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そこはクラガン帝国、王の間。
その豪華な王座に腰掛けていたのは一国の王にしては若き青年だった。だがその表情は周りの不安を跳ね除ける程の自信に満ち溢れていた。鋭くだがそれでいて余裕を含んだ双眸は眼前を見下ろし、王座に片足を乗せたその姿は太々しさすら感じる。
そんな彼は体に一本の剣を凭れさせていた。その剣は、神々しく正義を感じさせる見た目をしており素人目ですら普通の剣とは異なるのは明らか。
そして彼の周りにはセクシーな踊り子の衣装の女性が複数集まっており、椅子横や肘置きに座っている女性は飲み物や果物の乗ったトレイを手に持ってた。その中の肘置きに座る女性の太腿には青年の手が撫でるように乗せられていた。
その他には全身に鎧を纏った兵士が数人と王座の前にひれ伏すみすぼらしい格好の男性。老人という程ではないが年配の男性は床へ額が着く程に頭を下げている。
するとそんな男性と王座の青年の間に突然、黒紫の光が柱のように伸びた。かと思えばその光は消え、中から腕を組むペペが姿を現した。
だがペペの姿は少し薄くそれが実態ではないということは明らか。
「あ? 誰だてめぇ?」
一瞬にして苛立ちの表情を浮かべた青年は今にも襲い掛かりそうな眼光でペペを睨み付けた。
「(うわっ! こわっ! 何なんこいつ……。出てきて数秒でもうガンつけてきてるじゃん)」
動揺する内心とは裏腹に平然を装っていたペペは余裕の表れのようにその眼光を見返す。傍から見れば沈黙の中、睨み合う二人。既に見えないやり合いが始まっているようだった。
しかし実際はただペペが内心で色々な事を考えているだけ。
「(こいつ本当に勇者? 目が、目がもう殺る奴の目なんだけど……。僕の知ってる勇者はもっと優しくて希望と勇気に満ち溢れている目をしてるんだけど? なのにこいつのはどの魔族よりヤバい目なんよなぁ)」
すると青年は鼻で笑いながら表情へ余裕に満ち溢れた笑みを浮かべた。ペペがもはや引いているとは知らずに。
「中々いい目してるじゃねーか」
「貴様が勇者か?」
「あぁそうだ。コイツが見えねーのか?」
青年はそう言うと自分に凭れさせていた剣を抜いた。それは一切穢れの無い希望に満ちた剣――聖剣だった。
「(やっぱ本物じゃん。こいつが勇者クラガン・ズィールじゃん。えぇー。普通こんなの選ぶ? あの聖剣、人を見る目なさすぎでしょ。僕でももうちょい良い人選べるよ? 何を思ってこんなの勇者にしようとしたんだよ。ランダムなん? クジとか気分で適当に選んでるん?)」
だがそんなことを内心で考えていることなど一切悟られない程に表情から立ち振る舞いに至るまで彼は魔王として完璧だった。
「この俺様が勇者クラガン・ズィール様だ」
「(しかも自分に様付けるタイプだ。僕でも自分には様付けないのに。百歩譲って一人称に付けるのは分かるけど自分の名前にもって……)」
「そういうお前は……」
「如何にも。我輩こそがこの世界の王となる魔王ヌバラディール・ペペだ」
ペペは自分の事を知らないと言われることを恐れ、そう食い気味に名乗った。自信と悪意に満ちた聞く者の希望を奪い恐怖に陥れるような声と口調で。それは自分でも完璧だと思える程の出来だったが、王の間にはスベったような沈黙が流れる。
「あぁ……魔王様! どうか早くこの世界を征服して下さい」
するとその沈黙を破り後ろで蹲るように小さくなっていたみすぼらしい格好の男性が、ペペへ縋るように近づいてきた。
そして両膝は付けたまま神へ祈るように両手を組む。
「この国をあの者に奪われてからは民は奴隷のように扱われております。どうか世界を征服し私達を解放してください」
「(えぇ~。何この展開。僕、魔王ぞ? 普通は倒すべき存在ぞ? その僕に世界を征服してくださいって……)」
「おいおい。この俺様に文句あんのか? はい、お前死刑な。連れてけ」
クラガンの払う手と言葉で二人の兵士はその男性を引きずるように王の間から連れ出した。
「もうこの国は俺様のモノ。元国王とかいらねーんだわ」
死刑宣告ですら適当でしかも笑みを浮かべるクラガンは傍の踊り子から果物をひとつ食べさせてもらうとペペの方へ視線を戻した。
「で? 結局お前は何しに来たわけ?」
「貴様は勇者なのだろ? 本来なら我輩を倒し世界を救うのが目的のはず。それが……。何をしてる?」
「何って……」
今にも笑い出しそうなクラガンは、軽く両手を広げて見せた。
「この世界を俺様のモンにしようとしてんだよ。美味いもん食いまくって気に入ったのは俺様の女にして、気に入らねーやつは殺すし適当に遊んで暮らす。それが俺様の目的だ」
「(いや、発想が魔王やん! 魔王の僕が言うのもあれだけど……自分さえ良ければ全て良しっていう習ったのと同じ魔王の発想なんよ)」
「そういやお前も世界征服を狙ってるって話だったな。――どうだ? 俺様と世界を盗らねーか? 何なら右腕でもなんでも地位はくれてやるぜ?」
「(勇者に世界征服の誘いを受けるって多分、魔王史上初でしょ)我輩が貴様と……。フッ、断る」
「そうか。なささっさと消えろ。俺様は忙しいんだ」
どうでもいいと言わんばかりのあっさりとした返しをしたクラガンは踊り子の方を向きまた果物をひとつ食べさせてもらう。その姿にペペは言いかけた言葉を喉で止めるとそのまま姿を消した。
その豪華な王座に腰掛けていたのは一国の王にしては若き青年だった。だがその表情は周りの不安を跳ね除ける程の自信に満ち溢れていた。鋭くだがそれでいて余裕を含んだ双眸は眼前を見下ろし、王座に片足を乗せたその姿は太々しさすら感じる。
そんな彼は体に一本の剣を凭れさせていた。その剣は、神々しく正義を感じさせる見た目をしており素人目ですら普通の剣とは異なるのは明らか。
そして彼の周りにはセクシーな踊り子の衣装の女性が複数集まっており、椅子横や肘置きに座っている女性は飲み物や果物の乗ったトレイを手に持ってた。その中の肘置きに座る女性の太腿には青年の手が撫でるように乗せられていた。
その他には全身に鎧を纏った兵士が数人と王座の前にひれ伏すみすぼらしい格好の男性。老人という程ではないが年配の男性は床へ額が着く程に頭を下げている。
するとそんな男性と王座の青年の間に突然、黒紫の光が柱のように伸びた。かと思えばその光は消え、中から腕を組むペペが姿を現した。
だがペペの姿は少し薄くそれが実態ではないということは明らか。
「あ? 誰だてめぇ?」
一瞬にして苛立ちの表情を浮かべた青年は今にも襲い掛かりそうな眼光でペペを睨み付けた。
「(うわっ! こわっ! 何なんこいつ……。出てきて数秒でもうガンつけてきてるじゃん)」
動揺する内心とは裏腹に平然を装っていたペペは余裕の表れのようにその眼光を見返す。傍から見れば沈黙の中、睨み合う二人。既に見えないやり合いが始まっているようだった。
しかし実際はただペペが内心で色々な事を考えているだけ。
「(こいつ本当に勇者? 目が、目がもう殺る奴の目なんだけど……。僕の知ってる勇者はもっと優しくて希望と勇気に満ち溢れている目をしてるんだけど? なのにこいつのはどの魔族よりヤバい目なんよなぁ)」
すると青年は鼻で笑いながら表情へ余裕に満ち溢れた笑みを浮かべた。ペペがもはや引いているとは知らずに。
「中々いい目してるじゃねーか」
「貴様が勇者か?」
「あぁそうだ。コイツが見えねーのか?」
青年はそう言うと自分に凭れさせていた剣を抜いた。それは一切穢れの無い希望に満ちた剣――聖剣だった。
「(やっぱ本物じゃん。こいつが勇者クラガン・ズィールじゃん。えぇー。普通こんなの選ぶ? あの聖剣、人を見る目なさすぎでしょ。僕でももうちょい良い人選べるよ? 何を思ってこんなの勇者にしようとしたんだよ。ランダムなん? クジとか気分で適当に選んでるん?)」
だがそんなことを内心で考えていることなど一切悟られない程に表情から立ち振る舞いに至るまで彼は魔王として完璧だった。
「この俺様が勇者クラガン・ズィール様だ」
「(しかも自分に様付けるタイプだ。僕でも自分には様付けないのに。百歩譲って一人称に付けるのは分かるけど自分の名前にもって……)」
「そういうお前は……」
「如何にも。我輩こそがこの世界の王となる魔王ヌバラディール・ペペだ」
ペペは自分の事を知らないと言われることを恐れ、そう食い気味に名乗った。自信と悪意に満ちた聞く者の希望を奪い恐怖に陥れるような声と口調で。それは自分でも完璧だと思える程の出来だったが、王の間にはスベったような沈黙が流れる。
「あぁ……魔王様! どうか早くこの世界を征服して下さい」
するとその沈黙を破り後ろで蹲るように小さくなっていたみすぼらしい格好の男性が、ペペへ縋るように近づいてきた。
そして両膝は付けたまま神へ祈るように両手を組む。
「この国をあの者に奪われてからは民は奴隷のように扱われております。どうか世界を征服し私達を解放してください」
「(えぇ~。何この展開。僕、魔王ぞ? 普通は倒すべき存在ぞ? その僕に世界を征服してくださいって……)」
「おいおい。この俺様に文句あんのか? はい、お前死刑な。連れてけ」
クラガンの払う手と言葉で二人の兵士はその男性を引きずるように王の間から連れ出した。
「もうこの国は俺様のモノ。元国王とかいらねーんだわ」
死刑宣告ですら適当でしかも笑みを浮かべるクラガンは傍の踊り子から果物をひとつ食べさせてもらうとペペの方へ視線を戻した。
「で? 結局お前は何しに来たわけ?」
「貴様は勇者なのだろ? 本来なら我輩を倒し世界を救うのが目的のはず。それが……。何をしてる?」
「何って……」
今にも笑い出しそうなクラガンは、軽く両手を広げて見せた。
「この世界を俺様のモンにしようとしてんだよ。美味いもん食いまくって気に入ったのは俺様の女にして、気に入らねーやつは殺すし適当に遊んで暮らす。それが俺様の目的だ」
「(いや、発想が魔王やん! 魔王の僕が言うのもあれだけど……自分さえ良ければ全て良しっていう習ったのと同じ魔王の発想なんよ)」
「そういやお前も世界征服を狙ってるって話だったな。――どうだ? 俺様と世界を盗らねーか? 何なら右腕でもなんでも地位はくれてやるぜ?」
「(勇者に世界征服の誘いを受けるって多分、魔王史上初でしょ)我輩が貴様と……。フッ、断る」
「そうか。なささっさと消えろ。俺様は忙しいんだ」
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