毒舌教師、悩みを聞く気ゼロ。だけど的確すぎて誰も逆らえない

彩乃

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優しさのふりをした、私のエゴ

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 灰谷が南雲莉沙から距離を置いた日々は、静かに続いていた。
 目は合っても逸らされ、話しかけようとすれば“どこかへ行ってしまう”。

 理由は告げられない。
 けれど、莉沙にはそれが一番残酷だった。

 

「……なんで……なんで、無視するの……?」

 

 教室の隅。灰谷は本を読んでいるふりをしている。
 その指先は震えていた。

「私、何かした? 嫌われるようなこと……」

「――してない。
 君は、悪くない。僕の問題だ」

「それが、わからないって言ってんの!」

 

 莉沙の声が震える。
 クラスがざわつく。でも彼女は止まらない。

「ねぇ、私さ……!
 灰谷くんのこと、本気で“特別”だと思ってたんだよ!?
 笑ってくれたの、君だけだったし、
 私の言葉をちゃんと聞いてくれたの、君だけだったのに……!」

「……だから、距離を置いた」

「は!? なにそれ!?
 ――“私が依存しそうだから”って思ったの!?
 それとも、“君が揺れそうだから”!?
 どっちでも勝手に決めんなよ!」

 

 その瞬間――灰谷の目が揺れる。

 

 莉沙は、涙をこらえながら続ける。

「ねえ、わかる?
 私は“見捨てられる痛み”をもう二度と味わいたくなかったの。
 だから、君の声が救いだった。
 なのに君は、“無言で切り捨てる人間”と同じことしてんのよ……」

 

 教室は静まり返る。
 灰谷はその場に立ち尽くす。
 そして、やっと声を絞り出す。

「……怖かったんだ。
 君にとって、僕の存在が“毒になる”んじゃないかって……
 感情を持つ僕が、間違って君を傷つけるんじゃないかって……」

 

 莉沙は首を振る。怒りと哀しみの混ざった声で。

「それって、“逃げ”じゃん。
 自分の不安から、私ごと逃げただけじゃん。
 優しさのふりして、自分だけ安全圏にいたんだよ……!」

 

 灰谷は、何も返せなかった。
 その目には、これまで感じたことのない色が宿っていた。

 

 そして莉沙は言う。

「でもね――
 私はそれでも、もう一度君に話しかけるよ。
 無視されても、怒っても、泣いても、
 私は“君がいたこと”を後悔したくないから」

 

 そう言って、彼女は去っていった。

 灰谷の胸に残ったのは、あまりに人間的な痛みだった。
 傷つけた。
 でも、それでもなお誰かが自分に向かってきた。

 

 ――この痛みが、感情だとするなら。

 それはきっと、
 最も強く、最も醜く、最も美しいものだった。
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