毒舌教師、悩みを聞く気ゼロ。だけど的確すぎて誰も逆らえない

彩乃

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その目に、俺は映っていない

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 昼休みの渡り廊下。
 久賀悠人は、奇妙な感覚に襲われていた。

 見られている。

 だが、悪意も敵意も好意もない。
 ただの“観察”。

 

「ねえ、生徒会の久賀くんでしょ?」

 その声は、妙に無機質だった。

 振り返ると、灰谷つかさがいた。
 1年生。名前は聞いたことがあるが、接点はなかったはず。

「……はい。何かご用ですか?」

「ううん。ただ見てた」

「……僕を?」

「うん。君って、“生きたままミイラになってる”みたいだね」

 

 久賀の眉がかすかに動く。
 意味がわからない。だが、なぜかザラつく。

「その……どういう意味かな?」

「“人間らしい感情”をすべて保存して、腐らないようにしてるんでしょ。
 でもそれって、もう死んでるのと変わらないじゃん?」

「……へぇ。面白い比喩だね」

「比喩じゃない。事実だよ」

 

 久賀は笑みを作る。反射的に。

 でも、灰谷にはそれが“効かない”。

「それ、ほんとの笑顔?」

「……どうして、そう思うの?」

「君の目だけが、いつも“止まってる”から。
 口角は上がるけど、目が動いてない。ずっと前から」

 

 冷や汗が背筋を伝う。

 なんだ、この子は。
 まるで**“自分の外側から自分を見てる”ような言い方**だ。

「……君は、人の感情をそうやって分析するのが趣味なの?」

「ううん、違うよ。僕には“感情”ってものがわからないから、調べてるだけ」

 

 その無表情のまま、灰谷は淡々と続けた。

「僕、人の感情って“ウイルス”みたいだと思ってて。
 うつるし、暴走するし、何より非論理的」

「……」

「でも君は、それをうまく利用してる。
 人の“うつりやすさ”を測って、感染させて、支配してる。
 だから僕、観察してたんだ――“本当に感情って武器になるのか”って」

 

 久賀は、初めて言葉を詰まらせた。
 この相手には、「共感」も「誘導」も通じない。

 感情という言語が“未対応のOS”みたいに、何一つ動かない。

 

「君さ、何が楽しくて生きてるの?」

「わかんない。でも君も同じでしょ。“楽しい”って何か、本当は知らない」

 

 その一言が、久賀の心の奥に刺さった。
 誰にも見抜かれたことのない、冷たい空洞に。

 そして灰谷は、最後にこう言い放つ。

 

「僕、君のこと興味ある。
だって、“本物の人間”ってこうやって壊れてくのかって、今、実験中だから」

 

 ——その日、久賀悠人は初めて、「自分が見透かされる恐怖」を知った。
 そして同時に、
 “感情という名の仮面”が効かない人間がいることを理解した。

 

久賀の独白:「感情が通じない相手って、こんなに……怖いんだな」

(だって俺は、“誰かの心に入り込んで”初めて、生きていられるのに)
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