………」
「軍も寝返ったと言うのか。誰がこんなことを…………あの噂は本当だったのか」
老執事の言いにくそうな言葉を途中で察した。
レイリーにはこの事態を主導する人物に僅かに心当たりあった。
普通の人間に軍を巻き込んだクーデターなんて起こせるわけがない。だが、その人物の存在自体がは都市伝説の部類だと思っていた。しかし、それ以外にこんなことが出来る人物は考えられない。
民は王を殺せと、躍起になっている。
ある者は街をいたずらに壊す。ある者は自らの街に火をつける。
加害者も被害者も誰もが叫ぶ。「王よ、死ね」と。
明らかに通常の状態ではない。きっと黒幕にうまいようにあることないことを吹き込み、王に殺意が向くように洗脳されているのだろう。
この騒動は、きっと王が死なねば収まらない。
何故このような出来事が起こったのか、心当たりがある。
「…………空の王め。そんなに戦争を望むと言うのか」
「…………あなた」
金髪の綺麗な女の人。大人の美人と言った風貌で、色香が漂っている。名実ともに王国一の美女だ。普段から冷静で落ち着いた人であったが、今は顔にはっきりと不安と書いている。
きっと誰もがこのような地獄とも思える光景を目にすれば、不安にもなる。
「セレジア。すまない」
あまりにも唐突な出来事だったので、このような事態に備えることが出来なった。全く、不甲斐ない父親だ。レイリーは本当に心苦しい。
「今、この島はちょうどアルバスの上を飛んでいる」
「…………分かりました」
セレジア=クウラは元々は帝政アルバスと呼ばれる地上にある国で暮らしていた。そこからきっと察したのだろう。国を出て、地元のアルバスで暮らすようにとレイリーの言葉に出来ない程に悔しい苦渋の決断を。
アルバスにならば、セレジアにも多少の伝手がある。だから、不幸中の幸いなのかもしれない。
「………… 名前は捨てろ。きっともう誰もお前のことをセレジアと呼ぶことも、息子をアカツキと呼ぶことも、娘をテレサと呼ぶことももう二度とないだろう。俺のことはもういい。いなかったものとして忘れろ。王家であったことは忘れて生きろ。それはあってもつらいだけの記憶だ」
「貴方はどうするのですか?」
「分かっていることを聞くな。…………だが、俺はそう易々と死ぬ男ではないのは知っているだろ。俺は空の王だ。死ぬのは空の上でと決めている。それにな、大切なお前たちを守らずにして何が父親だって話だ」
「父上。行かれるのですか?」
セレジアに言われ支度を終えたクウラ家の長男のアカツキが広間へ入ってきた。
長男は今年で、6歳になる。まだまだ子供だ。だが、とても6歳とは思えないとても思えない頭脳明晰な子供だ。ただ、レイリーに似た王の素質とも言うべき、人の心を見透かしたような王の目が彼を孤独にした。だが、レイリーは知っている。アカツキがとても優しい男の子であることを。他人を思いやるやさしさのある男の子であると言うことを。
「アカツキ。これから言うことは王として、父親として最後の命令であり、言葉だ。まず、俺を忘れろ。それから復讐なんて馬鹿なことは考えるな。復讐なんてしても決して誰も喜ばない。無駄に人生を狂わせる悲しいだけの生き方だ。俺はそんな連中を沢山見てきた。アカツキ、お前は人を思いやれる優しい子だ。だから、どうか家族を大切に。そして、大切な家族を守れるような男になれ。いつかきっと、空を飛べ。空は良いぞ。言葉では説明しにくいけどな」
男は今にも泣きそうな息子の頭を撫でた。男の顔はこんな状況なのに、こんな状況だからこそだろうか。男は誰よりも父親らしかった。
「レイリーさま。そろそろ狂人と化した暴徒が屋敷に押し寄せてきます」
「機体の準備はどうだ? 行けるか?」
「はい。整備は常日頃なら行っていたので25機と少ないですが、いつでも出発できます」
軍服の男が言った。
彼らは軍ではなく、王家に忠誠を誓っている空挺騎士団に属する空の騎士たちだ。少数精鋭であるが、王国内でもトップクラスの集団だ。
「ハイベル。お前とシューバルトとハインの三人は俺と来いと伝えろ。それ以外は、セレジアの護衛だ。何としても、地上まで降ろせ」
「分かりました。全隊員に通達いたします」
「すまない。こんなことになってしまって」
「レイリー様。我々は王家の翼です。我々の運命は王家とともに」
ハイベルは部屋を足早に去って行った。無礼な対応ではあるが、今は礼儀作法になりふり構っている余裕などどこにもない。兎に角、時間がないのだ。
「ルイマン、他の者は王族専用の隠し通路から逃げろと伝えておいてくれ。こんな結果をもたらした馬鹿な王に今まで仕えてくれたことを心より感謝する。皆を任せるぞ」
老執事に向かってレイリーは深々と頭を下げた。
「もったいないお言葉。今まで、クウラ王家に仕えられたことが私の誇りでございます。どうか、レイリー様。ご武運を」
王家に彼此60年以上もの間、クラウ王家に仕えていた執事も部屋を後にした。いよいよ、屋敷に残っているのも4人だけとなってしまった。
「終わるのはあっという間だな」
レイリーは窓から終わって行く時代を眺める。
祇園精舎の鐘の声
諸行無常の響きあり
沙羅双樹の花の色
盛者必衰の理をあらわす
おごれる人も久しからず
ただ春の夜の夢のごとし
たけき者もついには滅びぬ
偏に風の前の塵に同じ
いつしか夢中で読んだ異世界の小説の冒頭部分をレイリーは思い出していた。きっとこれからは多くの血が流れるのであろう。時代とは常に移り変わるものだ。
ならば、少しでも子供たちが明るく暮らせる未来を創ろう。それが私の。レイリー個人としての役目だと思う。
「アカツキ、戦闘機で地上に降りれるか? 操縦をハイベルに学んだんだろ」
「学びました。技術的には問題ありません。ですが、僕なのですか?」
「アカツキは空の一族の男だからな。それに言ったろ、家族を守れって。セレジアも操縦は出来るが、風読みの力を持っていない。地上に降りるだけとはいえ、空には軍の戦闘機が何台も特攻覚悟で俺たちを殺そうとしてくる。きっと過酷な空になる。だからこそ、風読みの力が重要になってくる。これは王家の一族にしか分からない力ではあるが、空においては絶大な力だ。護衛を沢山つけるつもりではあるがやはり他人任せで終わらないこともある。やれるか?」
「…………分かりました。僕が家族を守ります」
アカツキは軍人のように敬礼をした。一人の戦士としての、覚悟が受けてとれる。
「良い返事だ、アカツキ。死ぬな。生きるんだ。時代に負けるな」
「…………父上も…………どうか…………」
本当に賢い子だとレイリーは思う。きっと今、自分が同い年で同じ状況にいたらアカツキみたいな返事も出来ないだろう。生きて欲しいという願いを願いたくても、きっと無理なことを理解していた。
アカツキは父親がこれから死ぬということを理解している。だから、お元気でともご無事でとも言わなかった。言いたかったけど、言えなかったのだろう。
レイリーは、テレサの抱っこした。とても愛しそうな顔で優しく頭を撫でた。
「テレサ。お母さんの言うことをきちんと聞くんだぞ」
「うん。分かったよ」
無邪気な子供らしい返事だ。出来ることなら、子供たちが立派な大人になるまで側にいてあげたい。別れたくない。そんな当然な気持ちにレイリーの胸が締め付けられる。
「…………家族は俺が守る」
弱い心に叱咤を入れるようにぼっそっとつぶやく。
そして、最後に自分の最も愛する人たちの姿を目に焼き付け。部屋を飛び出した。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「母上…………僕たちも行きましょう。」
アカツキは泣きたい心を必死に殺した。ここで泣いたら、もう立ち上がれない気がした。
セレジアものそんなレイリーの勇気を知ってか、4歳になるテレサを抱っこした。テレサはもう時間も遅かったので、抱っこされているうちにすやすやと寝息をたてて寝てしまった。
「アカツキ、任せます」
「はい、母上」
生まれ育った屋敷をアカツキは後にする。目指すは屋敷の南方にある飛行場。そこに飛行機が何台かある。そこで戦闘機に乗って、地上に降りるつもりである。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
国の王であった男は一人、戦闘機に乗る。
国王専用機であるスカイクロアは通常の軍で配備されているスクラムの全ての性能において3倍以上の差がある。王家の人間の風読みを前提として、造られた名実ともに王国最高の機体である。
機体にはクウラ家の二つの剣が描かれた紋章が張られている。
「カルデラに向かう。3人は俺に着いて来い。島の軌道を変える。俺の大切な家族には手を出させない。残りは護衛を。頼んだぞ」
「はい」
無線から仲間の心強い返事が聞こえた。空には既に50台以上の戦闘機が空を舞っている。敵が獲物が空へと上がることを察している陣形だ。
「離陸」
レイリーは飛び立つ。それを早々に発見した部隊が追撃してくる。
「向かってくる数は4機か。ずいぶんと、空の王も馬鹿にされたものだな。見せてやるよ、王の怒りを」
スロットル全開で加速する。距離を詰め、標的を照準に入れるとすぐさま、銃の引き金を引く。そうすると、前方に向けて取り付けられた機関銃が無数の鋼の弾を発射し、相手の機体を撃ち抜く。翼に被弾した敵機はそのまま高度を落とし、空中で爆散した。
「お見事です」
「世事など言っている暇があるなら、お前らも敵をすべて殺せ。ここで数を減らしておくことが俺達の仕事だ」
「了解」
3人の騎士たちは隊長であるをハイベルをメインとした三角陣形を組む。隊長が獲物を狙い突撃し、そのサイドに来る敵を脇の二人が倒す。三位一体のなせる業だ。
熟練した素晴らしい連携で向かってくる敵機をどんどん撃ち落としていく。
だが、空の王はそれ以上の戦果をたった一人で上げる。
「敵の数も減った。お前らはカルデアへ向かってくれ。何としても島のコンパスをずらし、破壊するんだ。そうすれば、二度とこの島がアルバスを通ることは無い。俺は此処で食い止める。ちょうど、陽動部隊も飛びたつ頃合いのようだしな。任務が終わり次第、お前らも早く遠くに逃げろ。命令だ」
「分かりました。レイリー様もどうかご武運を」
律儀にも三人はレイリーの機体と平行に飛び、敬礼をしてからカルデアに向かった。
「…………これでとうとう俺一人になったか。さて、何機でもかかって来いよ。空の王。レイリー=クウラのこの命。ただで獲れると思うなよ」
空の王はまるで舞踏会で踊りをするかのように優雅に空を舞う。空を飛ぶものなら否応なく、その自分との実力差を思い知らされる。絶対にマネできないような鳥のように自由でとても美しい飛び方だ。
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