アカツキ・クウラの二千年帝国

箱殺し

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炎の誓い

ハプスブルク家の日常 (上)

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――空歴1984年1月24日
 帝政アルバス南東の海沿いに位置する大商業都市カルメス。
 昔からアルバスの海の交易の拠点として繁栄しており、沢山の人が暮らしている。
そこからおよそ車で30分の距離にはハプスブルク家の大豪邸があった。

 ハプスブルク家と言えば、アルバス内では誰でも知っているくらい有名で各国に武器を輸出するケリュオン=エレクトロニクスなどを傘下とする巨大財団、エリューン財団のの創設者一族である。

 始まりの革命以降、世界は戦乱の時代へと移り変わり、世界は3つのサイドに大きく分かれた。
 アルバスはイシュガル皇国を軸とした皇国サイドに属しており、ケリュオン=エレクトロニクスが戦闘機などのイシュガルが他の2つのサイドと戦争で使う大半の武器をイシュガルに対して輸出していた。
 アルバスが無くなっては武器が手に入らなくなる関係上、イシュガルはアルバスを最優先国家として位置づけ、守っている。
 その結果、戦乱の世においてもケリュオン=エレクトロニクス。ひいてはハプスブルク家のおかげで、アルバスは比較的平和な国であった。

 民からも尊敬を受けるハプスブルク家の大豪邸は広大な敷地面積を誇る。が、その大半は広大な畑だ。屋敷自体はカルメスの領主の屋敷よりも小さい。
 一般家庭の家の5倍程度の大きさしかない。

 かの空の王の血を引く唯一の後継者。アカツキ・クウラ。今は名を変えて、ハプスブルク家の長男のルシア・ハプスブルクとして畑作業に夢中になっていた。
 あれから10年の月日が経ち、6歳の頃のような幼さはない。かと言って、空の王レイリーのような王としての威厳溢れる顔立ちにも似ず、王のように周りを見透かすような目は消えて、気性の穏やかだった母にに似たさわやかな好青年に成長していた。
 身長も175センチ程度と平均的。全体的に線が薄いもやしっ子に育った。

「ルシア、ここにいたの?」

 ルシアは農民が着るような農作業用のつなぎを着ている。
 そこに来たのは建前はメイドのルシアの新しい家族である、オリビア・ハプスブルク。
 ブロンドの金の糸のように美しい髪。
 とある空の民独特の青い瞳。
 男の視線を集める最強のグラマーな体型を持つ。
 数多くの皇国サイドの多国籍な貴族が求婚のためにカルメスを訪ねている程だ。さながら、かぐや姫の様だ。

「ああ、リヴか。俺に何か用事でもあるのか?」

「またどこかの誰かさんが畑作業に夢中になっているから差し入れでも持ってきたの。熱中症になるわよ」

 オリビアは木製の水筒をルシアに渡す。

「それにしても今度は何をしているのよ」

「見て分からないか? 剪定と言ってな。無駄な枝を切って養分の効率化を図る行為なんだよ。こうすることで、植物がより大きく成長するんだよ」

「私、あんまり花とか良く分からないんだけど水あげておけばいいんじゃないの?」

「見た目に反して、随分とがさつだよな。だから、彼氏の一人も出来ないんだよ」

「彼氏なんてルシアが生きているうちは作れないわよ」

「俺を悪者にするな」

「違うわ。今のはただの惚気話よ。だって、ルシアと私はお互い空よりも高い愛を誓い合った仲じゃない。小さい頃、私と結婚するって言ったの覚えているんだからね。男なら責任とってよね」

「家族から求婚された所で反応が困るんだよ。近視相姦になっちゃうだろ。そもそも、勘違いしてるが俺が愛してるのはだ」

「つまり、私も愛してるってことでしょ?」

 どうもオリビアの笑顔の前にはルシアも弱かった。照れを隠しを必死にするが、そんな姿もオリビアは好きだった。

「・・・・・・・・・そうだよ。愛してる。だから、こうして愛する家族の為に畑仕事に勤しんでいるんだよ」

 ハプスブルク家の食卓に並ぶ食材は全てがルシアが育てたり、調達してきたものだけだ。他の家族は気にしないが、ルシアは病的なまでに健康に凝り性である。

「私も手伝うわ。そのために来たんだから」

「アシスタントは充分足りてるよ。それより家事の分担があるだろ? オリビアしか家の中のことは出来ないんだからそっちを頼むよ。役割分担って大事でしょ?」

「そうね、分かったわ。ルシアも程々にしなさいよ」

「分かってるって。少ししたら可愛いアシスタントと共に屋敷に戻るよ」

「じゃあね、このロリコン」

 べえっと舌を出して悪戯っぽく挑発して、オリビアは屋敷の方に戻って行った。

「あいつは年々、俺の心臓に悪い女になって行くよな。いっその事、彼氏でも出来てくれると助かるんだけどな」

 なんて呟きつつも、いざ彼氏なんて連れてこられた日にはきっといっぱい泣くだらうなとルシアは思った。なんだかんだで、大好きなのである。

「兄さん、こっちは終わったよ」

 弟のイスルギが籠に野菜を摘んできた。歳はルシアとは1歳しか随分としっかりとした雰囲気のある青年だ。中性的な顔立ちで、髪を伸ばせば女子に見えなくもない。

「今日の晩飯はカルーだってよ。僕、どうしても好きになれないんだよね」

「俺は好きだけどな。ほら、週に一回は出る定番メニューじゃん」

「兄さんが、好きだから週に一回も出るんだよ。しかも、質が悪いことに日持ちするから晩飯に出ると次の日の朝食と昼食にも出るんだよね」

 イスルギはとても嫌そうに話す。
 カルーは簡単に言えば、カレーと大差ない。ただ、アルバスでは訛ってカルーと呼んでいる。
 スパイスで整えたルーに何でもいいから野菜やら魚やら肉を投入し、ごとごと長時間の間、煮込んんだ料理である。

「軍隊とかでも良くあるらしいからな。嫌なら、頻度を抑えてくれってオリビアに頼んでみたらいいんじゃないか?」

「兄さんが頼んでよ。オリ姉は基本的に兄さん以外の言葉には耳を傾けてくれないんだよ。特に兄さんが好きなんて言えば、下手したら毎日同じメニュー出してくる勢いだよ」

「分かったよ、言っておくよ」

 オリビアはルシア大好きが過ぎる為、ルシアの言葉を最優先として行動する。だから、周りの意見などはルシアの二の次となる。
 これが一番顕著に表れるのが食卓のメニューである。ルシアが好きと言えば、採用。逆に、どれだけ他から人気があろうとルシアが嫌いと言えば不採用になる。

「ルシア兄さま、牛さんや豚さんを小屋に戻してきましたよ」

 末の妹が走りながらやって来た。ルシアの可愛いアシスタント2号のアミューリス。皆は名前が長いのでアミューと呼ぶ。
 ちなみに、アシスタント1号はイスルギである。2キロ平方の敷地を3人と当主で父親のアザレフで面倒を見ている。
 14歳くらいで、黒髪のショートヘアーの綺麗な少女。ピンク色のお姫様のようなふりふりなドレスを着ているが、農作業には向かないので当然、土汚れが酷い。
 世にも珍しいオッド・アイが特徴的で、背が小さくていつもツンツンしている。
 同年代の中では、胸が大きく大人びてはいると思うが、グラマーな姉妹を見慣れているルシアにとってみればやはりまだまだ子供だ。

「あれ? ルシア兄さまいたのですか?」

 アミューの手がはちきれんばかりの手のひら返し。ルシアの前では結構、素直な良い子なんだが、思春期真っ盛りな為、それを周りに知られるのが嫌なのか好戦的な態度をとっている。

「いくら何でも無理あると思うんだけど。僕も聞こえたよ」

「はぁ。あんたには関係ないじゃん。さっさと帰ってくれない」

「アミュ、言葉使いが悪いぞ。家族なんだから、もっと思いやりのある行動をしるんだぞ」

「はーい。ルシア兄さま。イスルギとも仲良くする」 

「なんで僕は呼び捨てなんだよ。別に気にしないからいいけどさ」
 
 イスルギのこと名は基本的に無視なアミュ。別にそれはアミュだけではないのだが。
 結局、なんだかんだでアミューはルシアの左側に来るといつも手を握る。彼女なりの特等席意識が働いているのだろう。が、当人のルシアは子供だから人肌恋しいくらいにしか思っていない。

「もしかして、その具材。今日もカルーなの?」

「その反応。もしかして、お前もあんまり好きじゃないのか? 正直、どこの国にでもある一般的な家庭料理だぞ」

「だってさ。一回出るとかなり連続になるから飽きる」

「その意見には僕も激しく同意だわ」

「流石に3食連続で飽きるとか言うのは贅沢すぎだろ。どこの大富豪だよ。作る人の身になって見ろよ。無駄に女子が沢山いるのに料理が出来るのが俺とオリビアだけとか女子力無さすぎるだろ」

「…………私は偉いからそんな侍女みたいなことしなくていいもん。パシリのイスルギとは格が違うもん」

そんなくだらないことを話していると、屋敷の前で真剣で素振りをしている女子を見つけた。胴着を着るポニーテールな彼女。

「ルシア、イスルギ帰ったか。アミュは二人の邪魔をしなかったか?」

 こちらの気が付くと、彼女は剣を鞘に戻しルシア達のところにやって来る。
彼女はミカゲ。ちょうどルシアの2歳ほど年上の存在である。歳の順で行くと二女である。

「ミカゲ姉さま。汗臭いわ。早く風呂にでも入ってくれば?」

「そうか…………気が付かなかったよ。ありがとう、アミュ。殿方二人の前にみっともない姿をさらさずにすみそうだ。私は風呂にでも入ってくるとするよ」

「ちょっと待ってよ。アミュの嘘だよ。全く、アミュは俺の前では良い子なのに何でほかの家族にはそんなに好戦的なんだよ。同じこと言いたいのが、もう一人いるけどさ…………3人かな」

「だって、文字通り敵だもん。特にミカゲ姉さまなんて要注意人物って、オリ姉さまも言ってたもん」

  ルシアの陰に隠れながらアミュは言う。
 そんな年相応の姿がルシアには微笑ましい光景だった。

「・・・・・・私はオリビアやアニュに嫌われることをしたのか? 残念ながら、記憶が無いんだがな・・・・・・私が何かしてしまったのなら謝るが?」

「気にするなよ、ミカゲ姉さん。あのリヴが言っていることなんだからさ」

「だとしてもだ。常に自分の行動が間違えていないかを確認することは人生において大切だと思うが? 私だって、常に正しい訳ではない。それにオリビアは素直な良い子だと思うよ」

「ミカゲ姉さんは相変わらず、堅苦しいよ。騎士道ってやつなのかもしれないけどさ。でも、どや顔でそんなこと言われなくとも俺だってオリビアのことは理解しているつもりだよ」

「それこそ。知っているさ」

ルシアとミカゲが周りを無視していい感じな雰囲気になる。本来、似た者同士だから気が合うだけだと本人たちは思っているが、周りからしたらカップルに見えなくともない。
アミュは少なくともそう感じたらしい。

「ちょっと。ちょっと。ちょっと。こういうところがミカゲ姉さまの一番危険なところなのよ。イスルギも分かるでしょ? この私がなんだかんだ言って本妻なのよ感が強いのよ」

「確かに。分からなくもないかな」

「おいおい。ちょっと待て。前提が間違っているぞ。そもそも私たちはルシア達に使えるメイドだぞ。仮に、そうじゃなくとも立派な第二の家族だ。結婚なんぞ出来る訳ないだろうに」

 ミカゲはハプスブルク家の中でも常識人である。逆に、ミカゲ以外の女たちの常識が狂っている。ついでに言うと、ルシアも。

「まぁ、そうなんだけどね。でもさ。どうせ、兄さんは可愛い姉妹たちが実際に彼氏なんぞ連れてきた日には彼氏をストーキングしてあら捜しして、あればそれを口実にぶっ殺しそうだけどね。せっかくの、選りすぐりの美少女たちが箱入りで終わりそうだよ」


 冗談で半分でイスルギが言う。

「それはあるわね。家族同士結婚出来ないとか常識人ぶっても、ルシア兄さまは私たちのこと大好きなんだもんね」

「五月蠅い。家族を大切に思って何が悪いんだよ」

「それがルシアの場合、度が過ぎているんだよ。まぁ、私達は皆が訳ありな存在だからね。仕方がないと言えば、仕方ないけどね。前のステフの事件はやりすぎだと思うぞ」

 ルシアの1歳年上のステファニーが告白を断った20人ほどの男子たちからの怨恨で暴行を受けた事件が2年前ほどに会った。それを知ったルシアが、その男子生徒全員を次の日の放課後に集めて、20人の男子を相手に喧嘩を売り、再起不能になるまで痛めつけた。今も、全員が病院にいる。
 当時、いくら何でも流石にやりすぎだろと言う非難があったのを裏から手を回して穏便に済ませてもらったことがある。
 無論、形はちゃんと監視カメラに残るように正当防衛の形はとっていたことと、先日のステファニーの暴行事件があったことから罪を問われることは無かった。
 どうもルシアは家族に対しては少々度が過ぎる行いが多い。

「反省はしているよ。どうも、やりすぎちゃうんだよね」

「その件だけではないがな。私達からしたら心強いけどな。あ、そうだ。食後、剣の稽古に付き合ってもらえないか? やはり、相手がいない事には始まらなくてな」

「俺なんかでいいなら、承ったよ。すねるなよ、アミュ」

 すっかり、ミカゲと話していたらアミュはご機嫌斜めになってしまった。どうも、他の家族との会話に入れないと時々こうなる。放っておくと、指数関数上に機嫌が悪くなるから早急に手を打たないといけない。これはルシアの経験則だ。その内、部屋から引きこもって出てこなくなる。

「明日は休みだから一緒に街に行くか?」

「うん」

 演技かと思うくらい暗かったアミュの表情がぱっと太陽のように明るくなった。
 こう言えば、たいてい機嫌は元に戻る。どうしても直らないときは、泣きのクレープでも買ってあげると今みたいに良くなる。このやり取りをしていると、どんだけ街が好きなんだよとルシアは毎回思う。
 ルシアはこのちょっと面倒なところもアミュの魅力だと思う。

 
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