グレーゾーンGray Zone

佐武ろく

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「一色 神速・T・スカリ』

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 スカリと目が合うと、細身は隣へ手に持っていたバットを投げ渡した。それを受け取った大柄が二つを交差させると、それぞれのバットからは無数の棘が生え凶暴さが増加。その隣では武器を手放した細身が両手を構え次の瞬間、両手ではアイスピックのように尖鋭な爪が伸びた。

「コントラクターね」

 その言葉へ応えるように大柄が地を蹴り飛ばし一気にスカリの眼前へ。既に二本のバットを振り上げた状態の大柄はそのまま力任せに振り下ろす。
 だが軽く退きそれを躱したスカリ。そんな彼女を更に追い三連四連と大柄はバットを振り、それをスカリは更に躱し続ける。その最中、スカリは片手の銃を自分の横方向へ向け二発。銃弾は回り込もうとしていた細身を牽制するが、両手の爪はそれを弾き防ぐ。
 一方でその行動に一手分の先手を取ったバットは頭部へ狙いを定め横一閃。スカリは一歩退き髪を掠めながら躱した。
 しかしそんな彼女に天へ突き上げられたもう一本が無慈悲に振り下ろされた。大柄は既に笑みを浮かべ、スカリは刀を眼前へ。激しい金属音が鳴り響く頃には大柄の表情は一変していた。一驚に喫する大柄とスカリの間で鍔迫り合いをする刀とバット。

「折れないだと……」
「特別製なの」

 そう言ってスカリが力を込めると刃はバットへ斬り込み始めた。だがすぐさま大柄は大きく退きそれ以上を拒んだ。
 直後、大柄と入れ替わり上空から細身が構えた両手で攻撃を仕掛ける。それを刀で受け止めると、大柄が再度飛び込み瞬く間に二対一の戦闘が始まった。絶え間なく襲い掛かる攻撃の嵐を軽快な足取りと刀一本で受け切るスカリ。出したり消したりと銃を自由自在に明滅させながらアクロバットな動きで同時に翻弄する彼女はまるで踊っているようだった。

「アニキなんて呼ばれてたけど」

 背後から振り下ろされた爪を瞬時に振り返り手首を掴み受け止めると、透かさず横顔へ向け刀を振るう。だがもう片方の爪でそれは阻まれた。鍔迫り合いをする暇も無く横槍のバットを躱しスカリは数歩分後ろへ。

「あんた達の方が実力はあるじゃん。アニキ越えおめでとう」
「お前が不意打ちなんて汚い手を使わなきゃ」
「トシのアニキをバカにすんじゃね!」
「あれを不意打ちだなんて……。まぁでも、いつでも文句垂れるのは負け犬って知らない? いや、文句言えるだけでマシか。今の内に言わないと言えなくなるからね」

 挑発的な笑みを浮かべると大柄と細身は同時にスカリへ向かっていく。それから先程よりも激しく、だがスカリはこれまでと変わらずの戦いは続いた。
 そしてそれは大柄が大きく退いた時。陰から大柄を足場に細身は空へ跳ぶとスカリを飛び越え背後へと回り込んだ。細身が着地するのと同時に二人は挟撃を開始。スカリは刀を上空へ投げ捨てると両手に銃を出し大柄へ連射。それをバットで弾を防ぎながら前進する大柄だったが、スカリは片方で狙い続けては弾かせ、もう片方の銃口を僅かに下げた。
 そして一人遅延の銃声が響くと大柄の片膝は鮮血を吐き出した。突然バランスの崩れた大柄だったが転ばず何とか立ち止まり、その場でバットを杖代わりに何とか立っている様子。直後、もう片方の膝も撃ち抜かれ大柄は完全に膝立ちとなった。全て計算した結果なのか大柄とスカリの距離は数センチほど。
 だがスカリは相手が膝立ちになるのを待たず撃ち抜いた直後、引き金の人差し指を中心に銃を回しトンファ―のように構える。そして銃口を背後へ向けると大柄の対処をしている間に距離を縮めていた細身へ銃声を響かせた。
 細身はほぼ同時に片手を振り爪で銃弾を弾き飛ばすが、二の腕からは朱殷色の泪が流れ出す。スカリは一方だけを腕で角度を調節し二丁で片方を狙っていた。

「くっ……」

 そして成果を漏れる声だけで確認すると、スカリは大柄の顔面を突き上げようと片足を振り上げた。一方で大柄はそれを迎え撃とうとバットを構える。
 しかし棘と金属へ自ら飛び込んでいく生身の足だったが、大柄の思惑を見透かしたように直前で止まった。そして入れ替わるように上空からは刀が。落雷を真似ねるように回転しながら振って来た刀は完璧な一刀で大柄の片腕を斬った。ほんの少しの突っかかりも無く気持ち良い程スパっと胴体から切り離された腕はバットごと地面へ落ち、鮮血の滝が雨をも濡らした。

「クソっ!」

 そしてスカリはそのガラ空きになった片側から悠々と大柄の横顔を蹴飛ばした。
 そのまま流れる動きで刀を拾い上げ振り返ったスカリは、怯まず片手でも攻撃を止めない細身の一撃を弾き返す。更にその流れに乗りながら刀を逆手持ちにすると、片足を軸に身を回転させながら体を上下に斬り分けた。それだけでは終わらずそれに加え勢いそのまま振り返ったスカリは大柄へ刀を投げ飛ばす。
 地面を転がり起き上がった途端、刀が自身へ向かってきているという状況に考える暇すらない大柄はバットを振った。力の籠ってない刀はいとも簡単に弾かれたが、その向こう側でスカリは銃を構えていた。
 銃声が響き、銃弾は肩へと命中。もう片方にも銃を出したスカリは左右の引き金を交互に引き絶え間なく音を響かせる。銃声に合わせ一つまた一つと大柄の体は吉川の前に出たスカリを再現していた。
 それから計十数発分が鳴り響き彼女が手を止めると、辺りには久しさすら感じる雨だけの音が広がった。スカリは両手から銃を消すと、周囲を見回す。雨と血と最早冷たさすら感じない七人の裏打組。
 そして転がる体の中、相変わらずその身を抱き寄せ俯く吉川の姿。
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