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空を覆うドス黒く分厚い黯雲。繰り返し鳴り響き、雲を駆け巡る怒りの権化のような轟音と稲光。そしてそれらを背景とし堂々たる面持ちで聳え立つ魔王城。
その魔王の間――王座にはこの世界を我が物にせんと企む魔王ヌバラディール・ペペが頬杖を突きながら深く腰掛けていた。恐怖の化身のようなその姿は禍々しく魔王という名に恥じぬ程に恐ろしい。
そんなぺぺの前へ慌てた様子の手下魔族が跪く。
「ヌバラディール様! 大変でございます!」
背に付けたマントと二本の角、片眼鏡の知的な魔族は顔を下げたままやはり慌てた少し大き目の声をを出した。
「どうした?」
だがそんな魔族に対してぺぺの地を揺らすような声に心の乱れは無く、悠々としている。
そしてゆっくりと顔を上げた魔族は言いずらそうに報告を続けた。
「実は勇者のことなのですが……」
「ついにやってきたか」
既に勝利を確信した笑みを浮かべ、小さく笑うペペに見えている結末はたった一つだった。
「いえ、勇者一行は現在バルラッド王国にいます」
「近いな。ならばここへ来るのも時間の問題か」
勇者はこの世界最後の希望。その勇者を倒すということは、もはや世界を征服したと言っても過言ではない。
そしてその時がすぐそこまで近づいていることに、ペペは不気味な笑みを浮かべた。
だが、魔族はそんなペペが予想だにしないような言葉を続けた。
「……恐らく勇者はここへは来ないかと」
先までの笑みは一瞬にして消え去り、ペペは眉を顰めた。
「どういう意味だ?」
「勇者はバルラッド王国を征服してはその名をクラガン帝国とし、そこを拠点に周辺国も次々と制圧しては着実に勢力を拡大させております」
「――#%&¥!?」
余りに予想外の事を言われたぺぺは、思わず身を乗り出し自分でも訳分からない言葉を発してしまった。
だがすぐさま乱れた心を落ち着け、魔王としての自分に戻る。
「んんっ! ――ということは勇者は我輩を倒そうとしていないということだな?」
「はい。自分の帝国を築き、それを拡大させています。それも有無を言わさぬ実力行使で。このままだと恐らく先に勇者がこの世界を取るかと」
しかし今度のペペは依然と落ち着き払いそれを鼻で笑い飛ばした。
「ふっ、丁度いい。その後で勇者を潰しまとめて征服してやればいいだけの話。元より人間など一人残らず敵だ」
「……。実はそれだけではありません」
「どうした?」
魔族は少し言いずらそうな表情を浮かべるが、ペペを待たせては悪いと思ったのかすぐに口を開いた。
「極悪非道な行動を何の躊躇いもなく行う勇者の姿に、魔族を含め魔王軍の全てが寝返りました」
「――#%&¥!? えっ? えっ? なんて? 今なんて言った?」
謎言語の再来は意外にもすぐだった。しかも先程までの貫禄ある声から一変し、動揺丸出しな高め声なってしまうペペ。
「ヌバラディール様の手下はもう残っておりません」
「え? 一人も? えっ――ちょっと待って……。ちょっと待って。一旦、頭整理するから」
そう言うとペペはまず気持ちを落ち着かせる為に深呼吸を繰り返す。
そして冷静を取り戻したペペだったが、それ故ある言葉に引っかかりを感じた。
「もう残ってないとはどういう意味だ?」
「言葉通りでございます」
すると魔族は立ち上がった。
「もうあなた様の手下は誰一人として残っていません」
「誰一人……。まさか! ベルゼール、貴様もか……?」
その言葉にマントを翻し、払うように手を出すベルゼール。
「僭越ながら魔王ヌバラディール・ペペ様。ただ今を持ちまして私《わたくし》、ベルゼール・ブルブはあなた様の手下を止め、勇者クラガン・ズィール様にお仕えいたします」
これで最後と言うようにベルゼールは深く頭を下げた。
一方でその姿を見つめながら言葉を失うペペ。
「フゥ。これで晴れてクラガン様にお仕えできる」
顔を上げたベルゼールは清々しい表情でそう呟き、ペペは未だ唖然としていた。
「最後だから言うが、正直あんたの手下はつまらなかったぜ。じゃあなぺぺ」
ベルゼールは最後にその言葉を残すとくるり振り返り、真っすぐ魔王の間を出て行った。その何の未練も無いと語る後姿を、ペペは王座に座りながら視界に映るただの映像の一部として見送る。
静まり返った魔王の間。そこに一人ぽつりと残されたぺぺ。その姿は事情を知る者からすれば哀愁漂うものだった。
そしてドアが閉まる音が寂しく響き暫くしてからペペは我に返った。
「あれ? ――あっ、そっか……」
その小さな声は静かな魔王の間へあっという間に呑み込まれ消えてゆく。それはいつもと変わらぬ静寂のはずだが――やはり空虚で切ない。
そしてまだ混乱の渦に巻き込まれてた頭と心をそのままに、王座から立ち上がったペペはドアへ向けレッドカーペットを歩き始める。その背中は魔王とは思えぬ程に小さく哀愁の漂う姿だった。
それから魔王の間を出るとその足で魔王城内を歩いて回り、まだ信じ切れていないベルゼールの言葉を確かめる。心ではあれは嘘で城内にはいつも通り手下の魔族や魔物達がいることを願っていたが、ベルゼールの言葉には嘘偽りはなく――魔王城には魔物一匹いなかった。
ペペの足音だけが響く城内の静けさは不気味というよりは少し前まであったお店がいつの間にか無くなっているようなそんな寂しさがあり、とてもこの世界を征服しようとしている魔王の城とは思えぬもの。
そんな誰も居ない城内を一通り歩いたペペはそのまま自室へ。ドアを雑に開けると真っすぐベッドに行き、腰を下ろして流れるように頭を抱える。
「どゆこと? えっ? 魔王が手下に裏切られるなんて事ある? 聞いたことないんだけど?」
未だに嘘か夢である可能性をどこか捨て切れないぺぺ。
「しかも勇者の極悪非道さってなに!? 勇者って極悪非道とは対極にいるタイプでしょ。しかも国盗りって……。勇者なんだからみんな協力するでしょ。征服する必要なくない?」
考えれば考える程、思考は混乱の沼へと呑み込まれていった。
「はぁー。――とりあえずその勇者とやらを見に行ってみるか」
大きな溜息を一つ零すと、イメージとはかけ離れたその勇者を一目見てみようと立ち上がるペペ。
すると彼の足元には黒紫色の魔力で作られた円が現れた。周りが光り中心に向け薄く渦を巻いていたそれは出現後にペペを包み込む光を放つ。
その魔王の間――王座にはこの世界を我が物にせんと企む魔王ヌバラディール・ペペが頬杖を突きながら深く腰掛けていた。恐怖の化身のようなその姿は禍々しく魔王という名に恥じぬ程に恐ろしい。
そんなぺぺの前へ慌てた様子の手下魔族が跪く。
「ヌバラディール様! 大変でございます!」
背に付けたマントと二本の角、片眼鏡の知的な魔族は顔を下げたままやはり慌てた少し大き目の声をを出した。
「どうした?」
だがそんな魔族に対してぺぺの地を揺らすような声に心の乱れは無く、悠々としている。
そしてゆっくりと顔を上げた魔族は言いずらそうに報告を続けた。
「実は勇者のことなのですが……」
「ついにやってきたか」
既に勝利を確信した笑みを浮かべ、小さく笑うペペに見えている結末はたった一つだった。
「いえ、勇者一行は現在バルラッド王国にいます」
「近いな。ならばここへ来るのも時間の問題か」
勇者はこの世界最後の希望。その勇者を倒すということは、もはや世界を征服したと言っても過言ではない。
そしてその時がすぐそこまで近づいていることに、ペペは不気味な笑みを浮かべた。
だが、魔族はそんなペペが予想だにしないような言葉を続けた。
「……恐らく勇者はここへは来ないかと」
先までの笑みは一瞬にして消え去り、ペペは眉を顰めた。
「どういう意味だ?」
「勇者はバルラッド王国を征服してはその名をクラガン帝国とし、そこを拠点に周辺国も次々と制圧しては着実に勢力を拡大させております」
「――#%&¥!?」
余りに予想外の事を言われたぺぺは、思わず身を乗り出し自分でも訳分からない言葉を発してしまった。
だがすぐさま乱れた心を落ち着け、魔王としての自分に戻る。
「んんっ! ――ということは勇者は我輩を倒そうとしていないということだな?」
「はい。自分の帝国を築き、それを拡大させています。それも有無を言わさぬ実力行使で。このままだと恐らく先に勇者がこの世界を取るかと」
しかし今度のペペは依然と落ち着き払いそれを鼻で笑い飛ばした。
「ふっ、丁度いい。その後で勇者を潰しまとめて征服してやればいいだけの話。元より人間など一人残らず敵だ」
「……。実はそれだけではありません」
「どうした?」
魔族は少し言いずらそうな表情を浮かべるが、ペペを待たせては悪いと思ったのかすぐに口を開いた。
「極悪非道な行動を何の躊躇いもなく行う勇者の姿に、魔族を含め魔王軍の全てが寝返りました」
「――#%&¥!? えっ? えっ? なんて? 今なんて言った?」
謎言語の再来は意外にもすぐだった。しかも先程までの貫禄ある声から一変し、動揺丸出しな高め声なってしまうペペ。
「ヌバラディール様の手下はもう残っておりません」
「え? 一人も? えっ――ちょっと待って……。ちょっと待って。一旦、頭整理するから」
そう言うとペペはまず気持ちを落ち着かせる為に深呼吸を繰り返す。
そして冷静を取り戻したペペだったが、それ故ある言葉に引っかかりを感じた。
「もう残ってないとはどういう意味だ?」
「言葉通りでございます」
すると魔族は立ち上がった。
「もうあなた様の手下は誰一人として残っていません」
「誰一人……。まさか! ベルゼール、貴様もか……?」
その言葉にマントを翻し、払うように手を出すベルゼール。
「僭越ながら魔王ヌバラディール・ペペ様。ただ今を持ちまして私《わたくし》、ベルゼール・ブルブはあなた様の手下を止め、勇者クラガン・ズィール様にお仕えいたします」
これで最後と言うようにベルゼールは深く頭を下げた。
一方でその姿を見つめながら言葉を失うペペ。
「フゥ。これで晴れてクラガン様にお仕えできる」
顔を上げたベルゼールは清々しい表情でそう呟き、ペペは未だ唖然としていた。
「最後だから言うが、正直あんたの手下はつまらなかったぜ。じゃあなぺぺ」
ベルゼールは最後にその言葉を残すとくるり振り返り、真っすぐ魔王の間を出て行った。その何の未練も無いと語る後姿を、ペペは王座に座りながら視界に映るただの映像の一部として見送る。
静まり返った魔王の間。そこに一人ぽつりと残されたぺぺ。その姿は事情を知る者からすれば哀愁漂うものだった。
そしてドアが閉まる音が寂しく響き暫くしてからペペは我に返った。
「あれ? ――あっ、そっか……」
その小さな声は静かな魔王の間へあっという間に呑み込まれ消えてゆく。それはいつもと変わらぬ静寂のはずだが――やはり空虚で切ない。
そしてまだ混乱の渦に巻き込まれてた頭と心をそのままに、王座から立ち上がったペペはドアへ向けレッドカーペットを歩き始める。その背中は魔王とは思えぬ程に小さく哀愁の漂う姿だった。
それから魔王の間を出るとその足で魔王城内を歩いて回り、まだ信じ切れていないベルゼールの言葉を確かめる。心ではあれは嘘で城内にはいつも通り手下の魔族や魔物達がいることを願っていたが、ベルゼールの言葉には嘘偽りはなく――魔王城には魔物一匹いなかった。
ペペの足音だけが響く城内の静けさは不気味というよりは少し前まであったお店がいつの間にか無くなっているようなそんな寂しさがあり、とてもこの世界を征服しようとしている魔王の城とは思えぬもの。
そんな誰も居ない城内を一通り歩いたペペはそのまま自室へ。ドアを雑に開けると真っすぐベッドに行き、腰を下ろして流れるように頭を抱える。
「どゆこと? えっ? 魔王が手下に裏切られるなんて事ある? 聞いたことないんだけど?」
未だに嘘か夢である可能性をどこか捨て切れないぺぺ。
「しかも勇者の極悪非道さってなに!? 勇者って極悪非道とは対極にいるタイプでしょ。しかも国盗りって……。勇者なんだからみんな協力するでしょ。征服する必要なくない?」
考えれば考える程、思考は混乱の沼へと呑み込まれていった。
「はぁー。――とりあえずその勇者とやらを見に行ってみるか」
大きな溜息を一つ零すと、イメージとはかけ離れたその勇者を一目見てみようと立ち上がるペペ。
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