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「神聖な口でタバコなんて吸っていいんですか?」
「別にいいだろ。その時、ちゃんとしてれば。ほら、アイドルだってちゃんと客前でそのキャラを演じて守ってれば別に裏でタバコ吸おーが暴言吐こうが関係ないっしょ? それとおんなじ」
「同じなんですかね? それって」
「まーそんな事は気にしなさんなって。それよりあんたこんな昼間になにしてんの? もしかしてクビになった?」
「違っ! そんな訳ないじゃないですか」
こんなに働いているのにクビにされたらたまったもんじゃない。
「ふーん。じゃあ、なんか顔も時化ってるしなんか悪い事でもあった?」
「失礼な。別に何にもないですよ。ただ――」
「ただ?」
「最近、仕事で残業ばっかしてて疲れてるだけです」
言葉として口にするだけで一緒に溜息が零れてしまう。
「げぇ。残業……。アタシが健康って言葉の次に嫌いな言葉じゃん」
彼女は露骨に嫌悪的な表情を浮かべた。
「そもそも健康って言葉があなたの中でどの位置にあるのか分からないですけど。というか健康の何が嫌なんですか?」
「健康自体はいいよ。でも健康の為とか健康に悪いからっつって好きなもんを食べられなかったり出来なくさせられるのがヤなの」
何となく想像がつくのは目の前でガバガバとタバコを吸ってるからなんだろうか。
「でもさ。そんな嫌なら断ればいいじゃん。アタシみたいに断りまくってたらそのうち、頼む労力を惜しんで頼まれなくなるから。あとはアタシはサボるぞっていうのをちゃんと見せつけてあんまり任せられないなっていうのを知らしめる」
「よくクビにならないですね。でも俺はそんなに気の強い人間じゃないんで。上司に言われたら抵抗出来ないんですよね」
そんな自分へ溜息が零れる。情けない。
するとそんな俺へ彼女が何かを差し出した。その視界の端に見えていた彼女の行動を俺はちゃんと中心に据える。彼女の手には、まるでダンスに誘うようにタバコが一本飛び出した箱が握られていた。その気持ちはありがたいのだが――。
「いや、俺。吸わないので。でもありがとうございます」
すると天使はタバコを仕舞い手招きをした。僕は小首を傾げながらもしゃがみ彼女に近づく。
「じゃあアタシが愚痴きーてやるからさ。遠慮なく不満をぶちまけなって」
「でもそんな――」
俺の言葉を遮るように天使は肩へ(少し強めで)手を乗せた。
「そしたらアタシも報告書に人間を導いてたって書けるし、思う存分サボれるから」
それは陽光を反射する水面のように煌々とし、活力に満ち溢れた笑顔だった。
「あ、ありがとうございます」
そんな笑顔に圧されるように俺は乾いた笑みを浮かべた。
「あっ、ちゃんと守秘義務は守るから。安心して愚痴っていーよ」
「別にいいだろ。その時、ちゃんとしてれば。ほら、アイドルだってちゃんと客前でそのキャラを演じて守ってれば別に裏でタバコ吸おーが暴言吐こうが関係ないっしょ? それとおんなじ」
「同じなんですかね? それって」
「まーそんな事は気にしなさんなって。それよりあんたこんな昼間になにしてんの? もしかしてクビになった?」
「違っ! そんな訳ないじゃないですか」
こんなに働いているのにクビにされたらたまったもんじゃない。
「ふーん。じゃあ、なんか顔も時化ってるしなんか悪い事でもあった?」
「失礼な。別に何にもないですよ。ただ――」
「ただ?」
「最近、仕事で残業ばっかしてて疲れてるだけです」
言葉として口にするだけで一緒に溜息が零れてしまう。
「げぇ。残業……。アタシが健康って言葉の次に嫌いな言葉じゃん」
彼女は露骨に嫌悪的な表情を浮かべた。
「そもそも健康って言葉があなたの中でどの位置にあるのか分からないですけど。というか健康の何が嫌なんですか?」
「健康自体はいいよ。でも健康の為とか健康に悪いからっつって好きなもんを食べられなかったり出来なくさせられるのがヤなの」
何となく想像がつくのは目の前でガバガバとタバコを吸ってるからなんだろうか。
「でもさ。そんな嫌なら断ればいいじゃん。アタシみたいに断りまくってたらそのうち、頼む労力を惜しんで頼まれなくなるから。あとはアタシはサボるぞっていうのをちゃんと見せつけてあんまり任せられないなっていうのを知らしめる」
「よくクビにならないですね。でも俺はそんなに気の強い人間じゃないんで。上司に言われたら抵抗出来ないんですよね」
そんな自分へ溜息が零れる。情けない。
するとそんな俺へ彼女が何かを差し出した。その視界の端に見えていた彼女の行動を俺はちゃんと中心に据える。彼女の手には、まるでダンスに誘うようにタバコが一本飛び出した箱が握られていた。その気持ちはありがたいのだが――。
「いや、俺。吸わないので。でもありがとうございます」
すると天使はタバコを仕舞い手招きをした。僕は小首を傾げながらもしゃがみ彼女に近づく。
「じゃあアタシが愚痴きーてやるからさ。遠慮なく不満をぶちまけなって」
「でもそんな――」
俺の言葉を遮るように天使は肩へ(少し強めで)手を乗せた。
「そしたらアタシも報告書に人間を導いてたって書けるし、思う存分サボれるから」
それは陽光を反射する水面のように煌々とし、活力に満ち溢れた笑顔だった。
「あ、ありがとうございます」
そんな笑顔に圧されるように俺は乾いた笑みを浮かべた。
「あっ、ちゃんと守秘義務は守るから。安心して愚痴っていーよ」
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