毒舌教師、悩みを聞く気ゼロ。だけど的確すぎて誰も逆らえない

彩乃

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いい人の仮面は、自殺用の首輪だ

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 相談室のドアが、ノックの音もないまま静かに開いた。

「……失礼します」

 入ってきたのは、きっちり着た制服、柔らかい物腰、そして“何も考えてなさそうな笑顔”の男子生徒。

「名前は?」

「三宅 奏(みやけ・そう)です」

「ふぅん、見た目の印象だけで言うと、“親に紹介しても安心そうな人選ミス”って感じだな」

「……え?」

「いや、なんかこう、“見た目だけ良心的”なやつって、逆に一番危ないのよ。中身スカスカのまま社会に出て、
 “僕なりに頑張ったのに”って言いながら、三十路手前でメンタル爆散するタイプだろ」

「……」

 

 言葉のキツさに戸惑いつつも、三宅は座った。

「それで? お前は何が不満でここに来たんだ。
 “学校がつまらない”とか、“友達と距離がある”とか、どうせそんな感じだろ?」

「……すごいですね。まさにその通りです」

「だから嫌いなんだよ、その“合わせにきた感じ”。
 お前、人に嫌われないことに命懸けてるだろ」

「えっ……」

「誰かの顔色を見て、空気を読んで、相手の希望に沿うように笑って、
 でも本当は、誰と話してても“自分の存在感”が薄れてるのを感じてる。
 違うか?」

 

 三宅は、黙ってうなずいた。

「……そういうのって、悪いことですか?」

「悪い? いいとか悪いの話じゃねえ。“お前が潰れるかどうか”の話だ」

 

 烏丸が立ち上がり、ホワイトボードに一本線を引いた。

「こっちが“お前の本音”。で、こっちが“他人の期待”。
 その真ん中ばっかり歩いてると、どうなるか知ってるか?」

「……バランス取れる、とか?」

「ちげぇよ。
 “両方に引っ張られて裂ける”んだよ、お前みたいな奴は」

 

 三宅の顔が、ほんの一瞬だけ強張った。

「お前がやってるのは、“誰にも嫌われないようにする”ことじゃない。
 “誰にも覚えられないようにする”って生き方だ。
 人に合わせて、言いたいこと飲み込んで、
 結果、“お前自身”がどこにもいなくなる。
 そんなの、ただの“無害な背景”だよ」

 

 三宅が、小さな声で言った。

「……僕、昔から“いい人だね”って言われるのが嬉しくて。
 期待に応えてれば、ちゃんと見てもらえるって、思ってたんです」

「お前を見てたのは、“お前の反応”であって、“お前の本音”じゃねぇよ。
 いつか限界来るぞ。
 “優しいね”って言われ続けた先で、“誰も俺のこと知らねぇ”って地獄が来る。
 その時、お前はたぶん、“好かれた数”よりも、“何にも言えなかった回数”を後悔する」

 

 沈黙のあと、三宅がポツリとつぶやいた。

「……じゃあ、どうすればよかったんでしょう。僕、誰かの期待がないと、自分の意味がわかんなくなるんです」

「なら今から作れ。“誰に嫌われても言いたいこと”を」

「……そんなの、僕にあるかな」

「あるだろ。“ずっと言わなかったこと”の中に埋まってるよ。
 そいつを、そろそろ掘り出せ。じゃないと、お前、“誰かの理想の残骸”として死ぬぞ」

 

 三宅は、しばらく黙っていた。
 それから、少しだけ視線を落としながら、ぽつりと笑った。

「……怖いですね。でも、なんかスッとしました。
 “誰にも嫌われない自分”より、“誰かに嫌われても言えた一言”のほうが、残る気がします」

「その通り。“嫌われる覚悟”ができた時だけ、やっと“お前が喋れる”ようになるんだ」

 

——この日、“いい人”の仮面をつけた少年は、初めて“自分の声”を出す決意をした。
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