ブラックスワン

ふわふわ

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暗くて辛くて苦しくて

逃亡

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「暗くて辛くて苦しくて逃げてきた」
僕に言った君の瞳は枯れ果てた花のようだった。

「ねえ、今日転校生来るらしいよ」
たったこの一言でクラスの雰囲気が大きく変わった。さっきまではらあちこちでバラバラな話題で盛り上がっていたのに、一気に大人数で転校生についての推測を飛び交わしていた。
今は7月の中旬。高校一年生にってまだ3ヶ月ほどしか経っていない。なんなら、あと一、二週間で夏休みに入る。僕の高校は夏休みが長く冬休みが短い。だいたい1ヶ月半の夏休みになる。
今転校してきたところで、夏休みまでに友達を作って遊びに行けるような子はクラスに居ない。もう、グループとして固まってしまっているのだ。夏休みは遊びたいと思う人が大半なはずだからその子が転校してくるメリットはないような気がする。
このタイミングで転校してくるその子がどんな子なのかとても興味があった。かといって、大きな声で質問するようなキャラでもない。みんなが考えていそうな質問だし誰かが聞いてまた、広まってくるだろうと思った。その予想は10分後には当たっていた。  

転校生が来るという情報を広めた張本人のソラいわく、とびっきりの美女らしい。
顔まで知ってるとは思わなかった。ソラの親戚とか友人なのかと思っていたか間違ったようだ。
ソラが登校していたらこの学校の制服を着た知らない女の子がいたから話しかけてみたという。その女の子は俯きながら
「今日からこの学校に転校してきました。」
言ったとらしい。
ソラは元気で明るくていかにも陽キャな雰囲気を纏っている。友達も多いし朝は五、六人で登校してる。そのグループに話しかけられたら、僕なら逃げる。でも、俯いてでも答えるその子はきっと強いんだと思った。

あれから数十分が経ってもクラスからその子の話題が消え去ることはなかった。
ガラガラと、頭に直接響くような音でドアを開け担任の平野先生が入ってきた。
後ろには俯きがちで、スカートは周りの子のように短くなく、黒いロングを下にだらしなく垂らした例の子がいた。とびっきりの美女とは思えない容姿だった。

平野先生が黒板に夏葵  涼和耀と縦に大きく書いた。その子の容姿よりも先に名前のインパクトにクラスは騒然とした。

ざわざわとしたクラスメイトの声に被せるように聞こえるか聞こえないかぐらいの声で遠慮がちに話し始めた。
「あおい すわんです。隣の空の丘高校から転校してきました。よろしくお願いします。」
驚きすぎて声が出なかった。たった3文の自己紹介で驚くべきことが二つある。
まず、名前だ。今までに読めた人はいたのだろうか。そもそも、涼和耀とい名前の人間がいることすら誰も予想しなかっただろう。この世にキラキラネームというものが存在するものの、その限度を越し過ぎでは無いだろうか。
そして二つ目、空の丘高校から転校してきたというところだ。この、桜川高校は、トップレベルに偏差値が低い底辺高校だ。それに比べて空の丘高校はここら辺じゃトップレベルの偏差値を掲げ校風・校則など色んな面において人気が高く、倍率も高い。ここよりも何百倍も楽しい学校なはずだ。そんな子がなぜ。と思ってしまう。

あまりにも個性的でインパクトが強い子だったせいでクラスのほとんどが隣の子と話始め、もう先生の言葉など通りもしなかった。早く学活を進めたい平野先生は初めて僕が聞く音量で、
「静かに。夏葵さんの席は1番後ろの窓のところね。おい、渡辺。まだ教科書が届いていないようだから見せてやれ。」
「え、あ、はい。」
1番後ろの窓のところ。つまり僕の隣の席であった。
僕は正直見せるのが嫌だった。おそらくとんでもなく可愛い転校生が来たという話題は学校中に広まっている事だろう。そんな子の隣に座る人が僕なんて知られたら。考えるだけでソワソワする。
でも、教科書がないんだからしょうがない。会話は最低限に絞ろうと心に決めた。
すると、コツコツと上靴を小さく鳴らしながら教室の後ろをめざして彼女が歩き出した。1歩歩くだけでクラスに騒がれる。この子はこの子できっと辛い思いをする。
期待通りの顔じゃないだとか、性格が合わないだとか好き勝手に言われるだろう。転校生というだけで周りの期待値は大幅に上がる。だからこそ、みんなの期待とは外れたものを持ち寄れば直ぐに笑いものにされ集中的に辛い思いをさせられる。転校生は避けられない道だ。転校生は転校生なりに辛いものがあるんだろうなと思う。
彼女は自分の机の横にカバンをかけ椅子を引いた。髪が垂れていてよく見えなかったが窓からの風で髪が揺れその隙間から見えた彼女の顔は言葉では表せないくらいに美しかった。でも、儚くて悲しみが混じっていたようにも見えた。

クラスから話し声は消えず先生は諦めて適当に学活をし、もう授業の準備のために教室を出ていった。あと五分くらいで1時限目が始まる。僕はどうしても聞きたかった。だから今日の五分だけ。自分から話しかけていいことにしようと思った。自分から話しかけないとさっき心に決めたのに我ながら自分に甘いなと思う。そして、僕は聞いた。
「なんで君は転校してきたの。」
彼女はバっと顔を上げた。話しかけられたことに驚いたのか。それともこの質問が嫌だったのか。やっぱワケありだったか。やってしまったかもしれない。彼女はあげた顔を素早くおろし、ペンケース以外何も置かれていない机を数十秒眺めた。
動かずにただ俯いていた。
僕は、彼女を虐めたように見られる気がした。周りから見れば、僕が話しかけると彼女は下を向いて止まった。というふうに見える。もしかしたら泣いているようにも見えるかもしれない。クラスから嫌なみ意味で注目を浴びたくなくて質問を取り消そうとした。
「ごめんやっぱ、なんで「暗くて辛くて苦しくて逃げてきた。」
「え?」
「暗くて辛くて苦しくて逃げてきた。自分が生きてるこの世界も学校も全部が全部真っ暗で苦しかった。だから逃げてきた」
彼女は透き通った声で僕を見つめそう言った。僕は聞いてはいけないことを聞いてしまったのかもしれない。
「ごめん、変な事聞いて」
これ以降返答はなかった。いや、むしろ返答しないで欲しかった。自分を責めても責めきれない。なんで聞いてしまったんだろう。なんでもっと早く取り消さなかったのだろう。後悔だけが心にべっとり残ってしまった。
たった三分の出来事だったがほとんど記憶が無い。正しくは聞かなかったことにしたかったんだと思う。このことに関して今後何も触れずただのクラスメイトとして生活したかった。
覚えていることは

「暗くて辛くて苦しくて逃げてきた」
僕に言った彼女の瞳は枯れ果てた花のようだったということだけだった。
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