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揺らいだ心は、真っ先に狙われる
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灰谷つかさが“心を持ち始めた”という噂は、誰にも言ってないはずだった。
けれど、“人の変化”というのは、敏感な奴には匂いでバレる。
特に――“悪意のある奴”には。
ターゲットは、生徒会副会長・藤巻理玖。
誰にでも優しい笑顔を向ける、“学校の好青年”として知られていたが、
その実態は――「人の心を抉るのが趣味のサディスト」。
昼休み。図書室。
藤巻は、灰谷の向かいに腰を下ろした。
「灰谷くん、最近“表情”が変わったね。……人間ぽくなった」
「……観察対象が、観察してくるとは皮肉ですね」
「ごめんごめん。君って、いつも面白いからさ。
感情の起伏がないのに、なぜか言葉が刺さる。まるで、壊れた人形の刃物みたい」
その瞬間、心がピクリと反応した。
“人形”という単語が、やけに刺さる。
藤巻は、にこにこしたまま畳みかける。
「でも最近は、ちょっと違う。“棘”が丸くなったっていうか。
もしかしてさ――“誰かに優しくされた”んじゃない?」
「……」
「当たりだ。図星を突かれて反応が遅れた。
君、“傷ついたらどうなるか”知ってみたくなったでしょ?」
その言葉が、灰谷の核心をえぐる。
確かに、今の自分は“誰かに触れたい”と――ほんの少し、思い始めていた。
藤巻は机に肘をついて、さらに続ける。
「面白いなあ。感情を得た瞬間に、“それを壊されたくない”って守ろうとする。
でもさ――それってもう“弱点”じゃん?」
「……あなたは、それを壊したいんですか?」
「違うよ。“試してみたい”だけ。どこまで崩れるのか、君の限界をね」
その日以降、藤巻は徐々に距離を詰めてくる。
灰谷が優しくされて揺らいだ記憶を、徹底的に揶揄してくる。
「君、あの子の“ありがとう”に反応したんでしょ? 顔に出てたよ」
「“気持ち”を持った君って、意外と脆いんだね」
「感情って、ほんと不便で愚かだよね。君に似合わない」
……少しずつ、少しずつ。
灰谷の中で“何か”がヒビを入れられていく。
数日後。相談室。
久々に訪れた灰谷に、烏丸が一瞥をくれる。
「……おい。感情に足突っ込んだと思ったら、顔に“ストレスたんこぶ”できてんぞ」
「……“揺らいだ自分”が、他人に利用されている気がします」
「気のせいじゃねぇ。事実だろ」
灰谷は、弱く唇をかんだ。
「僕は、感情を知って“強くなれる”と思っていた。
でも実際は、“狙われやすく”なっただけだった」
烏丸は、鼻で笑う。
「当然だ。“心がある”ってのは、“そこを刺せば痛む”ってことだ。
お前が今感じてんのは、“人間の標準装備”だよ。
逆に言えば――痛む場所があるから、お前はもう“ただの観察者”じゃねぇんだ」
「……」
「いいか? “強さ”ってのは、“痛まないこと”じゃねぇ。
痛まれてもなお、そこに立つことだ。
感情を持ったお前がやるべきことはひとつ――」
「“その弱点を守るんじゃねぇ。利用してくる奴をぶっ潰せ”」
その言葉に、灰谷の視線が少しだけ鋭くなる。
「……僕でも、“壊される前に壊す”ことができますか?」
「おう。そのためにわざわざ、感情って刃物があるんだよ」
その日、灰谷は図書室に戻り、藤巻にこう言った。
「あなたが僕に興味を持ったのは、あなた自身が“壊されかけた経験”があるからですね」
「……は?」
「“人形みたいなやつ”が揺れるとこを見て、安心したかったんですよね?
“自分だけじゃない”って。
つまり、あなたが一番“弱さに囚われてる”」
藤巻の顔から、笑顔が落ちた。
その瞬間、灰谷は初めて、“誰かの心を抉る快感”を知った。
けれど、“人の変化”というのは、敏感な奴には匂いでバレる。
特に――“悪意のある奴”には。
ターゲットは、生徒会副会長・藤巻理玖。
誰にでも優しい笑顔を向ける、“学校の好青年”として知られていたが、
その実態は――「人の心を抉るのが趣味のサディスト」。
昼休み。図書室。
藤巻は、灰谷の向かいに腰を下ろした。
「灰谷くん、最近“表情”が変わったね。……人間ぽくなった」
「……観察対象が、観察してくるとは皮肉ですね」
「ごめんごめん。君って、いつも面白いからさ。
感情の起伏がないのに、なぜか言葉が刺さる。まるで、壊れた人形の刃物みたい」
その瞬間、心がピクリと反応した。
“人形”という単語が、やけに刺さる。
藤巻は、にこにこしたまま畳みかける。
「でも最近は、ちょっと違う。“棘”が丸くなったっていうか。
もしかしてさ――“誰かに優しくされた”んじゃない?」
「……」
「当たりだ。図星を突かれて反応が遅れた。
君、“傷ついたらどうなるか”知ってみたくなったでしょ?」
その言葉が、灰谷の核心をえぐる。
確かに、今の自分は“誰かに触れたい”と――ほんの少し、思い始めていた。
藤巻は机に肘をついて、さらに続ける。
「面白いなあ。感情を得た瞬間に、“それを壊されたくない”って守ろうとする。
でもさ――それってもう“弱点”じゃん?」
「……あなたは、それを壊したいんですか?」
「違うよ。“試してみたい”だけ。どこまで崩れるのか、君の限界をね」
その日以降、藤巻は徐々に距離を詰めてくる。
灰谷が優しくされて揺らいだ記憶を、徹底的に揶揄してくる。
「君、あの子の“ありがとう”に反応したんでしょ? 顔に出てたよ」
「“気持ち”を持った君って、意外と脆いんだね」
「感情って、ほんと不便で愚かだよね。君に似合わない」
……少しずつ、少しずつ。
灰谷の中で“何か”がヒビを入れられていく。
数日後。相談室。
久々に訪れた灰谷に、烏丸が一瞥をくれる。
「……おい。感情に足突っ込んだと思ったら、顔に“ストレスたんこぶ”できてんぞ」
「……“揺らいだ自分”が、他人に利用されている気がします」
「気のせいじゃねぇ。事実だろ」
灰谷は、弱く唇をかんだ。
「僕は、感情を知って“強くなれる”と思っていた。
でも実際は、“狙われやすく”なっただけだった」
烏丸は、鼻で笑う。
「当然だ。“心がある”ってのは、“そこを刺せば痛む”ってことだ。
お前が今感じてんのは、“人間の標準装備”だよ。
逆に言えば――痛む場所があるから、お前はもう“ただの観察者”じゃねぇんだ」
「……」
「いいか? “強さ”ってのは、“痛まないこと”じゃねぇ。
痛まれてもなお、そこに立つことだ。
感情を持ったお前がやるべきことはひとつ――」
「“その弱点を守るんじゃねぇ。利用してくる奴をぶっ潰せ”」
その言葉に、灰谷の視線が少しだけ鋭くなる。
「……僕でも、“壊される前に壊す”ことができますか?」
「おう。そのためにわざわざ、感情って刃物があるんだよ」
その日、灰谷は図書室に戻り、藤巻にこう言った。
「あなたが僕に興味を持ったのは、あなた自身が“壊されかけた経験”があるからですね」
「……は?」
「“人形みたいなやつ”が揺れるとこを見て、安心したかったんですよね?
“自分だけじゃない”って。
つまり、あなたが一番“弱さに囚われてる”」
藤巻の顔から、笑顔が落ちた。
その瞬間、灰谷は初めて、“誰かの心を抉る快感”を知った。
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