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「もし儂が力を貸して欲しいと頼めばお主はその力を貸してくれるのか?」
「立場を弁えなさい! お前如きが――」
クレフトの言葉へ真っ先に反応したのはアルバニアだった。一歩前へ出ると棘々しい口調で声を上げるが、ペペの上げた手がそれを遮った。
そしてペペの無言の指示にアルバニアは一度頭を下げると静かに元の位置へ。
「この吾輩の力を借りたいと? 面白い。聞くだけの時間はやろう」
「我が同盟国ミラドを救って欲しい」
その名前を聞いたペペの脳裏ではサードン王国前で起きた出来事が思い浮かんでいた。
「(確かあの人もミラドとか言ってたっけ)」
「あの国とは代々友好的な関係を保ち続けているというのはあるが、王妃は儂の妹でもある」
言葉と共に微かに落ちるクレフトの視線。
「このままでは一体どんな目に合うかも分からん。あの国の住民もそして王城の者も……。騎士団を送りはしたが、お主も知っての通りそれは失敗に終わってしまった」
するとアルバニアは一歩前へ出るとペペに耳打ちをした。
「ミラドはサードンとの友好関係によって成り立つ程の小国であり、ペペ様のお眼鏡に適う兵はおりません」
「吾輩に何の得がある?」
「お主の求める得はないだろうな。戦力を削るといっても勇者にとっては微々たるものだろう」
「吾輩に友好関係など必要ない」
ぺぺはそう言って立ち上がると二人を引き連れそのまま王国の外へ。
だが門を出て広大な草原を目の前にペペは立ち止まった。
「ミラドってここから近いの?」
「他国と比べますと近くに位置してます」
なるほど、そう呟きながらぺぺは振り返り王国を見上げた。
「行かれるのですか?」
「うん。ただの同盟国って訳でもないみたいだし。相当、心配なんだろうな」
大きくは表に出さなかったものの明らかに沈んだクレフトの表情。ペペの中ではそれが気掛かりでしょうがなかった。
「ではこちらへどうぞ」
するとアルバニアはサードン王国までやってきたものと同じゲートを側に出現させた。
「えっ? もう繋がってるの?」
「はい。幾つかの場所へは既に設置済みです。ミラドもこの周辺の国家ではありますので繋がっております」
「おぉ。流石だね」
「いえ。お褒めの言葉を貰う程の事では」
そう言いつつも微笑みを浮かべたアルバニアは会釈で感謝の意を示していた。
「それじゃあ早速行こうか」
「はい」
そして三人はゲートを通り丁度、小国ミラドを一望できる崖上へと出た。
小国と言うだけあってサードンとの国土の違いは一目瞭然。だがそれより目を引くのは至る所から未だ上がり続ける黒煙。争い自体は終わりを迎えたようだが、崩壊した建物に加え王城で優雅に靡くクラガン帝国の旗がその全てを物語っていた。
「うわぁ。完全に墜とされてるね」
「恐らくですが、現状のクラガン帝国に掛かれば一日もかからずに落とせる程かと」
「まぁそうだよね」
「どうされますか?」
ミラドを見下ろすペペに一歩後ろからアルバニア様子を伺いながら尋ねた。
「さくっとクラガンのとこの兵だけ倒して帰ろうか。制圧出来てる訳だし、もう殆ど兵士も残ってないでしょ。とりあえず王城にだけ行ってさ」
「はい」
そして三人はまずミラドの正面門へ。正々堂々というより警戒してない分余り何も考えてないと言った方が正しいのかもしれない。
「小国って言ってもやっぱり門は立派だねぇ」
サードン程でないのは当たり前だが、それでも国の出入りを制御する門は立派。普段がどうなのかは分からないがクラガン帝国が制圧した今、脱走防止の意味も兼ねているのかその門は固く閉ざされていた。
「ではここは私にお任せ下さい」
するとアルバニアはペペに軽く頭を下げそう言うと、門の前へと足を進めた。
そして何をしようとしているのか、彼女の体を赤黒い魔力がオーラの様に包み込み始める。徐々に色濃くなっていく魔力は、彼女が天を仰がせた手を体の横へやるとその掌で球体を成していった。だがそれは完全な球体ではなく、無数の線状が蠢くように球体の形を成しているだけ。
それからその球体が一回り大きさを増すと、アルバニアは手を翻し球体は真っすぐ地面へと落下した。鉄球が落ちるが如く直線を描きながら地面へ到達すると、球体はそのまま液体に落ちたように呑み込まれていった。
しかし球体も魔力も消えそこには静寂の中、普段のアルバニアの後姿があるだけ。
すると数秒後、門の向こう側から鳴り響く轟音。連続した音の後、悲鳴や怒声に近い荒げた声も微かに聞こえてきた。
ペペが一人小首を傾げていると――目の前にあった硬く閉ざされた門は爆破されたかのように一瞬にして木端微塵。大きな口を開けた向こう側に広がっていたのは、地面から生えた大蛇が鎧を着た兵士を丸呑みしている光景だった。その大蛇は数えるのが億劫になる程の数で、体はアルバニアの魔力と同じ色。更にクラガン帝国の紋章が描かれた鎧を身に纏っている兵士だけを探し出し的確に狙っている。
「うわぁー。凄いなぁ。これだけの数を同時に」
そんな光景に感嘆の声を零すペペ。
「滅相もないです。この程度、ペペ様の足元にも及びませんので」
振り返り頭を深々と下げるアルバニアの背後ではまた一人と兵士が大蛇へと呑み込まれていく。
「それでは王城までの道は綺麗になりますので、どうぞ、お進みください」
「ありがとう」
「立場を弁えなさい! お前如きが――」
クレフトの言葉へ真っ先に反応したのはアルバニアだった。一歩前へ出ると棘々しい口調で声を上げるが、ペペの上げた手がそれを遮った。
そしてペペの無言の指示にアルバニアは一度頭を下げると静かに元の位置へ。
「この吾輩の力を借りたいと? 面白い。聞くだけの時間はやろう」
「我が同盟国ミラドを救って欲しい」
その名前を聞いたペペの脳裏ではサードン王国前で起きた出来事が思い浮かんでいた。
「(確かあの人もミラドとか言ってたっけ)」
「あの国とは代々友好的な関係を保ち続けているというのはあるが、王妃は儂の妹でもある」
言葉と共に微かに落ちるクレフトの視線。
「このままでは一体どんな目に合うかも分からん。あの国の住民もそして王城の者も……。騎士団を送りはしたが、お主も知っての通りそれは失敗に終わってしまった」
するとアルバニアは一歩前へ出るとペペに耳打ちをした。
「ミラドはサードンとの友好関係によって成り立つ程の小国であり、ペペ様のお眼鏡に適う兵はおりません」
「吾輩に何の得がある?」
「お主の求める得はないだろうな。戦力を削るといっても勇者にとっては微々たるものだろう」
「吾輩に友好関係など必要ない」
ぺぺはそう言って立ち上がると二人を引き連れそのまま王国の外へ。
だが門を出て広大な草原を目の前にペペは立ち止まった。
「ミラドってここから近いの?」
「他国と比べますと近くに位置してます」
なるほど、そう呟きながらぺぺは振り返り王国を見上げた。
「行かれるのですか?」
「うん。ただの同盟国って訳でもないみたいだし。相当、心配なんだろうな」
大きくは表に出さなかったものの明らかに沈んだクレフトの表情。ペペの中ではそれが気掛かりでしょうがなかった。
「ではこちらへどうぞ」
するとアルバニアはサードン王国までやってきたものと同じゲートを側に出現させた。
「えっ? もう繋がってるの?」
「はい。幾つかの場所へは既に設置済みです。ミラドもこの周辺の国家ではありますので繋がっております」
「おぉ。流石だね」
「いえ。お褒めの言葉を貰う程の事では」
そう言いつつも微笑みを浮かべたアルバニアは会釈で感謝の意を示していた。
「それじゃあ早速行こうか」
「はい」
そして三人はゲートを通り丁度、小国ミラドを一望できる崖上へと出た。
小国と言うだけあってサードンとの国土の違いは一目瞭然。だがそれより目を引くのは至る所から未だ上がり続ける黒煙。争い自体は終わりを迎えたようだが、崩壊した建物に加え王城で優雅に靡くクラガン帝国の旗がその全てを物語っていた。
「うわぁ。完全に墜とされてるね」
「恐らくですが、現状のクラガン帝国に掛かれば一日もかからずに落とせる程かと」
「まぁそうだよね」
「どうされますか?」
ミラドを見下ろすペペに一歩後ろからアルバニア様子を伺いながら尋ねた。
「さくっとクラガンのとこの兵だけ倒して帰ろうか。制圧出来てる訳だし、もう殆ど兵士も残ってないでしょ。とりあえず王城にだけ行ってさ」
「はい」
そして三人はまずミラドの正面門へ。正々堂々というより警戒してない分余り何も考えてないと言った方が正しいのかもしれない。
「小国って言ってもやっぱり門は立派だねぇ」
サードン程でないのは当たり前だが、それでも国の出入りを制御する門は立派。普段がどうなのかは分からないがクラガン帝国が制圧した今、脱走防止の意味も兼ねているのかその門は固く閉ざされていた。
「ではここは私にお任せ下さい」
するとアルバニアはペペに軽く頭を下げそう言うと、門の前へと足を進めた。
そして何をしようとしているのか、彼女の体を赤黒い魔力がオーラの様に包み込み始める。徐々に色濃くなっていく魔力は、彼女が天を仰がせた手を体の横へやるとその掌で球体を成していった。だがそれは完全な球体ではなく、無数の線状が蠢くように球体の形を成しているだけ。
それからその球体が一回り大きさを増すと、アルバニアは手を翻し球体は真っすぐ地面へと落下した。鉄球が落ちるが如く直線を描きながら地面へ到達すると、球体はそのまま液体に落ちたように呑み込まれていった。
しかし球体も魔力も消えそこには静寂の中、普段のアルバニアの後姿があるだけ。
すると数秒後、門の向こう側から鳴り響く轟音。連続した音の後、悲鳴や怒声に近い荒げた声も微かに聞こえてきた。
ペペが一人小首を傾げていると――目の前にあった硬く閉ざされた門は爆破されたかのように一瞬にして木端微塵。大きな口を開けた向こう側に広がっていたのは、地面から生えた大蛇が鎧を着た兵士を丸呑みしている光景だった。その大蛇は数えるのが億劫になる程の数で、体はアルバニアの魔力と同じ色。更にクラガン帝国の紋章が描かれた鎧を身に纏っている兵士だけを探し出し的確に狙っている。
「うわぁー。凄いなぁ。これだけの数を同時に」
そんな光景に感嘆の声を零すペペ。
「滅相もないです。この程度、ペペ様の足元にも及びませんので」
振り返り頭を深々と下げるアルバニアの背後ではまた一人と兵士が大蛇へと呑み込まれていく。
「それでは王城までの道は綺麗になりますので、どうぞ、お進みください」
「ありがとう」
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