実話怪談「鳴いた猫」

赤鈴

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 Kさんは運動不足解消のため、最近スポーツバイクを購入した。休みの日の夕方から夜にかけて、往復で20Kmから25Kmほどの距離を2時間弱かけて走る。
橙色だいだいいろに焼けた夕空を背景に、風を切って走るのは実に気持ちの良いものだった。帰る頃にはいつも夜のとばりが下りている。





 宝石のように散りばめられた星々が小さく輝き、下弦の月が煌々こうこうと輝く晩のこと――。

その日も帰路に就く頃にはすでに日は落ち、空は夜暗よあんに染まっていた。赤いフレームのスポーツバイクが大通りを颯爽さっそうと駆け抜ける。寒風が容赦なく吹き付け、Kさんを真冬の洗礼が襲う。首元の黒のネックウォーマーのおかげで幾分か寒さは抑えられているが、それでもまだ寒い。ハンドル部分に取り付けられたライトが心許ない光で路側帯の少し先を照らし、後ろから来た車が何台も追い越していく。
 ゆるい坂道が続く。走り通しだったこともあって疲労の色が濃い。Kさんは休憩場所を探していた。
ふと、ある場所のことが脳裏に浮かぶ。それは、S山のことだった。

――そういえば、ここから近かったな

そこは山のなかに墓地や寺社がいくつも点在し、教会に納骨堂、ふもとには火葬場まである山のことだった。亡くなったペットの供養も行っている。その広さは訪れた者を迷わせる。
場所が場所ということもあって怪異な噂も絶えず、地元の者の間では有名な心霊スポットの一つとなっている。地元の人間であれば余程のことがない限り、夜にそこへ近づく者はいない。

時折、肝だめしに訪れる物好きな者たちを除いては――。

 Kさんもその一人になろうとしていた。
Kさんは子供の時分から怪談奇談といったその手の話が好きで、それは、真夜中の街灯もない暗い夜道で一人歩きながら、流行りの音楽の変わりに怪談を聞くほどであった。
心霊スポットへ行くのも今回が初めてではなく、以前にも二度ほど行ったことがあった、という。要するに、根っからの怪異好きなのだ。
だからといって、霊の姿が見えるだとか、目に見えない何者かの声が聞こえるだとか、いわゆる"霊感"と呼ばれるようなものは微塵もない、はずだった。

怪異なことが起こることを心のどこかで期待し、その一端に触れようと手を伸ばす。
それは"興味本位"といってしまえば、それまでのことだった。彼らにとってそれは"肝だめし"という名目で行う、遊びの延長のようなものであり、遊園地のアトラクションのような感覚なのだ。
それが危険な行為であり、ましてや生命に関わるという認識はこの時、彼のなかにもまだなかった。
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