新米魔王の征服譚~クズ勇者から世界を救え~

佐武ろく

文字の大きさ
14 / 19

14

しおりを挟む
「上に立つ者がこの程度か。この国の騎士団とやらも脅威ではないな。命令一つで俺が攻落して見せる事すら容易いが――ペペ様に感謝する事だ」

 鞘に納められた刀に代わるような鋭い視線で見下ろすルシフェルは、抑揚の無い口調で言葉を並べた。ただ事実を述べているとでも言うように淡々と。
 するとミシェルはそんな彼への返事としてまず、地面へ拳を叩き付けた。土とぶつかり合うもその重い音はすぐさま地へと落ち、その代わりと言うように鎧の触れ合う音か辺りへと響いた。

「うっさいわね」

 その拳同様に力の籠った声と共にミシェルは緩慢と立ち上がった。

「アタシは騎士団団長、ミシェル・V・スウィングラー。この剣は――この名にも、この地位にも決して恥じない」

 先程よりも冷静だが、先程よりも燃え盛る炎を内に宿した彼女は切先をルシフェルへと向けた。

「それを証明するのはお前の剣だけだ」

 そんなミシェルに答えるようにルシフェルもまた鐺を彼女へと向けた。
 そして二人は同時に地を一蹴しては刀と剣を構え――痛烈な一撃がぶつかり合う。ここまでのどの剣より力強い一振り。
 だが鍔迫り合いを長くは続けず、ミシェルは先手を取り攻めへと転じる。より鋭く、より速く、より強く。表情こそ変化は無かったが、一撃を受け止める度に刀を通じそれを誰よりも感じていたのは他の誰もないルシフェルだった。
 そんなルシフェルは連撃に対して防戦一方で、そのさなか僅かに遅れた一文字を大きく退き躱した。
 だがそんな彼へミシェルは持ち替えた剣を矢の如く放つ。後方へ跳んだ彼を追蹤する剣はその着地とほぼ同時にその切先を突き刺さんと襲い掛かるが、正面から飛んでくるそれをルシフェルは容易に上空へと弾いた。
 しかしその剣の向こう側にミシェルの姿はない。その事に気が付くとすぐさま警戒しつつも手早く周囲を見遣るが、やはりその姿はどこにもない。
 するとルシフェルは何かを感じ取ったように上空を見上げた。
 そんな彼の視線先では弾かれた剣を空中で拾い、落雷のように一撃を振り下ろすミシェルの姿が。その斬撃をルシフェルは間一髪、滑り込ませた刀で受け止めた。微かに震えながらも動きのない刀と剣は無言の中、力の攻防を繰り広げ続ける。
 数秒の迫り合いの後、最後はルシフェルが鐺を地面へと向けては刀を傾け剣を滑らせ受け流し、激突の激しい開戦とは打って変わり静かに終わりを迎えた。
 だがミシェルの手は緩む事なくそこから更に嵐のような連撃がルシフェルを襲う。
 それをやはり表情に雲一つ浮かばせず見事に鉄壁の防御を見せるルシフェルだったが、初めに比べ足は忙しなく動き刀で受け止めるのでは間に合わず回避する回数も増えていた。
 そんな二人の戦いを見つめる二人の王。

「さて――王として決断を下して貰おうか。それともこの国の全てを賭けて吾輩に挑むか? それも面白い」

 肘掛に頬杖を突きながら尖鋭な横目をクレフトへ向けるペペ。

「まだ勝負は付いてないはずだが?」

 一方でクレフトは視線を真っすぐ二人の戦いへ向けたまま。

「結果は見えている。確かに見込みはあるが、魔力すら引き出せん。それどころか抜かせる事も叶わん。あのような小娘が束ねる刃などたかが知れてる」

 するとクレフトは嘲笑的なペペの隣で静かに笑みを浮かべた。

「確かにミシェルには少々波がある。その実力も団長として申し分ないとは言え、その席に腰掛けるには時期尚早なのは否定出来ん。今を見れば相応しい者はおる」
「まさか国王が現状の騎士団団長に不満を抱いているとはな」

 表情では面白いと微かに口元を緩ませていたが、その胸内では一驚に喫するぺぺ。

『まだ若いけどあんなに必死に頑張っていい騎士団長っぽいのに、国王にまでそんな風に思われてるなんてなんか可哀想だな』

 一人そんな事を思いながらも一切それを表に出さず、ぺぺは横目でこの国の為に剣を振るうミシェルを見遣る。
 だがクラフトは小さく首を横に振りその言葉を否定した。

「不満はない。事実を述べただけだ。それでも彼女を騎士団団長として任命した」
「もう一戦でもしたいのか? まだ本気じゃないとでも?」

 その問い掛けに緩慢と首を振ったクレフトは視線をペペへ。

「そうではない。それでも団長という椅子に座らせたのは――未来だ。あの子には素質がある。この国の歴史に名を刻む程の騎士になる素質がな」

 そして一足先に顔を戻すとそっと顎をしゃくった。
 それに遅れて視線を中央へ戻したペペは思わず目を瞠る。その動揺全てを何とか内心だけで留めはしたが、心の中では完全に声を上げていた。

『えっ! ウソッ!』

 ペペの視界に飛び込んできたのは、丁度ルシフェルの手から弾かれ宙を舞う鞘付の刀とその向かいで剣を構えるミシェルの姿だった。
 それは相手の武器を弾き飛ばした絶好の好機。透かさずミシェルは構えた剣を射られた矢の如く突き出した。そこに迷いは無く――それは戦場で目の前の敵を倒す為の一突き。
 直後、地面へと吐き捨てられた液体は燃える様に緋く、また一滴と晴天を背に雨の様に雫が滴る。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~

こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』 公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル! 書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。 旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください! ===あらすじ=== 異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。 しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。 だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに! 神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、 双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。 トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる! ※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい ※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております ※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!

ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

処理中です...