毒舌教師、悩みを聞く気ゼロ。だけど的確すぎて誰も逆らえない

彩乃

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誰にも嫌われない子供のつくりかた

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 小学五年の冬。
 久賀悠人は、**「うまくやること」**だけが正義だと知った。

 

「悠人、あんたまた空気読まずに喋ったでしょ? 
 どうして“普通”にしてられないの?」

 母の声は冷たく、食卓の湯気すら凍らせる。
 父は新聞を開いたまま、ノーコメント。
 沈黙の圧が、久賀の胃をじわじわ締めつける。

「……ごめんなさい」

 その一言が、自分を守る呪文になると覚えたのは、もっと前だった。

 

 翌日、学校では「優しくて面倒見のいい子」で通す。
 人の顔色を読み、言葉を選び、間違わない。

 クラスの女子が泣けば慰めて、男子が暴れれば止める。
 そのたびに、「さすが久賀くん」と言われる。

 そう言われるたび、
 「この顔さえ演じてれば、大丈夫」と思えた。

 

 でも、本当は知ってた。
 誰も「本当の自分」なんて見ていないこと。
 優しくすれば感謝され、無理をすれば称賛される。
 でも、そのどれもが“演技”にしかすぎないこと。

 

 ある日、担任の先生が褒めてきた。

「久賀くんって、本当に優等生ね。
 他の子たちも見習ってほしいわ」

 その瞬間、久賀は気づいてしまった。

 “優等生”を演じ続ける限り、自分は「必要とされる」側にいられる。

 だが同時に、こうも感じた。

 “必要とされなくなった瞬間、自分は捨てられる”

 そこから、久賀の世界はひとつのルールで動き始めた。

「誰よりも正しく、誰よりも便利で、誰にも嫌われない」
「それが無理なら、“相手の心を先に読んで、支配する”」

 

 中学では生徒会長になった。
 高校では副会長として全方位に好かれた。
 でも、家では今も変わらず、
 「お前は黙って言う通りにしていればいいの」と言われるだけ。

 誰からも嫌われない。
 けど、誰からも“本当の意味では愛されない”。

 その矛盾に気づいていたが、
 久賀は“完璧な仮面”を脱ぐ勇気がなかった。

 なぜなら、脱いだ瞬間、
 「自分は何もない空っぽ」だとバレてしまう気がしたから。

 

 そんな久賀が烏丸に出会い、仮面を剥がされたとき――
 初めて「自分を見抜いた誰か」に、怒りじゃなく、
 ほのかな安心感を覚えていた。

 

「こいつになら、もしかしたら“ダサい自分”を見せても逃げられないかもしれない」
「それはきっと、怖いけど――ちょっとだけ、うれしい」

 

——久賀悠人。
 その完璧な演技の裏にいたのは、
 “愛され方を知らなかった”ひとりの子供だった。
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