毒舌教師、悩みを聞く気ゼロ。だけど的確すぎて誰も逆らえない

彩乃

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反抗:久賀咲弥

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職員室。
 いつものように、誰も寄りつかない時間帯。

 烏丸はひとり、コーヒーを啜っていた。
 手元の書類には、“百目木静馬”の進路調査票。
 「教師志望」の欄に、今は線が引かれている。

 

 「……ずいぶん、潔く斬りましたね」

 

 声がした。
 顔を上げると、職員室の扉に、久賀が立っていた。

 制服のボタンを留めず、乱れたネクタイのまま――目だけが、まっすぐ怒っていた。

 

 「話があるんで、座ってもいいですか」

 「……どうぞ、ご自由に。生徒の来客、大歓迎なんで」

 

 久賀は椅子を引いて、どっかと腰を下ろした。

 

 「さっき、静馬と話しました」

 「ほう。生きてたか、あいつ」

 「心は死にかけてましたけどね」

 

 久賀は目を細める。怒りを抑えきれない顔で、言った。

 

 「――どうして、見捨てたんですか」

 

 烏丸は肩をすくめた。

 「見捨ててなんかないさ。ただ“線を引いた”だけだ」

 

 「“教師失格だ”って言ったらしいですね」

 「言ったとも。何が悪い。
 他人を操作しようとして拒絶されたガキが、“教師”を名乗ってる方が気色悪ぃ」

 

 久賀の拳が、机をドンと叩いた。

 

 「それでも、アイツは“人を知ろうとして”ぶっ壊れたんですよ!」

 

 烏丸の目が鋭くなる。

 「“壊れるほどやる”ことと、“やっていいことの区別”は別だ。
 知りたきゃ何してもいいっていうのは、“正義”じゃねぇ。
 ――お前こそ、“悪意ある理解者”の怖さ、忘れたのか?」

 

 一瞬、久賀の目が揺れる。
 過去のフラッシュバック。操られ、傷つけられたあの感覚。

 だが――

 

 「それでも! 俺は……あいつを救いたいと思ったんだ」

 

 静かに、でも、深く。

 

 「俺はあいつのこと、正直ムカつくし、何考えてんのかサッパリ分からねぇし、
 他人の心をいじくるのに、全然“自覚”がないクソ野郎だと思ってます」

 

 「……なら放っとけ」

 

 「でも!」

 

 久賀の声が跳ねた。

 

 「アイツ、初めて“自分の感情”に苦しんでたんです。
 思い通りにいかなくて、うまく喋れなくて、
 人に拒絶されて、“傷つくこと”に気づいてたんです」

 

 「それで?」

 

 「“教育者”名乗ってるアンタが、
 そっから“見捨てる”ってなんなんですか!!」

 

 その言葉に、烏丸の目が細くなる。

 煙草の火が静かに揺れた。

 

 「……じゃあ聞くが、お前にあいつを救えるのか?
 静馬は頭がいい。“嘘の優しさ”も、“浅い理解”も、すぐに見抜く。
 甘やかして、泣かせて、抱きしめたって無駄だ」

 

 久賀は、立ち上がって言い返す。

 

 「俺は……“救えるか”なんて分かんねぇ。
 でも、“誰かに拒絶されたまま”放置することだけは、
 絶対にやりたくねぇ」

 

 「……ほう」

 

 「理屈で切るなよ。
 人の気持ちは“正しい”かどうかじゃなくて、
 “その時、どれだけ本気だったか”でしか救われないんだよ」

 

 沈黙が落ちる。
 烏丸は煙草を灰皿に押し込み、立ち上がった。

 

 「……そうか。なら、やってみろ」

 

 久賀の目が驚きで見開かれる。

 

 「マジで、任せてくれるんですか」

 

 「任せたわけじゃねぇ。
 ただ――お前がそこまで言うなら、見届けてやるよ。
 “救う”ってのが、口先の正義じゃねぇと証明してみろ、久賀」

 
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