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“あんたなんかにわかんない”って言えば、守られないで済むと思ってた
しおりを挟む相談室のドアが、バタンと荒々しく開く。
「は? 呼ばれたから来ただけだけど。別に悩んでねーし」
入ってきたのは、染めた髪に爪までバチバチに整えた女子。
校則なんか知るかと言わんばかりの態度で、椅子にドカッと座る。
「名前は?」
「佐伯メイ。2年C組。……で? “更生コース”っすか、先生?」
「いや別に。お前みたいな“反抗を免罪符にしてるタイプ”、腐るほど見てきたから」
「はぁ? てかアンタ誰に向かって――」
「教師だよ。一応な。で、何? 家で人格否定でもされて育ったか?」
メイの表情が一瞬だけ止まる。
だがすぐに睨み返す。
「なに、エスパー? それとも趣味悪い推理ごっこ?」
「いや、“逆ギレで自分を守ろうとする奴”って、だいたい親が“愛情の形間違えたゴミ”だから。
当たりだろ?」
「っ……ふざけんなよ」
「図星だからキレたんだろ。“何言っても否定される環境”で育った奴は、
“先に攻撃しとけば、自分の傷に触れられない”って戦い方を覚える」
「うるさい! あんたに何がわかんの!? どうせ安全圏から上から目線で――」
「わかんねーよ。でもな、少なくとも“お前がずっと殴られてるのは他人じゃなくて、自分自身”だってのはわかる」
「……は?」
「お前、“他人から言われたひどい言葉”を、何百回も頭ん中で繰り返して、
毎晩、自分で自分に言ってるだろ。“私なんかが”とか、“どうせムリ”とか。
それ、お前自身が“親の代わりに自分をぶっ叩いてる”ってことだよ」
メイは拳を握りしめた。
「……わかってたら、なんなの? あたしがどんな育ち方してようが、今さらどうにもなんないし」
「そうだな。
でもな――“お前がまだ壊れてない”って事実が、全部を変えるチャンスになる」
「……は?」
「お前、こうやって相談室に来て、ちゃんと話してる。
それ、もう“壊れてない証拠”だよ。
完全に潰れてる奴はな、黙って教室の隅で死んだ目してるか、ベッドから出てこない」
メイの目が揺れた。
「お前、強くなりたいんじゃない。“普通に愛されたかった”だけだろ。
でもそれを口に出すのが一番怖いから、
“私は平気”って顔して、全部自分で処理して、
壊れる直前まで笑って強がって……そのまま潰れる。典型的な地雷コースだよ」
「……強がってなきゃ、あたし、死んじゃうんだよ」
「なら強がるな。“助けて”って言ってみろ。
お前の人生、少しくらい誰かに支えられてもバチは当たらねぇよ」
しばらくの沈黙のあと、メイは震えながら、ぽつりとつぶやいた。
「……言えねぇよ。助けて、なんて。
だって、助けてって言っても、誰も助けてくれなかったから……」
「過去はそうだったかもな。でも今ここにいるのは、俺だ。
お前が“助けて”って言えば、聞く耳くらい持ってやる。
ただし、暴言吐いたら“ぶん殴るように正論”ぶつけるから、そのつもりでな」
メイは、ようやく、少しだけ目を伏せた。
「……あたし、ずっと“強くなれ”って言われてきた。
でも、強くなりたくてなったわけじゃねぇんだよな」
「そうだ。“強くなれ”ってのは、弱さを許さない呪いだ。
お前は、よく耐えた。それだけで、もう充分強い」
——その日、“怒鳴っていれば誰にも踏み込まれない”と思っていた少女は、
初めて、“踏み込まれても壊れない自分”を知った。
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