毒舌教師、悩みを聞く気ゼロ。だけど的確すぎて誰も逆らえない

彩乃

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救いの形が違うなら、それはもう戦争だ

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彼女の名は、南雲 莉沙(なぐも りさ)。
 教室では笑顔で過ごしているが――
 袖の下には、見えない“自己否定の痕”が並ぶ。

 

 最初に対応したのは、久賀だった。

「……“死にたい”って言わないのに、死にたそうなやつ。
 一番、厄介で手応えあるわ」

 

 久賀は莉沙に近づくと、ゆっくりと話を始めた。

「南雲さん。“自分を切る理由”って、たぶん“何かを取り戻すため”だよな。
 存在感とか、主導権とか、“生きてる”って実感とかさ」

「……っ」

「俺ね、そういうの、ちゃんと“使えば”便利だと思ってる。
 “切ることで得られる自分”を、もっと他人に見せる形に変換してみたら?
 たとえば、痛みを言葉にして。誰かに“刺さるように”して」

「……それ、治すってこと?」

「違う。**“使いこなす”ってこと。
 痛みを殺すんじゃなくて、“道具にしてやる”のが賢いって話」

 

 一方その頃、灰谷は莉沙の絵日記を読んでいた。
 その中には、**“痛みを言葉にできない葛藤”**が、静かに綴られていた。

 

 そして、翌日。灰谷も彼女に声をかける。

「……南雲さん、“自分を切る”ことでしか感じられないもの。
 それを“他人に言えない”って、苦しいですよね」

「……っ」

「僕はそれを、“言語の限界”だと感じました。
 でも――だからこそ、**“伝わらなくても、そこに在る感情”**を誰かと持てるといい」

「伝わらないのに……持つ?」

「はい。“わかってもらえなくても、そばにいる”人がいることで、
 “わかってほしい”という地獄から、少しだけ離れられる」

 

 莉沙は黙っていたが、目にうっすらと涙が浮かぶ。

 

 そして、数日後。
 相談室にて、久賀と灰谷が再び向き合う。

 

「……お前さ。“共感”を祈るばっかで、何も動かせてねぇんじゃね?」

「あなたこそ、“救った気になってる”だけです。
 その子が“あなたの言葉を自分のものにできる”保証は、どこに?」

 

 二人の視線が交差する。
 鋭利で、静かで、それでいて――互いに認めざるを得ない何かがある。

 

「お前のやり方は、時間がかかりすぎる。待ってたら潰れる奴だっている」

「あなたのやり方は、手っ取り早い。でも、“人としての痛み”を無視している。
 “治ったように見える傷”が、一番深いこともある」

 

 沈黙。
 久賀が目を細めて、ぼそりと呟く。

「……やっぱムカつく。
 お前の言葉、正論っぽくて、どうにも否定しきれねぇ」

「あなたの言葉も、正しい面がある。
 でも、それを使うには“慎重さ”が足りない」

 

 二人は、同時にため息をついた。

 その瞬間、廊下の向こうで莉沙が、
 自作の詩を掲げながら、生徒会掲示板に貼っているのが見えた。

 ――《ここにいるよ、と言えない私のために
    誰かがそばにいてくれる世界が
    ほんの少しだけ、あたたかかった》

 

 久賀が一言。

「……あの子、詩なんて書けたのか」

「“使いこなした”んでしょう。あなたの言葉を。
 でも、“そばにいていい”と思えたのは――僕の言葉かもしれない」

「……共作ってことにしといてやるよ」

 

 二人の間に、ほんの少しの“休戦”が訪れた。
 だが、価値観の火種は、まだ消えていない。
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