5 / 23
5
しおりを挟む
まず一人目の一振りを潜るように避けたリナは、そのまま二人目の振り下ろしたバットを左足を軸に身を回転させ最小限の動きで躱した。
そして眼前を通り過ぎ地面を叩いたバットを持つ男越しに武器を構える三人目と目を合わせると、透かさず目の前の二人目を蹴り飛ばす。体勢を崩し三人目へと突っ込む二人目。
直後、背後から振り下ろされるバール。
だがリナは見えいるかのようにすぐさま振り返ると手首を掴み受け止めた。そしてそのまま流れるように四人目を背負い投げ。床へ背中から叩きつけた。それからバールを掴むと顔へ強烈な拳をお見舞いし、武器を奪い取った。
しかしリナに休む暇など無く、そのバールで一人目のゴルフクラブを受け止めると膝を一蹴。そのまま片膝を着いた一人目の顔を容赦なくバールで殴ると体勢を立て直した二人目へ投げ飛ばし、胸へ命中させた。
だがそんな彼女へ更にアニキが殴り掛かる。ホームランを狙うようなスイングのバットは真っすぐリナの頭部を狙うが、間に割り込んだ腕が身代わりとなった。
それを見た両手でバットを握るアニキはニヤり勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
「まずは一本目――」
しかしそんなニヤケ面と言葉を遮りもう片方の握った拳で黙らせた。
それからもリナはアクション映画の主人公宛らの圧倒的な力の差で数の暴力ごとねじ伏せてしまった。正面は当然の如く左右や背後から襲い掛かろうが、躱され、受け止められ彼女に傷を負わす事は叶わない。
それなのにも関わらず彼らは一人また一人と床へ倒れていく。強烈な拳や蹴り、壁や床に叩きつけられ、奪われた武器や壊れたテーブルの一部に椅子まで――その戦闘はまるでそれは完璧な台本があるかのようだった。
「お、おい! さっさとしろ行くぞ!」
互いに体を支えながらすっかりボロボロになった彼らは慌てながら逃げ出した。
「ご馳走様。それとお疲れ様です」
空の皿に揃えた箸を乗せたラウルは片手で食事を終えると、そのまま息一つ乱さないリナを見上げ一言。
「別に」
「にしても何だったんでしょうね」
刀を返しながら開きっぱなしのガラスが割れたドアを見つめるラウル。
「あ、あの……」
すると震えた声が聞こえ二人は同時に視線をやった。
そこに立っていたのはエプロンを着けたここの店主夫婦。
「あり、ありがとうございました」
無理やり動かしているのかお母さんは言葉の後、勢いよく頭を下げた。一歩遅れで隣のお父さんも頭を下げる。
「いえ。そんなお気になさらず。頭を上げて下さい」
返事をしたのは一歩も動いていないラウルだったが、リナが特に何か言葉を挟むことはなかった。
一方、ラウルの言葉に顔を上げる二人は未だ恐怖が拭えないといった様子。するとラウルは立ち上がり自分の座っていた椅子を差し出し、お母さんを座らせてあげた。
「さっきの連中は何なんでしょうか?」
お母さんが一息つくとリナは口調こそ相変わらずだったものの丁寧さを加えた言葉遣いでさっきのことを尋ねた。当然の質問に夫婦は一度、顔を見合わせてからお父さんの方が答え始める。
「最近、ここら辺に大きな商業施設を作ろうとしてるんですよ。でもその為にこの商店街も無くしてしまう必要があって」
「それを断ってから何度か嫌がらせはあったんですけど、こんな事は初めてです」
お母さんはすっかり荒らされた店内を恐怖と悲感の混じった双眸で見回した。
「本格的に追い出そうとしてるみたいですね」
「ですけど、助かりました。ありがとうございます」
座ったまま頭を下げるお母さん。
「でも折角、食べに来てくれたのにすみません」
そう言うと上げたばかりの頭を再び下げた。
「いえ。お気になさらず。美味しかったですよ。ご馳走様でした」
皿と箸を手に改めて感謝と会釈をしたラウル。そんな彼からお父さんはお皿とお箸を受け取った。
「それと伝票はどこかへいってしまいましたが、ちゃんと足りてはいるので。お釣りはお店に使って下さい」
そう言ってラウルはポケットからお札を数枚取り出すとお母さんへと差し出した。
だがそんな彼に両手を振り、微かに首も左右に振りながら断るお母さん。
「そんな! 食べきれてない上にこんな事態に巻き込んでしまったのに……受け取れません」
「いえ。殆ど食べ終わってましたしそれに――」
ラウルは入って来た時とは随分と変わってしまった店内を見回した。
「色々と大変でしょう」
その言葉に夫婦はお互いを見合った。二人の間に会話こそ無かったが、その代わりそこにあったのは長い年月をかけて築かれてきた確かな関係。
そしてラウルへと視線を戻したお母さんは立ち上がると頭を下げながらお代を受け取った。
「すみません。ありがとうございます」
「いえ。ご馳走様でした」
「ご馳走様でした」
ラウルに続きリナも会釈と共にそう言うと、ドアの方へ歩みを進め始めた。
「ありがとうございました」
お店を出ていく二人を揃って頭を下げ見送る夫婦。ラウルは最後に笑みと会釈をし、ガラスの割れたドアを一応閉めた。
そして眼前を通り過ぎ地面を叩いたバットを持つ男越しに武器を構える三人目と目を合わせると、透かさず目の前の二人目を蹴り飛ばす。体勢を崩し三人目へと突っ込む二人目。
直後、背後から振り下ろされるバール。
だがリナは見えいるかのようにすぐさま振り返ると手首を掴み受け止めた。そしてそのまま流れるように四人目を背負い投げ。床へ背中から叩きつけた。それからバールを掴むと顔へ強烈な拳をお見舞いし、武器を奪い取った。
しかしリナに休む暇など無く、そのバールで一人目のゴルフクラブを受け止めると膝を一蹴。そのまま片膝を着いた一人目の顔を容赦なくバールで殴ると体勢を立て直した二人目へ投げ飛ばし、胸へ命中させた。
だがそんな彼女へ更にアニキが殴り掛かる。ホームランを狙うようなスイングのバットは真っすぐリナの頭部を狙うが、間に割り込んだ腕が身代わりとなった。
それを見た両手でバットを握るアニキはニヤり勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
「まずは一本目――」
しかしそんなニヤケ面と言葉を遮りもう片方の握った拳で黙らせた。
それからもリナはアクション映画の主人公宛らの圧倒的な力の差で数の暴力ごとねじ伏せてしまった。正面は当然の如く左右や背後から襲い掛かろうが、躱され、受け止められ彼女に傷を負わす事は叶わない。
それなのにも関わらず彼らは一人また一人と床へ倒れていく。強烈な拳や蹴り、壁や床に叩きつけられ、奪われた武器や壊れたテーブルの一部に椅子まで――その戦闘はまるでそれは完璧な台本があるかのようだった。
「お、おい! さっさとしろ行くぞ!」
互いに体を支えながらすっかりボロボロになった彼らは慌てながら逃げ出した。
「ご馳走様。それとお疲れ様です」
空の皿に揃えた箸を乗せたラウルは片手で食事を終えると、そのまま息一つ乱さないリナを見上げ一言。
「別に」
「にしても何だったんでしょうね」
刀を返しながら開きっぱなしのガラスが割れたドアを見つめるラウル。
「あ、あの……」
すると震えた声が聞こえ二人は同時に視線をやった。
そこに立っていたのはエプロンを着けたここの店主夫婦。
「あり、ありがとうございました」
無理やり動かしているのかお母さんは言葉の後、勢いよく頭を下げた。一歩遅れで隣のお父さんも頭を下げる。
「いえ。そんなお気になさらず。頭を上げて下さい」
返事をしたのは一歩も動いていないラウルだったが、リナが特に何か言葉を挟むことはなかった。
一方、ラウルの言葉に顔を上げる二人は未だ恐怖が拭えないといった様子。するとラウルは立ち上がり自分の座っていた椅子を差し出し、お母さんを座らせてあげた。
「さっきの連中は何なんでしょうか?」
お母さんが一息つくとリナは口調こそ相変わらずだったものの丁寧さを加えた言葉遣いでさっきのことを尋ねた。当然の質問に夫婦は一度、顔を見合わせてからお父さんの方が答え始める。
「最近、ここら辺に大きな商業施設を作ろうとしてるんですよ。でもその為にこの商店街も無くしてしまう必要があって」
「それを断ってから何度か嫌がらせはあったんですけど、こんな事は初めてです」
お母さんはすっかり荒らされた店内を恐怖と悲感の混じった双眸で見回した。
「本格的に追い出そうとしてるみたいですね」
「ですけど、助かりました。ありがとうございます」
座ったまま頭を下げるお母さん。
「でも折角、食べに来てくれたのにすみません」
そう言うと上げたばかりの頭を再び下げた。
「いえ。お気になさらず。美味しかったですよ。ご馳走様でした」
皿と箸を手に改めて感謝と会釈をしたラウル。そんな彼からお父さんはお皿とお箸を受け取った。
「それと伝票はどこかへいってしまいましたが、ちゃんと足りてはいるので。お釣りはお店に使って下さい」
そう言ってラウルはポケットからお札を数枚取り出すとお母さんへと差し出した。
だがそんな彼に両手を振り、微かに首も左右に振りながら断るお母さん。
「そんな! 食べきれてない上にこんな事態に巻き込んでしまったのに……受け取れません」
「いえ。殆ど食べ終わってましたしそれに――」
ラウルは入って来た時とは随分と変わってしまった店内を見回した。
「色々と大変でしょう」
その言葉に夫婦はお互いを見合った。二人の間に会話こそ無かったが、その代わりそこにあったのは長い年月をかけて築かれてきた確かな関係。
そしてラウルへと視線を戻したお母さんは立ち上がると頭を下げながらお代を受け取った。
「すみません。ありがとうございます」
「いえ。ご馳走様でした」
「ご馳走様でした」
ラウルに続きリナも会釈と共にそう言うと、ドアの方へ歩みを進め始めた。
「ありがとうございました」
お店を出ていく二人を揃って頭を下げ見送る夫婦。ラウルは最後に笑みと会釈をし、ガラスの割れたドアを一応閉めた。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる