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それから空に大きく放物線を描いた太陽を見送り、寝心地の良さそうな三日月が浮かぶ頃。その月明りを拒むようにその商店街では地元民で細やかながら独自の盛り上がりを見せていた。シャッターの交る一本道は間接照明のような控えめな明るさで、不思議とどこか懐古的な感覚にさえなるような雰囲気。
ラウルとリナはその商店街にあるお店で夕食を食べていた。店内の奥――向き合う二人の間に並ぶ料理は良い意味で家庭的。高級食材も特別な料理でも無かったが、十分過ぎるほどに美味しく舌と体に馴染む味だった。
「ここを出て他に行くっていう手もありますよ。もっと腐った国もありますし」
「どうやって?」
「そうですねぇ……。ここへ来た時のように?」
その言葉に料理へ伸ばした箸を止めリナは小さく溜息を零した。
「あれ? 嫌ですか?」
意外そうな表情を浮かべながら覗き込むように少し顔を下げるラウルは、下に向けた人差し指と中指を前後させ歩きのジェスチャーをして見せた。そんな彼をリナは視線だけで見上げた。
「嫌」
「そうですか。そうは見えなかったのでてっきり平気かと」
ラウルは表情が変わらなかったと自分の顔へ円を描きながら指を向けた。
「歩くのは嫌いじゃない。でもあれはやりすぎ」
思い出しもう一度溜息が零れる。
「まぁあれは緊急事態だったので仕方ないですね。普通に交通機関を使いましょうか」
「お金は?」
「まだありますよ。ですが、そろそろ賞金首を積極的に狙った方がいいかもしれませんね」
「賞金掛かってると中々見つからないからね」
「あまり高額だと面倒ですし」
すると話をする二人の左手側(お店のドア)から如何にもお客ではなさそうな集団が中へ。彼らは黒ずくめのバンダナで顔を隠し、手にはバットやゴルフクラブなどの武器を持っていた。
不審がるお客の視線を浴びながら彼らは突然、武器をドアのガラスへと叩きつけた。ガラスの割れる怒声のような音が響いたかと思うと、今度は椅子を蹴り飛ばしテーブルを壊し暴れ始める。
「おらおら!」
「さっさと出ていかねーと怪我すんぞ!」
声を上げ、武器を振り下ろす。店内はあっという間に混乱の渦に呑み込まれ、お客は我先にと逃げ出していった。
だがすっかり荒れた店内で唯一、二人だけは何事もないかのように食事と会話を続けていた。
そんな二人へ彼らの視線が集まるのは、もはや自然の摂理。代表するように一人が近づくと大きくバットを振り上げた。
「さっさと失せろっつってんだよっ!」
言葉と共に振り下ろされたバットはテーブルの真ん中へ叩きつけられ、まだ残る料理と共に真っ二つに壊れてしまった。更に床へ放り出された料理は食器やテーブルの破片と混じりぐちゃぐちゃ。
そして丁度、料理を食べようと手を伸ばしていた最中だったリナの箸は、目的を失い空中で開いたまま停止していた。だが一方でラウルはお皿ごと持ち上げていたお陰で食べようとしていた分だけは無事。
「行儀の良さに感謝したのは初めてですね」
その一言を残し料理を口へ。
そんな向かいで停止したままだったリナはゆっくりと箸をひとまとめで握ると、音を立てずにそっと隣の席へと置いた。
「――空切さんは預かっておきますよ」
それは使うなと遠回しに伝えながら箸と共に手を差し出すラウル。無言のままリナは刀を彼へ。
そしてゆっくりと立ち上がるとリナはバットを振り下ろした男の方を向いた。交差する視線はブーツ分を引いても僅かにリナが低い。彼女を知らなければ不機嫌とも取れる無表情に比べ男は口元を隠していても分かるぐらいにニヤリ笑みを浮かべた。
「中々、良い女じゃねーか。俺好みだ」
下から上へ視線を這わせる男。だが微動だにしないリナは相変わらず。
そして男は横へ顔をやると初め先頭に立っていた男を見た。
「アニキ。こいつ持ち帰っていいっすか?」
リナを指差し、その口調からもニヤケ顔が想像出来る。
「あぁ? ――チッ。ったく。好きにしろ。それよりさっさと片付けるぞ」
面倒臭いと言いたげにアニキと呼ばれた男が答えると「あざす」なんて調子良いお礼が返る。
そして満足気に顔を戻した男だったが、その視線が再びリナを見たその瞬間――問答無用で握った手袋越しの拳が男の顔を床へと沈めた。たった一発で倒れた男とリナの行動に一瞬、店内の時が止まる。ただラウルだけは膝に刀を乗せお皿の食事を続けていた。
「おいおい。女にやられるなんて……。情けねー奴だな」
少し遅れアニキと呼ばれた男は溜息交じりで呟くと、リナの近くにいた手下へ顎をしゃくり指示を出した。それを確認し二人の男がリナの元へ。
警告など無くリナと目を合わせたまま一人がバットで殴り掛かる。
リナはその手首を瞬時に掴み受け止めると、透かさず捻りを加えた。痛みに顔を歪める男からバットを悠々と奪い取るとリナはそのまま見えていると言わんばかりに横から振り下ろされたゴルフクラブをバットで受け止めた。
それから一瞬の間を置き、リナはまずゴルフクラブの男へ足を突き出し腹部へ強烈な蹴りをお見舞い。流れるように武器を奪い取った男の脇腹へバットを片手でぶつけた。片手とは言え脇腹を押さえ悶える男の手首を離したリナは、そのまま頭を掴むと顔面へ膝蹴りを喰らわせた。
あっという間に三人の仲間がやられた事に怯んだのか、静寂が男達を包み込んだ。
「何やってる? さっさと片付けろ」
だがアニキの一言で我に返った男達はリナへと襲い掛かり始める。
ラウルとリナはその商店街にあるお店で夕食を食べていた。店内の奥――向き合う二人の間に並ぶ料理は良い意味で家庭的。高級食材も特別な料理でも無かったが、十分過ぎるほどに美味しく舌と体に馴染む味だった。
「ここを出て他に行くっていう手もありますよ。もっと腐った国もありますし」
「どうやって?」
「そうですねぇ……。ここへ来た時のように?」
その言葉に料理へ伸ばした箸を止めリナは小さく溜息を零した。
「あれ? 嫌ですか?」
意外そうな表情を浮かべながら覗き込むように少し顔を下げるラウルは、下に向けた人差し指と中指を前後させ歩きのジェスチャーをして見せた。そんな彼をリナは視線だけで見上げた。
「嫌」
「そうですか。そうは見えなかったのでてっきり平気かと」
ラウルは表情が変わらなかったと自分の顔へ円を描きながら指を向けた。
「歩くのは嫌いじゃない。でもあれはやりすぎ」
思い出しもう一度溜息が零れる。
「まぁあれは緊急事態だったので仕方ないですね。普通に交通機関を使いましょうか」
「お金は?」
「まだありますよ。ですが、そろそろ賞金首を積極的に狙った方がいいかもしれませんね」
「賞金掛かってると中々見つからないからね」
「あまり高額だと面倒ですし」
すると話をする二人の左手側(お店のドア)から如何にもお客ではなさそうな集団が中へ。彼らは黒ずくめのバンダナで顔を隠し、手にはバットやゴルフクラブなどの武器を持っていた。
不審がるお客の視線を浴びながら彼らは突然、武器をドアのガラスへと叩きつけた。ガラスの割れる怒声のような音が響いたかと思うと、今度は椅子を蹴り飛ばしテーブルを壊し暴れ始める。
「おらおら!」
「さっさと出ていかねーと怪我すんぞ!」
声を上げ、武器を振り下ろす。店内はあっという間に混乱の渦に呑み込まれ、お客は我先にと逃げ出していった。
だがすっかり荒れた店内で唯一、二人だけは何事もないかのように食事と会話を続けていた。
そんな二人へ彼らの視線が集まるのは、もはや自然の摂理。代表するように一人が近づくと大きくバットを振り上げた。
「さっさと失せろっつってんだよっ!」
言葉と共に振り下ろされたバットはテーブルの真ん中へ叩きつけられ、まだ残る料理と共に真っ二つに壊れてしまった。更に床へ放り出された料理は食器やテーブルの破片と混じりぐちゃぐちゃ。
そして丁度、料理を食べようと手を伸ばしていた最中だったリナの箸は、目的を失い空中で開いたまま停止していた。だが一方でラウルはお皿ごと持ち上げていたお陰で食べようとしていた分だけは無事。
「行儀の良さに感謝したのは初めてですね」
その一言を残し料理を口へ。
そんな向かいで停止したままだったリナはゆっくりと箸をひとまとめで握ると、音を立てずにそっと隣の席へと置いた。
「――空切さんは預かっておきますよ」
それは使うなと遠回しに伝えながら箸と共に手を差し出すラウル。無言のままリナは刀を彼へ。
そしてゆっくりと立ち上がるとリナはバットを振り下ろした男の方を向いた。交差する視線はブーツ分を引いても僅かにリナが低い。彼女を知らなければ不機嫌とも取れる無表情に比べ男は口元を隠していても分かるぐらいにニヤリ笑みを浮かべた。
「中々、良い女じゃねーか。俺好みだ」
下から上へ視線を這わせる男。だが微動だにしないリナは相変わらず。
そして男は横へ顔をやると初め先頭に立っていた男を見た。
「アニキ。こいつ持ち帰っていいっすか?」
リナを指差し、その口調からもニヤケ顔が想像出来る。
「あぁ? ――チッ。ったく。好きにしろ。それよりさっさと片付けるぞ」
面倒臭いと言いたげにアニキと呼ばれた男が答えると「あざす」なんて調子良いお礼が返る。
そして満足気に顔を戻した男だったが、その視線が再びリナを見たその瞬間――問答無用で握った手袋越しの拳が男の顔を床へと沈めた。たった一発で倒れた男とリナの行動に一瞬、店内の時が止まる。ただラウルだけは膝に刀を乗せお皿の食事を続けていた。
「おいおい。女にやられるなんて……。情けねー奴だな」
少し遅れアニキと呼ばれた男は溜息交じりで呟くと、リナの近くにいた手下へ顎をしゃくり指示を出した。それを確認し二人の男がリナの元へ。
警告など無くリナと目を合わせたまま一人がバットで殴り掛かる。
リナはその手首を瞬時に掴み受け止めると、透かさず捻りを加えた。痛みに顔を歪める男からバットを悠々と奪い取るとリナはそのまま見えていると言わんばかりに横から振り下ろされたゴルフクラブをバットで受け止めた。
それから一瞬の間を置き、リナはまずゴルフクラブの男へ足を突き出し腹部へ強烈な蹴りをお見舞い。流れるように武器を奪い取った男の脇腹へバットを片手でぶつけた。片手とは言え脇腹を押さえ悶える男の手首を離したリナは、そのまま頭を掴むと顔面へ膝蹴りを喰らわせた。
あっという間に三人の仲間がやられた事に怯んだのか、静寂が男達を包み込んだ。
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